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2010年3月25日 (木)

ベルゲン鉄道を地図で追う IV-近代化と保存鉄道

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ヴォス駅

山地の西側を降りていくベルゲン行きの列車が初めて出会う町が、ヴォス Voss だ(右写真)。ここもまたウィンタースポーツのリゾートの一つだが、遠来の観光客にとっては、世界遺産に登録されたネーロイフィヨルド Nærøyfjord への玄関口としての印象が強いだろう。ヴォス駅の標高は57mしかなく、列車の山越えはこれで終わりだ。この後も険しい地勢が続くが、線路は谷底の水際にへばりつくように敷かれている。ベルゲンまでは86km、優等列車で急いでもまだ1時間以上かかる。

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ヴォス~ベルゲン間の地形図

ベルゲン鉄道の最初の開通区間がベルゲン~ヴォス間であったことは、前に述べた。この通称ヴォス鉄道 Vossebanen は1875年に認可され、1883年に開通している。鉄道建設が首都のある東海岸ではなく、山がちな西海岸で先行した理由は、この地方の産業事情が関わっている。19世紀中盤は、欧米諸国で工業化が進展した時代だ。交易の活発化で商船需要が高まって、海運国ノルウェーは豊かな富を得た。ベルゲンはその中心地の一つだった。この地方では、有り余る水力を背景にして繊維、製紙業が盛んになり、電力を使う化学工業も興っていた。資金集めに有利な条件が揃っていたことが、早期の事業化に道を拓いたのだ。

ヴォス鉄道の軌間は、日本のJRなどと同じ1067mmの狭軌だった。山間部が多い土地柄、建設費を抑えるために狭軌が適していると当局が考えたのも、わが国と共通している。フィヨルドの懸崖に沿う線路には、最急勾配20‰(1/50)、最小曲線半径192mという厳しい線形が採用されたが、それでもトンネルの数が、最長1286mを筆頭に計51本、総延長で全線の1割近くを占めた。

鉄道は、しばらくヴォスを終点とする孤立線だった。東方への延長計画が認可されたのは、それから15年も後になる。その1890年代はノルウェーでのゲージ(軌間)論争が決着した時期で、新線は標準軌1435mmとすることが決定した。接続するヴォス鉄道も改軌の対象となり、トンネル断面の拡張に加えて、急曲線の緩和が計画に盛り込まれた。1899年から始まった改修工事は1904年に完成し、列車を運休させることなく一夜で軌間の切替が実施された。

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ヴォス~ベルゲン間のルート概略図

ベルゲン鉄道は国の東西を結ぶ幹線とあって、歴史の古いベルゲン~ヴォスルートにはその後も大きく手が入れられている。その概略を描いたのが上図だ。危険個所に長大トンネルを何本もうがって直線化していく様子は、北陸本線糸魚川の前後を思い出させる。ヴォス始発のローカル列車に乗換えて追ってみよう。

14時35分、ヴォスを出発すると、左の車窓にヴァング湖 Vangsvatnet が広がる。しかしそれも束の間で、すぐに新しいトンネルに突っ込んでしまい、闇を抜けたブルケン Bulken はもう湖の端だ。湖から流れ出すヴォッソ川 Vosso を渡って左岸へ移り、峡谷の中をエヴァンゲル Evanger、ボルスターデイリ Bolstadøyri と進む。ここで鉄道はついに標高0mに到達する。川がボルスタードフィヨルド Bolstadfjorden に流れ込み、そのまま外洋につながっているからだ。しかし、中小のトンネルが断続していた旧線は放棄され、現在、線路は同鉄道で2番目に長い8043mのトロルコナトンネル Trollkonatunnelen に導かれる。これを出れば、地域の中心地ダーレ Dale に着く。

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ベルゲン近郊の地形図

ダーレを15時03分発車、次のスタングヘレ Stanghelle でヴェアフィヨルド Veafjorden に出合う。これから30km弱の間、波静かなフィヨルドの風景が右手車窓に続いて、旅の最後の景勝区間となっている。ソールフィヨルド Sørfjorden に渡された同国3番目の規模の吊橋、オステロイ橋 Osterøybrua(道路橋)が近づけば、のどかな眺めも見納めだ。列車は再びトンネルに吸い込まれ、アルナ Arna 停車後、7670mのウルリケントンネル Ulrikentunnelen を経て15時52分、ベルゲン駅に到着する。

ルート改修の中でも、1964年に完成したトゥネスヴェイテン Tunesveiten(地名。駅はない)~ベルゲン間の直線化はとりわけインパクトが大きかった。この区間の旧線は自然地形に忠実に沿って造られたため、延長33kmの大回りをしていたが、2本の長大トンネルによって11kmとなり、所要時間で30分もの短縮効果があった。両トンネルにはさまれたアルナ Arna は都心へ10分以内となって都市化が進み、ベルゲンとの間に毎時2~3本のシャトル列車が設定されている。

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旧ヴォス鉄道
リーフレット

一方、列車の姿が消えた旧線のその後だが、フィヨルドの岬の先端ガルネスGarnesと迂回路の南端に近いミットゥン Midttun 間18kmは保存鉄道「旧ヴォス鉄道 Gamle Vossebanen、英語名 Old Voss Line」となり、ノルウェー鉄道クラブ Norsk Jernbaneklubb がSL列車を走らせている(右写真はリーフレット表紙)。運行期間は6月中旬から9月中旬の毎日曜日で、1913年製造の蒸機が1920~30年代の木造客車を牽いて走る片道50分の旅だ。途中、湖岸を眺め、古いトンネルでは煙の匂いを嗅いで、旧線時代の雰囲気をたっぷり味わうことができる。拠点駅はガルネスで、構内が復元され、博物館も併設されている。アクセスとしては、アルナで乗り継ぐ(新駅から旧駅まで300m)か、アルナからガルネスへバスもあるそうだ。

ミットゥンから先、クロンスタ Kronstad までは自転車道などに転換されてしまったが、クロンスタ~ベルゲン間は2000年ごろまで貨物営業があったため、レールが残されている。

実は、現在のベルゲン駅もヴォス鉄道当時のオリジナルではない。オスロ直通で手狭になるため、1913年に移築拡張されたのが現在の姿で、旧駅は新駅の西側、小ルンゲゴース湖 Lille Lungegårdsvannet に面していた(現在の湖は埋立てで縮小・整形されている)。線路も、旧駅からまっすぐ南下し、大ルンゲゴース湖 Store Lungegårdsvannet の西端を鉄橋で渡ってミンデ Minde に達していた。しかし、新駅開設と同時に、湖の東を回る形に付替えられて廃線となってしまった。100年も前の話なので、今その跡を追うことは難しい。

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ベルゲン駅

ところで、ベルゲンではLRTの開業が話題になっている。2010年6月22日に、都市公園 Byparken と南郊のネストゥン Nesttun を結ぶ9.8kmの区間で走り始める予定だ(下記参考サイト「ベルゲンライトレール」参照)。これを第1期として、今後、空港や北郊への延長も計画されている。市内には1897~1965年の間、路面電車が存在したので、45年ぶりの復活ということになる。今回開業する区間は、起点から終点までちょうどヴォス鉄道旧線に並行している。旧線跡との間に直接、ルートの重複はないのだが、もしあの時レールが撤去されなければ、鉄道線をそっくりLRTに転換するという選択肢があったかもしれないと想像するのも、興味深いことだ。

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ベルゲンライトレール

(2015年4月28日写真追加)

本稿は"OSLO - BERGEN The Bergen Railway" NSB brochure および John Cranfield "The Railways of Norway" John Cranfield, 2000、Wikipedia英語版、ノルウェー語版を参照して記述した。
冒頭のヴォス駅の写真は、1990年代に現地を訪れたT.T.氏から、ベルゲン駅とベルゲンライトレールの写真は、2014年に現地を訪れた海外鉄道研究会の松本昌太郎氏からそれぞれ提供を受けたものだ。ご好意に心より感謝したい。
地形図は、地図局 Statens Kartverk のデータベースによる地図閲覧サイト kart i skolen の画像を使用した © www.avinet.no 2009

■参考サイト
ベルゲン鉄道の参考サイトは、下記「ベルゲン鉄道を地図で追う I-オスロへのアプローチ」の末尾にまとめた。
ノルウェー鉄道クラブ 旧ヴォス鉄道 http://www.njk.no/vossebanen/
ベルゲンライトレール Bybanen i Bergen  http://www.bybanen.no/

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