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2010年2月25日 (木)

ノルウェーの絶景路線 ラウマ鉄道

ノルウェー西部の海岸線を南から北へたどっていくと、主要都市ベルゲン Bergen とトロンハイム Trondheim の間にもう1か所、鉄道が海岸に現れる場所がある。オンダルスネス Åndalsnes という小さな港町だ。路線は、山中のドンボース Dombås 駅でトロンハイムへ北上するドヴレ鉄道 Dovrebanen から分岐した長さ114kmの支線で、並行する川の名を取ってラウマ鉄道 Raumabanen(下注)と呼ばれている。

*注 直訳でラウマ「鉄道」としたが、ドヴレ鉄道などと同様、鉄道庁 Jernbaneverket が管理し、ノルウェー鉄道 Norges Statsbaner(略称 NSB)が運行する路線の一つ。NSBでも英訳は Rauma Line(ラウマ線)としている。

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ドンボース駅でドヴレ鉄道と接続を取るラウマ鉄道の93形気動車

通常は毎日4往復の旅客列車しか走らない非電化のローカル線なのだが、夏のシーズンに運行される観光列車はとりわけ人気が高い。ラウマ鉄道は何のために建設されたのか、何が観光客をひきつけるのか、少し探ってみよう。

なお、掲載した写真はすべて、2015年8月に現地を訪れた海外鉄道研究会の田村公一氏から提供を受けたものだ。ご好意に心から感謝したい。

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ラウマ鉄道の位置

ラウマ鉄道の最終目的地は実はオンダルスネスではなく、フィヨルドの岸をさらに西へ120kmたどった先にあるオーレスン Ålesund だ。ノルウェー漁業の中心地の一つで、20世紀初めの大火から復興する過程で形成されたユーゲントシュティール(ドイツ語圏のアールヌーボー)の街並みでも知られている。鉄道の開通は、地域の人々にとって50年越しの悲願だった。オーレスンへの鉄道建設構想が地方議会を通過したのは1873年で、複数の候補の中から、建設費が最も安く、東部への最短ルートとなるロムスダール Romsdalen(下注)を通る案が採用された。

*注 dal、dalen は谷の意。語尾のenは定冠詞(後置定冠詞)で、dalen は英語なら the valley に当たる。鉄道路線の bane と banen なども同様。

本線であるドヴレ鉄道は、最後に残ったドンボース~オップダール Oppdal 間が1921年9月につながって全通を果たした。それと時をほぼ同じくしてラウマ鉄道も、最初の区間ドンボース~ビョーリ Bjorli 間が開通し、1923年にヴェルマ Verma まで延長、1924年11月にオンダルスネスの港に到達している。鉄道のオーレスンへの延長はついに実現しなかったが、連絡バスをNSBが走らせているのはその名残りらしい。

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ドンボース駅待合室にあったラウマ鉄道75周年(1999年)のパネル
右はヒッリング橋建設当時の写真

最近、ノルウェーでも高速新線(ノルウェー語で Høyhastighetsbane)の建設が進められていて、ドヴレ鉄道に並行するオスロ~トロンハイムのルートとともに、ドンボース~オーレスン間も候補に挙がっている。国内の主要都市を時速200km以上の列車で結ぶというあまりにも壮大な計画の一部ではあるが、将来、オーレスンへ列車で直接行ける日がやってくるのかもしれない。

ラウマ鉄道の2010年夏の時刻表(5月29日~8月29日)を見ると、全線を完走するのは2便のみで、あとの2便はオンダルスネスと中間駅のビョーリとの往復便だ(下注)。ふつうに走れば45分程度の距離にどの列車も1時間かけているのは、SL牽引と観光停車を見込んでのことだろう。見どころは確かにビョーリ以西に集まっているのだが、鉄道ファンとしては起点から順を追って見ていきたい。

*注 2015年夏の時刻表では、SL列車は姿を消し、平日は4往復(土曜2往復、日曜3往復)とも気動車による全線通しの運行になっている。

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ラウマ鉄道の沿線風景
背景はトロールヴェッゲン
(オンダルスネスの観光パンフレットより)
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地形図で見るラウマ鉄道全線

ドンボースは、ドヴレ鉄道がずっと遡ってきたグドブランスダール Gudbrandsdalen の途中にある小さな村に過ぎない。それで、駅も乗換え客のために存在するようなものだ。ホームは2面2線、ラウマ鉄道オンダルスネス行きの列車は駅舎寄りの1番線に停車して、接続列車の到着まで静かに待機する。

駅はすでにかなりの高みに位置していて、はるか下の谷底から緑の牧草地が足もとまで這い上がってきているのが見える。ドヴレ鉄道はこれからさらに山手へと坂を上っていく。ラウマ鉄道も一応峠を越えなければならないのだが、おもしろいことに、標高630m前後の峠よりもこの駅(同 659m)のほうが高所にある。峠までは等高線に沿うように山腹をたどり、川が高度を上げてくるのを待つような形だ。

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ドンボース駅 (左)駅舎 (右)構内を区切るトンネルと円形機関庫
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牧草地が谷底から駅のある高みまで上がってくる

現在、ラウマ鉄道の旅客輸送を担っているのは、銀と赤に塗り分けたノルウェー鉄道の93形、2001年に導入されたボンバルディア社の連接式気動車だ。カーブの多い山岳線にふさわしく、振り子制御を効かせて走る。車内に飲み物やスナックの自販機を備えているのは、観光路線としてのささやかなサービスだろう。

ドヴレ鉄道の列車が隣のホームに到着し、乗客の移動が終われば、いよいよオンダルスネスへ向けて出発だ。駅構内を区切る短いトンネルを抜けると、すぐにドヴレ鉄道が右に分かれていき、ラウマ鉄道本来の孤独な旅が始まる。

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(左)発車を待つオンダルスネス行き (右)窓が大きく取られ開放的な車内

ヨーリ川 Joli を渡った後しばらくは、ドヴレ鉄道で見てきたのと同じような氷河由来の雄大なU字谷の風景が続いている。レスヤ Lesja 駅の前後が特に広々と感じられるのは、19世紀にかつての湖(レスヤ湖 Lesjavatnet)を排水した跡だからだ。標高633mのレスヤヴェルク Lesjaverk 駅からは左手に本物の湖(レスヤスコーグ湖 Lesjaskogsvatnet(レスヤスコーグはレスヤの森の意))が見え隠れし、しばらくそれに沿って走る。地名に Verk(英語の Work)とあるのは、17世紀から19世紀初めまで鉄の生産地であったことを示している。実は湖も1660年代に、輸送のために川の流量を調整する目的で堰止められた人造湖なのだそうだ。

湖を見送ると、川が逆方向、列車の進行方向に流れているのに気づくだろう。湖は半島分水界の上にあって、水は北海(スカゲラク海峡 Skagerrak)と大西洋の両方に流れ出ている。ベルゲン鉄道のような峠らしい峠を経験しないまま、線路は大西洋斜面の緩い下り坂に入り、ビョーリ駅に到着する。

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レスヤ湖の跡は緑豊かな耕地に変貌
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(左)レスヤスコーグ湖が見え隠れする(帰路写す) (右)ビョーリ駅舎

昼間の観光列車の運行区間がビョーリ以西である理由は、スカンジナビア山脈が西に大きく偏っていることと関係している(下注)。オスロから延々 390kmも走って稼いだ高さをわずか60数kmで下りきらなければならない。この急激な高度の変化がさまざまな見せ場を提供してくれる。ビョーリを出て2つ目の橋、鉄道写真にも登場するストゥグフローテン Stuguflåten 橋を渡れば、車窓ドラマの幕開けだ。

*注 先述のとおり、2015年現在、ビョーリ折返しの列車はない。

■参考サイト
Wikimedia - ストゥグフローテン橋の写真
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Stugufl%C3%A5ten_Bridge.jpg

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(左)ストゥグフローテン橋を渡る (右)向かいの谷壁を流れ落ちるヴェルマ川

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ヴェルマ付近の地形図

ゆったりと流れてきたラウマ川がここから俄かに荒々しい急流へと変貌する。それに対する鉄道は20‰の下り勾配を維持したまま、谷の東斜面を進むので、谷底との高度差がすぐに100m以上開いてしまう。これを克服するために設計者が採用したのが、反転を繰返して谷を下りる方法だ(右の地形図)。スイスのゴットハルト鉄道 Gotthardbahn やレッチュベルク鉄道 Lötschbergbahn が有名だが、スカンジナビア半島ではここにしかない。

これにより、ヴェルマ Verma 旧駅をはさむ7.4kmで高度を120m下げる。馬蹄カーブの半径は275mだが、狭い山中のため上部側はトンネルで、下部側は橋で対岸に渡ることにより回転スペースを確保している。

反転に入る前、向かいの谷には、高さ380mの谷壁を滝となって流れ落ちるヴェルマ川が眺められる。下方で水流が二又に分かれているが、そこを横一文字に横断しているのが、これから降りていく線路だ。と思う間に列車は、長さ1340mのスタヴェムトンネル Stavemstunnelen に突入する。1回目の反転が、この闇の中で行われる。トンネルを出たらすぐに、右の車窓に注目してほしい。ラウマ川が潤す緑の谷を、比高200m近い高みから俯瞰できる沿線屈指のビューポイントが待っているからだ。車内のアナウンスがあり、列車も(おそらく)徐行するので見逃す心配はない。

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ラウマ川が潤す緑の谷の俯瞰

2回目の反転もトンネルで始まるが、すぐに抜け出て、深いラウマ峡谷をひとまたぎするヒッリング橋 Kylling bru にさしかかる。長さ76m、水面からの高さ59mのスリリングな石造アーチだ。むろんここでも列車は徐行して、遠来の乗客を飽きさせない。橋を渡ればまもなく左側に、さきほど見えていたヴェルマ滝 Vermafossen が現れる。目と鼻の先にある岩場を水しぶきを飛ばして落ちているので、迫力は抜群だ。しばらくそのまま谷の斜面を降りていき、再度ラウマ川を渡るフォス(滝)橋 Fossbrua でようやく線路は谷底に届く。

■参考サイト
Wikimedia - ヒッリング橋の写真
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Kylling_bru_08062008.JPG

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(左)ヒッリング橋を遠望 (右)ヒッリング橋の上から見たラウマ川の上流側
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目の前にヴェルマ滝が

終盤は、ゆったりとした流れに戻ったラウマ川に沿って走る。中でも注目の一つは、右の岩壁にかかるモンゲ滝 Mongefossen だ。車窓には次から次と落差の大きな滝が現れては去っていくので、珍しくもないかもしれないが、これは高さ773mと、ロムスダールで最大どころか、世界でも第4位の規模とされている。残念ながら、水力発電に水を取られて、1年の大半は乾いてしまっているという。

このあたり、谷を取り囲んでいる山々は非常に急峻で、あたかも天を支える屏風を思わせる。車窓左側に連なるのがトロールティンデネ Trolltindene(下注)と呼ばれる峰々、右側は尖峰ロムスダールスホーネ Romsdalshornet を擁する山塊だ。中でも有名なのが、前者の一部を構成している断崖、トロールヴェッゲン Trollveggen(トロール岩壁の意)で、川向うにあるので車窓からもよく見える。谷底からの高さは何と1,100m、ヨーロッパ随一の垂直な岩壁として知られ、最上部は麓から50mほどオーバーハングしているそうだ。扇状に開いた大規模な崩壊地を従えているので、すぐに気づくだろう。

*注 下の地形図には Trolltindan とあるが、これはニーノシュク Nynorsk(西海岸で使われる公用語)による表記。

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崩壊地の左の断崖がトロールヴェッゲン
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緩やかに流れるラウマ川、背後の尖峰はロムスダールスホーネ
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トロールヴェッゲン付近の地形図

ダイナミックな景色を堪能しているうちに早や終点が近づいている。湾に突き出た岬を回りこむようにして、列車は1時間20分の旅を終え、オンダルスネス駅の構内に迎えられる。
(2015年9月2日改稿)

■参考サイト
Wikimedia - オンダルスネス駅構内の写真
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:0807_16c_taki_tam_widoczek_na_stacje_kolejowa_Andalsnes.jpg

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(左)河口間近 (右)オンダルスネス駅舎
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終点オンダルスネス周辺の地形図

■参考サイト
ノルウェー鉄道時刻表  https://www.nsb.no/en/timetables/timetables
 路線ごとのPDFファイルがある。
 ラウマ鉄道は Local 22 Åndalsnes - Dombås

本稿はJohn Cranfield "The Railways of Norway" John Cranfield, 2000 をもとに、Wikipedia英語版、ノルウェー語版を参照して記述した。
地形図は地図局 Statens Kartverk のデータベースによる地図閲覧サイト kart i skolen の画像を使用した (c) www.avinet.no 2009, 2015

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