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2010年2月11日 (木)

ノルウェーの地形図

スカンジナビア半島の自然は東と西で対照的だ。冬には凍結してしまう東のボスニア湾に比べて、西のノルウェー海は北上する暖流のおかげで海が凍らず、気候もそれだけ優しい。しかしその反対に、地勢は東岸が低くて、西に向かって徐々に高度を上げていき、西岸では標高2000m以上に上昇した山塊が一気に海に落ち込んでいる。農地に適した平地はわずかしかない。半島の西側を占めるノルウェーが漁業を伝統的な主要産業としているのも、必然性のあることなのだ。

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1:50,000索引図の一部

万年雪から流れ下る氷河、岩山に点在する大小の湖、フィヨルドの静かな入江とそそりたつ岩壁。ノルウェーの国土には、ダイナミックかつ千変万化の造形が南北2000kmにわたって続いていて、筆者がこの国の地形図に強く惹かれる理由もそこにある。ただし、全土にわたって整備されている地形図は縮尺1:50,000(M711シリーズ)が唯一のもので、ヨーロッパ諸国では例外的にシンプルな体系だ。他の縮尺もあるにはあるが、地形図として刊行されておらず、主題図のベースマップでしか見ることができない(下注)。

*注:紙地図はこれだけだが、デジタル地形図としては、1:50,000~1:5,000,000のラスタデータ、ベクトルデータが整備されている。

国の測量機関は、環境省に属する地図局 Statens Kartverk(英語名称 Norwegian Mapping Authority)で、1986年に前身のノルウェー地図測量局 Norges Geografiske Oppmåling を引継ぐ形で設立された。改組以前から地形図のほかに旅行地図や道路地図のような主題図も手がけていたが、紙地図についてはデジタル化の進行に合わせて大幅な見直しがかけられた。現在も1:50,000地形図は地図局が刊行元になっているものの、印刷はユーグランITグループ Ugland IT Group、販売は民間出版社であるカペレン・ダム社 Cappelen Damm AS に委ねられている。それ以外の主題図は完全に地図局の手を離れ、ユーグランITグループが製作・販売を行うようになった。

【追記 2011.9.1】ユーグランITグループは、2011年2月からノーデカ社 Nordeca AS に改称した。

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1:50,000地形図表紙
(左)オスロ 1976年修正
(中)ベルゲン 1986年修正
(右)オスロ 2007年修正

旅行地図などの詳細は稿を改めるとして、ここでは1:50,000地形図を紹介しておこう。本土全域(スヴァールバルなどの離島は除く)を計727面でカバーするこのシリーズは、旧米国陸軍地図局AMSの支援を得て1950年代に刊行が始められたものだ。広げると横55.5×縦74.0cmの縦長サイズになる。図郭は縦方向が緯度15分刻みで一定だが、横方向は北緯62度以南が経度22度30分、62~68度までが同30分、68度以北は同36分と変えている。これほど刻みを広げても、最南端に近いクリスチャンサン Kristiansand と最北端ノールカップ Nordkapp の図葉を比べると、横幅は後者のほうがやや狭く、南北方向の長さが実感できる。

地勢表現は20m間隔の等高線だけで、ぼかし(陰影)などの直感的な描写は加えられていない。しかし、いくら急傾斜でも等高線は間引かれないので、フィヨルドの断崖などはほとんど塗り潰したようになり、おのずと立体感が現れている(サンプル図は下記参考サイト参照)。

Blog_norway_50k_legend 一方、地図記号は筆者の知る20年ほどで劇的といえるほどの変貌を遂げてきた。もともと軍用地図の転用からスタートしているので、1980年代まではAMSの図式を準用していた。市街はグレー(黒色の網掛け)、耕作地は白抜きで、赤で塗った道路がアクセントとなるほかは地味な色調だった。

1988年に実施された図式改訂はデジタル編集に対応するもので、印刷方式もスポットカラー(特色インクを使用)からプロセスカラー(CMYKの4色)に変わった。網点の解像度が低めのため等高線のシャープさが若干落ちたが、耕作地にゴールデンイエローのベタ塗りが配されたので、図の印象はぐっと明るくなった。あまり目立たないものの、山小屋やキャンプサイト、スキーコースなどのレジャー情報も加えられている。

2005年の改訂はさらに目覚しく、市街地の配色がグレーの濃淡からサーモンピンクの濃淡に置き換えられ、街路にも茶色の塗りが施された。これらを組合せるといささかくどい色彩になる。この国では市街地の範囲が限られるのでまだしも、日本の地形図に適用したら錯雑感のほうが勝るだろう。

軍用地図で試作されていたコンビ・マップ Combi-Map(M711LWシリーズ)の仕様に基づいて、海域の情報が大幅に拡張されたのも、このときからだ。以前から水深と10mの等深線は表示されていたのだが、等深線が沖合いまで拡大され、段彩が施された。それだけでも地形図では他に類例を見ないのに、灯台の光が角度ごとに色分けされ、隠顕岩、浅瀬、ブイの種別など記号が海図並みに増やされた(右上写真は凡例の一部、サンプル地図は下記サイト参照)。

日本のように青い網掛けのみという地図も多いなか、ノルウェーの地形図に描かれた海は陸地顔負けの賑やかさで、海洋王国らしいデザインといえるだろう。もとより海図を代替するものではないので、「この地図は航海用にデザインされていない。正式海図を使用のこと」と、利用者に釘をさすのを忘れてはいない。

最後に地形図の入手についてだが、各図葉には図番 Kartbladnummer(ベルゲン Bergen図葉なら 1115 I)とは別に独自の発注番号 Bestillingsnummer(同 29)が付されている。この番号は、同じ図葉でも折図と平図で異なり、セット販売する場合も別の番号が与えられる。索引図にも記されているので見つけるのは容易だが、発注する者にとって体系の異なる2つのコードが並存するのは紛らわしかった。文書で注文を出していた頃は、発注番号だけではなんとなく不安なので、結局、図番も併記したことを思い出す。

購入先としては、ノルウェー国内では、上記のカペレン・ダム社のサイトの価格が最も安く、国外へも送ってくれる。しかし、扱っているのは1:50,000地形図だけで、ユーグランITグループが刊行する主題図は対象外だ。おそらくそのジャンルはカペレン・ダムのオリジナル編集図と競合するからだろう。一方、ユーグランは国営時代の名を引き継ぐカルトブティッケン(地図販売所の意)Kartbutikken.no という販売サイトを運営しており、1:50,000も扱っている。しかし、サイトのユーザ登録が国内仕様のため、国外からは別途文書かメールでの発注を余儀なくされる。また、残念なことに2社のサイトともノルウェー語のみだ。旅行地図などは他国からの需要も見込めるのだから、せめて英語サイトの構築を望みたい。

■参考サイト
ノルウェー地図局 http://www.statkart.no/
1:50,000索引図(PDFファイル、9.56MB)は、トップページ > Norge 1:50 000/M711 > 右メニューの"Kartbladinndeling (Map sheet index)"。
直接リンク(リンク切れご容赦)
http://www.statkart.no/filestore/Landdivisjonen_ny/Kart_og_produkter/bNorge__/Kartbladinndeling_2008_20090121.pdf
サンプル地図(PDFファイル、3.47MB)は、トップページ > Norge 1:50 000/M711 > 右メニューの"Se på produktet (View the products)"
直接リンク(リンク切れご容赦)
http://www.statkart.no/filestore/Landdivisjonen_ny/Kart_og_produkter/bNorge__/Bre_fjell_Kyst_Skog.pdf
地図閲覧サイト、販売店については「官製地図を求めて-ノルウェー」にまとめた。

★本ブログ内の関連記事
 ノルウェーの道路地図
 ノルウェーの旅行地図
 スヴァールバル諸島の地形図

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コメント

百聞は一見に如かず!素晴らしいですね。

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