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2009年11月26日 (木)

日本鉄道旅行地図帳 歴史編成

今年(2009年)4月に12巻で完結した新潮社「日本鉄道旅行地図帳」に、11月20日、外地編2巻が追加された。タイトルを「日本鉄道旅行地図帳 歴史編成 朝鮮・台湾」「同 満洲・樺太」といい、日本がこれらの地域に関与していた1945(昭和20)年以前に記述対象を限定した、この上なくユニークな鉄道地図帳だ。

既刊の国内編と同じ体裁をとっているが、いうまでもなく実際の旅行に持参する実用品ではない。64年前の敗戦で図らずも断絶してしまった外地の鉄道網を、幹線から産業軌道まで忠実に再現しようとした過去完了形の地図だ。当時すでに存在しなかった路線や施設も廃線廃駅の扱いで記載しているので、一目でわかる外地鉄道発達史と言い換えてもいい。地形図で内外の鉄道の軌跡を追っている筆者にとっては心待ちにしていた企画で、しかも1冊680円の大衆価格で提供されるとあっては夢のようだ。

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日本鉄道旅行地図帳 歴史編成

その一冊、朝鮮・台湾編は「一目でわかる東京からの時間・距離(昭和15年)」というページから始まっている。これが、いわば歴史編成2巻のプロローグだ。北は上野駅から稚内を経て樺太の豊原へ、南は東京駅から門司を経て台湾の高雄へ、東は下関から釜山、奉天、そしてロシア国境の満洲里へ、当時の交通路は鉄道と航路をつなげて南北4700km、東西4000kmもの範囲を覆っていた。代表的な列車の到達日数を主要駅ごとに追うだけでも、この地図帳が扱うネットワークの広大さが伝わってくるだろう。

各地域の構成はおよそ次のようだ。まず地域全体の概観図がある。この図だけは1945年以降に開通した路線も描かれているので、戦前戦後を通じた路線網の整備状況が比較できる。続く略年表は、簡潔かつ的確にまとめられている。先に進む前に、ここでプロフィールを頭に入れておきたい。

メインの全線全駅鉄道地図は、国内編と似た仕様だが、現役線、廃線を問わず一つの図にまとめられている。記号はどうか。まず鉄道路線は、内地の国鉄に相当するものを黒(南満洲鉄道は藤色)、私鉄線を深緑、その他の鉄道を赤の細線で描く。廃線はそれぞれ色を変えている。駅は、機関区設置駅を色で区別するほか、信号所、軍用信号場、貨物駅、さらにスイッチバック駅にも記号を与えている。主要都市は拡大図が用意され、路面電車のルートが移設の跡を含めて克明に描かれている。

既刊シリーズの特色だった旅行地図というサブテーマも疎かにされてはいない。名産品や温泉場の注記、吹き出しの一口コメントといった文字情報に加えて、古い市街図や初三郎の鳥瞰図、実景写真が臨場感を盛り上げる。さらに、乗車券、駅のスタンプ、駅弁掛紙といった鉄道コレクションが随所に散りばめられて、空想旅行にいっそう華を添えている。

地図帳のもう一つの柱である駅名一覧も、国内編の形式を踏襲したものだ。路線別に軌間、動力、沿革、駅名、キロ程、開業・廃止日、読み方と一通りのデータが揃っている。先達の研究資料に拠っているとはいえ、今は幻となった路線群の歩みを丹念にまとめた努力には頭が下がる。

ここで、筆者が推す地図帳の見どころを地域別にあげておこう。

朝鮮半島では、北部の山岳地帯が興味深い。鉱物資源や森林資源を求めて、いくつもの産業鉄道が海岸から内陸の鴨緑江水系へと延びている。線形の詳細図を見ると、険しい分水嶺を越えるために、ループ、スイッチバック、インクラインとあらゆる手段が試みられて、まるでルート設計のポートフォリオだ。今では容易に足を踏み入れることができない地域だけに、稀少感が募る。

台湾では、西岸の平野部に自然と目が行く。一帯に張り巡らされたおびただしい路線群は、サトウキビを運ぶ製糖鉄道だ。国鉄幹線から製糖会社直営のナローゲージが分岐し、台車軌道がその間隙を補っている。そのさまはあたかも葉脈か血管系のようだ。台中、台南は1:400,000の2倍拡大図が用意されていて、細部までよくわかる。

満洲は、個別の路線よりも冒頭の全体図に注目したい。1932年の満洲国成立と1945年の第2次大戦終結を境に、鉄道を建設年代で色分けしている。西からロシアが手を伸ばし(東清鉄路)、南からは日本が進出し(南満洲鉄道)、満洲国時代に地方線が追加され、戦後中国によって現在の鉄道網が完成した。日本がほとんどの路線を手がけた他の3地域とは違って、当地の鉄道が秘める複雑な成立過程を、この地図は見事に物語っている。

樺太は路線が数えるほどしかない。南部はまだしも樺太中部の図では、ソ連国境をめざす樺太東線が1本あるほかは、西海岸のはかなげな炭鉱軌道ばかりだ。寒風に曝される最果ての鉄路が地図の上からも想像できる。

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満洲朝鮮復刻時刻表

新潮社からは、同時に「満洲朝鮮復刻時刻表」も発売された。各地域で刊行された貴重な列車時刻表の復刻版を4種セットしたものだ。鉄道地図に時刻表と、プランニングの必須アイテムが揃って、しばらくはまた、机上旅行で時間が足りなくなりそうだ。

■参考サイト
新潮社「日本鉄道旅行地図帳」  http://www.shinchosha.co.jp/railmap/

★本ブログ内の関連記事
 新潮社の日本鉄道旅行地図帳

 また、外地の鉄道のいくつかは、本ブログでも当時の地形図とともに紹介している。
 樺太 豊真線を地図で追う 
 朝鮮半島 金剛山電気鉄道を地図で追う
 台湾 台東線(現 花東線)を地図で追う 
 台湾 阿里山森林鉄道を地図で追う

2009年11月19日 (木)

ドイツの鉄道地図 V-キュマリー+フライ社

長年、スイスの公式交通地図を刊行し続けているキュマリー・ウント・フライ社 Kümmerly+Frey(K+F と略する)のカタログに、今年(2009年)新たにドイツの鉄道地図が加わった。タイトルは「ドイツ鉄道旅行地図 Rail Travel Map Deutschland / Rail Travel Map Germany」で、大判用紙の片面に、縮尺1:800,000でドイツ全土の鉄道路線を描いたものだ。編集はバイルシュタイン社 Beilstein の手による。地図に添付された68ページの小冊子には、主要駅の構内図と地名索引を収めている。

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ドイツ鉄道旅行地図 (左)表紙 (右)裏表紙

本ブログの「ドイツの鉄道地図 II」でドイツ交通クラブVCDの、ほとんど完璧に近い全線全駅地図を紹介したが、同じジャンルに新商品を投入するからにはそれなりの勝算があるに違いない。事実、VCDの地図とは内容がかなり異なり、タイトルどおりトラベルマップを志向していることは明白だ。

鉄道は、高速線を青で、在来線を赤で、貨物線(旅客列車が廃止された路線を含む)を灰色で描き、さらに電化/非電化、狭軌などの区別がある。列車種別や運行頻度を線の色や太さで細かく表現しようとしたVCDに比べると、ごくオーソドックスな分類といっていい。バス路線の記号も設けられているが、表示区間は極めて限られている。駅は、全て表示されているわけではない。縮尺上の限界で描ききれない都市近郊だけでなく、地方でもVCDに比べて間引かれている。それに対して、地名は鉄道路線に関係なく豊富に記載され、添付の索引ですべて検索できるようになっている。また、時刻表番号が、バスや航路を含めて路線にもれなく付されている。

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サンプル図
(上はケルン~ボン付近、
下は駅構内図)
裏表紙の一部を拡大

鉄道旅行用の地図なのだから、時刻表とのリンクは当然といえば当然だが、それ以外にも旅心を誘うしかけが用意されている。たとえば、蒸気機関車が走る保存鉄道は、運行区間をオレンジの線で重ね書きしたうえ、蒸機のマークをつけ、さらに欄外の余白に運営団体のURLまで列記している。また、シーニック・ルート(景勝区間)には緑の線が引かれ、訪れる価値がある町にも緑のアンダーラインが添えてある。森林にやや濃い緑の網掛けを施しているのも、類図にはあまり見られないことだが、地勢を示す細かいぼかし(陰影)と重ねたために、錯雑感が出てしまったのは惜しい。

シーニック・ルートといえば、トーマス・クックのヨーロッパ鉄道地図 The Thomas Cook Rail Map of Europe に偉大な先例がある。試しに、両者で同じルートが選ばれているのか比べてみた。結果は、両者重なってはいるものの、K+Fのほうが明らかに区間を限定する傾向があることがわかった。言い換えれば、基準が厳しいということだ。

極端な例では、南部のバイエルンアルプス Bayerische Alpen 北麓のミュンヘン München からリンダウ Lindau へ行く路線(時刻表番号970)など、クックではブーフロー Buchloe 以西約150kmを全線推薦するのに対して、K+Fはケンプテン Kempten 南郊のわずか5km余りだけが対象だ。西側の車窓で湖が見える点が評価されたらしい。逆にクックが無視している北部や中部の路線の景色でも、K+Fはこまめに拾っている。その審美眼は地形図で確かめると納得がいく。

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サンプル図(ベルリン)
画像は http://beilstein.biz/ から取得

K+F図で特に斬新なのは、凡例、すなわち地図記号の意味を説明する個所だ。通常なら公用語のドイツ語のほかに英語やフランス語など主要言語が併記されるところだが、右写真のとおり、文章が一切なく、ピクトグラム(絵文字)が組合せてあるだけだ。EUの公用語は23もあるそうだし、まして非ヨーロッパ圏からの旅行者にも理解してもらうには、ヨーロッパの駅で普及しているこの方式が最適ということだろう。

写真の地図記号を解釈すると、左列の1行目のピクトグラムは左から高速線、標準軌(1435mm)、電化の意味だ。2行目の最初の記号は、先頭車マークの横顔が平板なので在来線、3行目の最初の記号は、パンタグラフがないから非電化を表している。4行目の2番目の記号は上と紛らわしいが、よく見ると1435mmの前に「小なり」記号があり、線路幅も狭めなので狭軌線と判断がつく。右列2行目の4番目の記号は貨車なので貨物専用線だ。4行目はバス路線、5行目は航路(外洋と内陸河川)だとわかるが、6行目の船と列車の組合せが、車両を航送するフェリーだとすぐに気づくだろうか。駅で見かける切符売り場やコインロッカーの記号と違ってオリジナルマークなので、ものによっては判じ物に近い。できるなら自然言語を書き添えてほしいところだ。

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説明文のない凡例

表紙にある四角の中の蜂の巣のようなマークはビータグ BeeTagg といって、携帯電話でおなじみのQRコードより新しい二次元コードだそうだ。ピクトグラムといい、このコードといい、紙の地図でもまだまだ人を驚かせることができるぞと言いだけな編集姿勢が小気味よい。K+F社とバイルシュタイン社の共同作業は「レールマップ・ユーロップ(ヨーロッパ鉄道地図)」に次いで2作目だが、まだ作業中の企画があるという。次はどの国の鉄道が描かれるのか、同社のサイトから当分目を離せない。

■参考サイト
バイルシュタイン社 http://www.beilstein.biz/
キュマリー・ウント・フライ社ショッピングサイト http://www.swisstravelcenter.ch/
 上記だけでなく、アマゾンや紀伊國屋BookWebでも扱っている。

★本ブログ内の関連記事
 ドイツの鉄道地図 I-DB公式地図
 ドイツの鉄道地図 II-ドイツ交通クラブ(VCD)
 ドイツの鉄道地図 III-シュヴェーアス+ヴァル社
 ドイツの鉄道地図 IV-ウェブ版

 ドイツの鉄道時刻表

 K+F社、バイルシュタイン社の鉄道地図は、下記でも紹介している。 
 スイスの鉄道地図 I-キュマリー+フライ社 
 ヨーロッパの鉄道地図 IV-キュマリー+フライ社
 イタリアの鉄道地図 I-バイルシュタイン社

2009年11月15日 (日)

ドイツの鉄道地図 IV-ウェブ版

ヨーロッパ諸国のウェブ版鉄道地図(路線図)が年々充実していく中、ドイツ、とりわけDB(ドイツ鉄道)のそれは少々魅力に欠けるように感じられる。DBの公式サイトで下記のページをご覧いただきたい。

■参考サイト
DB 路線図ダウンロード(英語版はない)
http://www.bahn.de/p/view/buchung/karten/streckennetz.shtml
または
DBトップページ http://www.bahn.de/
 上部メニューの Fahrplan & Buchung > Fahrpläne > Streckenkarten

Blog_germany_railmap_hp1これは、旅客列車の運行路線に関する地図へのリンクを集めたページだ。まず、上段の Streckenkarten Fernverkehr(遠距離列車路線図)には、「ICE Strecken(ICE路線図)」と「IC/EC Strecken(ICおよびEC路線図)」の2種類がある(下注)。表題の通り、ICE(インターシティエクスプレス、高速特急)やEC(ユーロシティ、国際特急)、IC(インターシティ、国内特急)の走行経路を表現したもので、色でルートを、線の形状で運行間隔(1~3時間毎または単独)を示している。ICEの充実ぶりには目を見張るが、その一方、ルートが重なる場合、線の色を交互に置くという苦心の策は、やや複雑でわかりにくい。

*注 この2点は、DBネッツェ作成の地図目録「DBネッツェ鉄道一覧図 Eisenbahnübersichtskarten der DB Netz AG」で「その他の地図 Sonstige Karten」として挙げられているものと同一。

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ICE路線図(2013年11月現在)

下段の Liniennetzkarten Nahverkehr(近距離列車路線図)には、各地域の路線網を描いた図が10面挙がっている。仕様は統一されておらず、単純に路線と駅を図示したものから、運輸連合のエリアやSバーン(近郊列車)やRE(レギオナルエクスプレス、快速)、RB(レギオナルバーン、普通)の系統を色分けしたものまでさまざまだ。ただ、地図の表題が州名のため、ドイツの行政区分を知らない外国人にはどの町がどの地図に載っているのか見当がつかないだろう。

Blog_germany_railmap_hp2DBの公式サイトで見られるもう一つの鉄道地図は、本ブログ「ドイツの鉄道時刻表」で紹介した時刻表の路線図検索に使われている。

■参考サイト
DBウェブ時刻表 http://kursbuch.bahn.de/
 トップページ左メニューの Interaktive Streckenkarte

この地図はいうまでもなく、「旅客路線図 Übersichtskarte für den Personenverkehr」(下注)として印刷頒布されているものと同一だ。全旅客路線と主な駅、それに時刻表路線番号が記載されている。鉄道利用者向けに作られたDBの代表的な鉄道地図なのだが、なぜかいまだにPDFファイルでは提供されておらず、印刷物を入手するか、いささか動きの鈍いインタラクティブマップで見るしか方法がない。今やこの程度のファイルサイズならダウンロードにほとんど支障はないのだから、鉄道会社としては閲覧サービスの改善を検討してもらいたいものだ。

*注 「旅客路線図」については、本ブログ「ドイツの鉄道地図 I-DB公式地図」参照

さて、DBのウェブサイトに挙がっていたのは、全国レベル、ついで州レベルの路線図だった。これはいわば氷山の一角であって、より地域に密着した膨大な数の路線図がその背後に存在する。というのも、ドイツではほとんどの地域で交通事業者の連合体として、運輸連合 Verkehrsverbund が組織化されている。さらに各連合を構成している市・郡交通局などの運行主体がある。これらの組織がそれぞれ自前の路線図を公開しているからだ。

その例をベルリン Berlin とフランクフルト・アム・マイン Frankfurt am Main で見てみよう。

《ベルリン
州レベルの路線図は、先述のDB路線図サイトにある「Liniennetz Berlin/Brandenburg(ベルリン州・ブランデンブルク州路線図)だ。運輸連合レベルではどうだろうか。実はベルリン州(下注)とブランデンブルク州は、両州域全体が単一の運輸連合「ベルリン=ブランデンブルク運輸連合 VBB (Verkehrsverbund Berlin-Brandenburg)」になっている。

*注 ベルリンは州と同格の特別市のため、本稿ではブランデンブルク州と併記される場合、「ベルリン州」と記述する。

Blog_germany_railmap_hp3VBBのサイトを見ると、多数の路線図が挙がっている中で、1行目にある「Bahn-Regionalverkehr Brandenburg und Berlin(ベルリン州・ブランデンブルク州鉄道地域交通図)」が、DBサイトとほぼ同じものだ。域内の旅客路線、RE、RB等の運行系統、駅などがスキマティック(位相図)形式で描かれている。ただこれは広域図のため、ベルリン市内のSバーンやUバーンは細い線で存在が示されるのみで、駅や運行系統のことはわからない。

よりエリアを絞ったのが2行目の「S+U Schnellbahn Liniennetz Berlin(ベルリンS+Uバーン路線図)」だ。ベルリン市とその近郊、正確には運賃ゾーンA~Cのエリアが描かれている。Sバーン、Uバーン(地下鉄)の系統と駅の配置はこれでわかる。しかし、これでも軌道系公共交通路線図として完全ではない。東部地区(旧 東ベルリン)を縦横に走るトラム(路面電車)の路線が省かれているからだ。

■参考サイト
VBB http://www.vbb.de/
路線図は、トップページ上部メニューの Fahrplan > Liniennetze

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(上)ベルリン州・ブランデンブルク州鉄道地域交通図
(下)ベルリンS+Uバーン路線図

Blog_germany_railmap_hp4そこで、トラムを運行するベルリン市交通局 BVG (Berliner Verkehrsbetriebe) のウェブサイトを訪れると、Liniennetz(路線図)のページに、上記2種の地図とともに、Straßenbahnnetz(トラム路線図)やNachtnetz(深夜時間帯に運行される路線図)が見つかった。さらに、Stadtplan(市街図)のページでは、ルート・路線番号・駅を表示した正縮尺のベルリン市街図がインタラクティブ形式で提供されている。実際の街歩きには、こうした市街図が役に立つ。

■参考サイト
BVG http://www.bvg.de/
路線図は、トップページ左メニューのLinien, Netze & Karten > Liniennetz

《フランクフルト・アム・マイン》
フランクフルト・アム・マイン(以下、フランクフルト)はヘッセン州に属している。州レベルの路線図は、先述のDB路線図サイトにある「Streckenkarte Hessen(ヘッセン州路線図)」だ。州全域のREやRB相当の路線を描くために、フランクフルト市域については、中央駅Hbf (Hauptbahnhof) といくつかの分岐駅が見られる程度だ。ましてSバーンやUバーンは最初から対象外になっている。

Blog_germany_railmap_hp5ベルリンと同じように、運輸連合のサイトを見てみよう。フランクフルトが属するライン=マイン運輸連合 RMV (Rhein-Main-Verkehrsverbund) は、多数の路線図を用意している。まず RMV- Liniennetzpläne(運輸連合路線図)のページにあるのは、RMV-Schnellbahnplan(近郊・地下鉄路線図)とRMV-Schienennetzplan(鉄道ネットワーク図)だ。表題どおり、前者はSバーンとUバーンの路線図であり、後者はエリア全域のRBとSバーン路線を描く地図になっている。

■参考サイト
RMV http://www.rmv.de/
路線図は、トップページ左メニューのLinien & Netze > Liniennetzpläne > RMV- Liniennetzpläne および Lokale Liniennetzpläne

フランクフルト市内にもトラムが走っているが、これは、同じサイトの Lokale Liniennetzpläne(地域別路線図)のページを見る必要がある。域内の都市一覧から Frankfurt (Stadt) (フランクフルト市街)を選択すると、Frankfurt - U-, Straßen- und S-Bahnen(フランクフルトUバーン、トラム、Sバーン路線図)という地図がある。また、ファイルサイズが少々大きいが、Frankfurt - Stadtplan mit Liniennetz (Gesamtlinienplan) (路線入りフランクフルト市街図-全路線図)は、ベルリンで見たような公共交通機関のルートを落とし込んだ市街図だ。

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路線入りフランクフルト市街図-全路線図

他の運輸連合や市・郡交通局のウェブサイトでも、このような路線図が提供されている。ドイツ語表記のサイトがほとんどだが、Netzplan(ネットワーク図、下注)、Liniennetzplan(路線ネットワーク図)、Verkehrsplan(交通図)、Streckenkarte(路線図)、Bahnkarte(鉄道地図)などの単語を手掛かりにして見つけることができるだろう。

*注 ドイツ語で地図はカルテ Karte(複数形はカルテン Karten)だが、鉄道地図や市街図の場合、図面・設計図を意味するプラーン Plan(同 プレーネ Pläne)を使うことが多い。なお、Fahrkarte は乗車券、Fahrplan は時刻表のことなので注意。

(2014年8月10日改稿)

★本ブログ内の関連記事
 ドイツの鉄道地図 I-DB公式地図
 ドイツの鉄道地図 II-ドイツ交通クラブ
 ドイツの鉄道地図 III-シュヴェーアス+ヴァル社
 ドイツの鉄道地図 V-キュマリー+フライ社

 ドイツの鉄道時刻表

 近隣諸国のウェブ版鉄道地図については、以下を参照。
 デンマークの鉄道地図
 オランダの鉄道地図 I
 ベルギーの鉄道地図
 スイスの鉄道地図 IV-ウェブ版
 オーストリアの鉄道地図 II-ウェブ版
 ヨーロッパの鉄道地図 V-ウェブ版

2009年11月14日 (土)

ドイツの鉄道地図 III-シュヴェーアス+ヴァル社

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ドイツ鉄道地図帳 
1994年版表紙

以前、ドイツの保存鉄道について調べる機会があった。蒸機の本線走行から軌間600mmの森林鉄道まで、多様な形態の動態保存が至るところで行われている。それは筆者の想像を超えるボリュームだった。リスト編集の際に参考にしたのは、10年以上も前に買ったシュヴェーアス・ウント・ヴァル社 Schweers+Wall の「ドイツ鉄道地図帳 Eisenbahnatlas Deutschland」(1994年版、右写真)だ。

これは、今や定評を得ている同社の鉄道地図帳シリーズの中でも、記念すべき最初の作品だ。その後、2004年にスイス編、2005年にオーストリア編と、カバーするエリアは徐々に広がってきた。しかし、ケルン Köln に本拠を置く同社にとって、地元読者の層は特に厚いと見え、ドイツ編は唯一、定期的に改訂されている。公式サイトによると、最新は2009/2010年版だ。筆者はさすがに毎回購入するほどの情熱は持ち合わせていないので、手元にある2005/2006年版を用いての説明になることをお許し願いたい。

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ドイツ鉄道地図帳 2005/2006年版 (左)表紙(右)裏表紙

かつての1994年版の仕様は、今から思えばイギリスのベーカー鉄道地図帳に似ていた。水部だけを描いた背景に現存線中心の路線図が載っているという飾り気のない図面で、索引を含めても138ページしかない。それに対して、2005/2006年版はフルカラーになり、休止線や廃止線のルートも細かに記載されて、充実度は格段に向上している。ページ数も208ページと大幅に増えた。そのうち、鉄道地図が151ページを占め、残りは駅名索引や鉄道会社一覧などの資料に充てられている(右写真)。

地図の縮尺は1:300,000だ。スイス編やオーストリア編の1:150,000に比べると小縮尺だが、スイスの8.6倍の面積を有する国なので、1冊に収めるならこのあたりが妥当な縮尺なのだろう。精度を補うために、主要都市とその近郊については、縮尺1:50,000~1:100,000の拡大図が多数用意されている。

使われている記号は基本的にシリーズ共通で、線路に関しては幹線/地方線、単線/複線、電化方式、狭軌線、貨物線、休止・廃止線、予定線、そして運行者と線路所有者名(日本でいう第二種、第三種)、DBの線区番号と時刻表番号と、実に豊富だ。これに旅客駅、貨物駅、操車場といった施設記号が添えられ、都市部の拡大図ではトラムや地下鉄が青色で加わって、ますます賑やかになる。

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ケルン付近の拡大図(裏表紙の一部を拡大)

地図記号に注目すると、ドイツ編独自のものも見受けられる。たとえば近郊列車Sバーン S-Bahn、地下鉄U-Bahnの停車駅の記号だ。スイスやオーストリアでもドイツに倣ってSバーンと呼ぶのだが、地図には表示せず別表にまとめているのだ。可動式橋梁という記号も独特だろう。低地が続く北海やバルト海の沿岸に見られる、船舶を通すために橋桁が動く橋のことだ。橋桁が回転する旋回式、上に引き上げる昇開式、両側に跳ね上げる跳開式と、記号で方式まで分かる。

凡例に上がっていないものでは、急勾配の表示がある。南部バイエルンアルプスを除けば土地の起伏は比較的緩やかだが、ライン川の側壁やテューリンゲン森、黒森(シュヴァルツヴァルト)などには、局所的に普通鉄道で60‰前後という相当急な坂道が存在する。そういう区間には、道路地図で見かけるような、V字を縦に重ねた記号に最急勾配の数値が添えられている。凡例にはないが、アルプス山中ではいくつかチェアリフトの記号も見つかった。

休止線、廃止線の活用法がわかるというのもユニークだ。休止線を保線用の軌道自転車で走行できる場合はそれ(ドイツ語でドライジーネ Draisine)を模した記号、廃線跡を転換した自転車道には自転車の記号が付されている。現役の路線だけでなく、役目を終えた路線の行く末にも注意が払われているのはファンにとってうれしい。

ところで、ドイツ鉄道地図帳にはDVDに格納されたデジタル版もある(現時点では2008年版が最新)。価格が冊子の40ユーロに対して58ユーロと割高なだけに、広告ではそれに見合う高機能性を盛んにアピールしている。たとえば、概観図から詳細図へ、ワンクリックで拡大や並列表示ができる。現役線だけを表示したり、廃止線を加えたり、あるいは植生や施設の説明などの表示をオンオフしたりと、レイヤーの選択によって情報を自由に組合せられる。各種データをテキスト形式で利用することもできる。カーナビを使い慣れた人なら、冊子よりも親近感が湧くかもしれない。地形図のデジタル提供が進んでいるが、鉄道地図を同じように進化させた例は、おそらくこれが最初だ。

この地図帳は、アマゾン、紀伊國屋といった日本のオンライン書店でも取り扱っているので、容易に入手できる。

(2006年11月3日付「ドイツの鉄道地図 II」を改稿)

■参考サイト
シュヴェーアス・ウント・ヴァル社 http://www.schweers-wall.de/

★本ブログ内の関連記事
 ドイツの鉄道地図 I-DB公式地図
 ドイツの鉄道地図 II-ドイツ交通クラブ
 ドイツの鉄道地図 IV-ウェブ版
 ドイツの鉄道地図 V-キュマリー+フライ社

 ドイツの鉄道時刻表

 シュヴェーアス・ウント・ヴァル社の鉄道地図帳については、以下も参照。
 スイスの鉄道地図 III-シュヴェーアス+ヴァル社
 オーストリアの鉄道地図 I
 ヨーロッパの鉄道地図 VI-シュヴェーアス+ヴァル社
 イタリアの鉄道地図 II-シュヴェーアス+ヴァル社
 フランスの鉄道地図 VI-シュヴェーアス+ヴァル社

2009年11月13日 (金)

ドイツの鉄道地図 II-ドイツ交通クラブ(VCD)

前回、ドイツ鉄道 Deutsche Bahn (DB) の公式地図を紹介して、縮尺と内容を基準に3つのタイプ(A~C)に分類した。このうち最小縮尺のタイプAは主要駅、鉄道路線のみの表示だが、時刻表添付という経歴から察せられるように、通常の旅行なら十分間に合うものだ。しかし、小駅の位置を確かめたいとか、駅から先のバス路線を知りたいというときに応えるすべがない。ニーズを満たすには、タイプBやCのような、より大きい縮尺でないと無理だろう。ここで紹介する鉄道地図は、タイプBの縮尺1:750,000を引き継ぎながらもデザインが見違えるほど改良され、かつタイプCをしのぐ情報量が備わる独立した出版物だ。

Blog_germany_railmap5 「ドイツ バス・鉄道路線図 Fahrplankarte für Bus und Bahn - Deutschland」(右写真)は、ドイツ交通クラブ Verkehrsclub Deutschland (VCD) が編集、関連会社のフェアケーア出版社 Fairkehr Verlag が発行する(Fairkehrは、ドイツ語で交通を意味する Verkehr と英語から来た fair をかけたもの)。公式サイトによると、VCDは1986年に設立され、持続可能な交通社会(サステイナブル・モビリティ)を追求するために、環境に優しい交通手段の情報提供や政策提案を行っている組織だ。この地図も、公共交通機関の利用促進という組織の目的に沿った事業の一つなのだろう。DBのサイトでも紹介されて、事実上、公式地図の扱いを受けている。

地図(折図)と別冊 Begleitbuch を収納するプラケースは、折りたためば1.5cm以上の厚みがあるが、内容の厚みもそれに負けていない。地図は両面印刷で、おもて面は旅客鉄道の全線全駅と、鉄道網を補完する主要バス路線を描いた交通地図、裏面はその旅行地図版だ。

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凡例

鉄道に関する情報はかなり詳細で、路線ごとにどのタイプの列車が走っているか、運行頻度は、所要時間は、停車駅は...など、基本的な事項が全て盛り込まれている(右写真は凡例部分)。列車のタイプは遠距離列車(ICE、IC、ECなど)が赤、速達型地域間列車が緑、普通列車は黒の色分けで、運行頻度は線の太さで区別する。主要駅間の所要時間は傍らに添えられた数字でわかる。

また、わが国の電車の車内で見かける路線図と同じように、ICEから各停まですべて走っている路線なら実線を3本並行させることで、マトリクスの情報を上手に整理している。バス路線は、むかし鉄道が通じていたような地方の町への便を中心に選択表示し、鉄道同様、線の太さで運行間隔を分類している。タイトルの Fahrplankarte は、直訳すると時刻表地図なので、各路線に時刻表番号が添えられているのは当然のことだ。

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表紙の一部を拡大

裏面の旅行用は、トーンを薄めにした上記の交通地図に、長距離歩道、名所、山小屋、自然公園のエリアなどを加刷したものだ。長距離歩道の経由地と鉄道・バス路線との関係が明確に描かれていて、地図作成の意図を明瞭に汲み取ることができる。

都市圏の近郊線 S-Bahn や地下鉄 U-Bahn は、さすがに1:750,000の縮尺では表現しきれないので、別冊のほうに拡大図 Detailkarte が14面用意されている。そのほか別冊には、地域ごとの情報源の一覧や駅名索引など豊富なデータがぎっしり詰め込まれていて、170ページ以上のボリュームがある。

Blog_germany_railmap6 全国版とは別に、地域版もいくつか刊行されている。手元にある「ライン・モーゼル バス・鉄道旅行路線図 Fahrplankarte für Ausflüge und Reisen mit Bus und Bahn Rhein-Mosel」は、ドイツ中西部のライン川、モーゼル川流域を1:150,000の縮尺で表したものだ。該当エリアを南北に割って、両面印刷している。

さすがにこの縮尺になると、鉄道はもちろん、郊外バス路線も省略なしに描かれ、すべて所要時間と時刻表番号が付されている。それで、路線が集中する拠点都市には20以上もの時刻表番号が積み木のように重なるありさまだ。別冊には、各地方の運輸連合 Verkehrsverbund が作成したオリジナル路線図(都市近郊路線図)があり、主要都市の市街図がある。これらを組み合わせれば、ICEのような幹線列車からトラムやバスの小さな停留所まで、ルートと行き先をはっきり特定できるだろう。情報源一覧は自治体別にまとめられて全国版以上に詳しいので、問合せ先にも迷わなくて済む。これほど徹底した旅行データ集を利用できるドイツの市民を羨ましく思う。

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表紙の一部を拡大

フェアケーア出版社のサイト(下記)に挙がっている地方版鉄道地図は、ヴェーザー・フルダ Weser-Fulda、上ライン南部 Südlicher Oberrhein、上ライン中部 Mittelerer Oberrhein、そして上で紹介したライン・モーゼル Rhein-Mosel の4種だ。掲載範囲とサンプル図は同社のサイトを参照願いたい。

最後に入手方法について。VCDやフェアケーア社のオンライン発注画面はドイツ国内向けの仕様だが、発注約定書には国外発送料も記載されているのでメール発注は可能だろう。筆者はかつてドイツのアマゾン amazon.de で購入したが、現在はなぜか入手不可のサインが出ている。

(2006年10月27日付「ドイツの鉄道地図 I」を改稿)

■参考サイト
ドイツ交通クラブ(VCD) http://www.vcd.org/
フェアケーア社の地図紹介ページ http://www.fairkehr.de/fahrplankarte/
ドイツ鉄道の地図紹介ページ(文章のみ)
http://www.bahn.de/ > Fahrplan & Buchung > Fahrplaninformationen für Ihre Reise > VCD Fahrplankarten
または直接URL
http://www.bahn.de/p/view/buchung/karten/vcd_fahrplankarte.shtml

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 ドイツの鉄道時刻表

2009年11月12日 (木)

ドイツの鉄道地図 I-DB公式地図

DB(ドイツ鉄道)の時刻表全国版 Kursbuch Gesamtausgabe は、西ドイツ時代(ドイツ連邦鉄道 Deutsche Bundesbahn, DB)でさえ、厚さが5cm前後もある電話帳のような冊子で、旅行に携帯できるものではなかった。それでも買い求める意義があったと筆者が思うのは、時刻表本体の資料性もさることながら、索引用に挿み込まれていた4色刷鉄道地図の存在だ。

本稿で言及するDB公式鉄道地図(路線図)は縮尺と内容から見て3タイプある。この地図はタイプCとしておこう。下の写真がその「鉄道・バス一覧図 Übersichtskarte Die Bahn - Der Bus」(上は全体、下は一部拡大、いずれも1988年夏版)だ。現物は85×61cmの大判用紙を使用し、A5判に折り畳まれている。縮尺は1:425,000。旧 西ドイツを北部、中部、南東部、南西部の4面に分割し、これを両面に刷って2枚組にしている。

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「鉄道・バス一覧図」北部 1988年夏版
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同 一部を拡大

ベースマップは、国境と水部だけのシンプルなものだが、ダム湖や運河も対象で、名称がもれなく入っているのが親切だ。鉄道の記号は赤色でよく目立つ。幹線(凡例では「長距離列車の走る路線」と表現)、支線(同「近距離列車線」)、その他(同「国鉄以外の路線 Nichtbundeseigene Eisenbahnen」)が線の太さで分類され、電化・非電化の区別もある。

鉄道から爪のように飛び出しているのは駅の記号で、バス連絡があれば丸、その他は長方形で表される。さらに、駅の記号が出る方向で線路のどちら側に駅舎があるかがわかる。鉄道網を補完しているのが緑の二重線で示されるバス路線で、文字通り網の目のように図面を覆っている。時刻表路線番号がすべての路線に振られて、完璧な索引地図だった。

筆者はこのタイプCが昔から存在するものと信じていたが、調べてみるとそうではないらしい。意外にもこの地図が作られた期間はごく短く、1985~90年の数年間に過ぎない。

1990年といえば、東西に分かれていたドイツが再統一された年だ。それに伴い、時刻表上でもDBとDR(ドイツ国営鉄道=旧東ドイツ国鉄)の路線網が1冊に統合された。これが1991/92年通年版(1991年6月2日~1992年5月30日有効)で、同時に、それまで半年ごとだったDB時刻表全国版の刊行が年1回に変更された。

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旅客線一覧図
2007年12月版の一部

対象となる路線網が一気に拡大したために、旧西側だけで4面を要するようなタイプCの出番はなくなったのだろう。代わりに通年版の付録とされたのが、「旅客線一覧図 Übersichtskarte für den Personenverkehr」だ(右はその一部)。用紙サイズはA1判をやや小さくした60×75cmで、全土を1面に収めるため、縮尺は1:1,200,000(120万分の1)になっている。ここではタイプAと呼ばせていただく。

ベースマップは国境と水部を示すとともに、段彩(高度別の彩色)を3段階に施し、ぼかし(陰影)で地勢を表現している。ただし色遣いは抑えめで、あくまで主題の引立て役に徹している。鉄道の記号は色、形状ともタイプCとほぼ同じだ。旅客路線が網羅されているが、縮尺の制約もあって小駅の表示は省かれている。また、バス路線は、一部の鉄道連絡ルートを除いて描かれていない。

裏面には、長らく縮尺1:5,300,000(530万分の1)の「ヨーロッパ及び北アフリカ鉄道路線一覧図 Übersichtskarte der Eisenbahnen in Europa und Norddafrika」が印刷されていた(下注)。現在は、表面と同じ「旅客線一覧図」で、地勢表現の代わりに地域交通事業者の連合体(運輸連合 Verkehrsverbund)の区域を図示したものになっている。

*注 2015年現在、このヨーロッパ路線一覧図は、「ヨーロッパの旅客線 Personenverkehr Europa」という別の印刷物として頒布されている。裏面には上記「(ドイツ)旅客線一覧図」の英語表記版が刷られている。

タイプAは、フルカラー印刷ということもあって、新規製作のように思われがちだが、意外にも、時刻表付録地図としての歴史は古い。DB成立直後に刊行された1949年夏版の時刻表にもすでに添付されていた。当時のタイトルは「時刻表のための一覧図 Übersichtskarte zum Kursbuch」だったが、1962年ごろから単純な「一覧図 Übersichtskarte」とされた。1985年夏版から1991/92冬版までは「DB時刻表一覧図 Übersichtskarte DB-Kursbuch」、その後、現在のタイトル「旅客線一覧図」へと変遷した。内容面でも、初期は鉄道線が黒色だったり、地勢表現がないなどの違いは認められるが、基本的な仕様はずっと引き継がれている。

名称からもわかるように、タイプAは常に時刻表全国版の付録として製作されてきた。唯一その方針が崩れたのが、タイプCが登場した1980年代後半(1985年夏版~)だ。タイプC は本来、鉄道路線を主体に描くタイプAに対して、バス路線も加えた総合交通地図の意味づけで作られたものと考えられる。というのも1985年夏、1985/86年冬、1986年夏の3期はタイプAとCがともに添付されているからだ。ところが、次の1986/87年冬版からは、情報がより多いタイプCのみの添付となった(下注)。筆者が時刻表を購入していたのは、ちょうどこの期間だ。仮にベルリンの壁の崩壊がなかったら、タイプCの時代がまだしばらく続いていたかもしれない。

*注 この時刻表不添付の期間(1986/87年冬版~1990/91冬版)も、タイプA自体は並行して製作され、単独で頒布されていたようだ。

DBのインフラ管理を担うグループ会社DBネッツェDB Netzeのサイトに、公式鉄道地図の目録がサンプル図(一部)つきでアップロードされている。実にさまざまな縮尺や図式、テーマの鉄道地図が70種ほども挙がっているが、ほとんどがオンデマンド印刷(目録での表記は「カラープロット Farbplot」)だ。その中でタイプAは、今や貴重なオフセット印刷物(同「地図印刷 Kartendruck」)になっている。冊子版時刻表が廃刊になって数年経つが、この路線図だけは変わることなく鉄道利用者のために製作頒布されているのだ。

■参考サイト
DBネッツェ 鉄道地図の案内ページ
http://fahrweg.dbnetze.com/fahrweg-de/start/produkte/nebenleistungen/produkte/eisenbahnkarten.html
 残念ながらこのページでは、地図自体の閲覧やダウンロードは行えず、目録「DBネッツェ鉄道一覧図 Eisenbahnübersichtskarten der DB Netz AG」と地図の発注書が取得できるのみ。

上記目録で、タイプAと同じオフセット印刷版として挙げられているのが、「ドイツの鉄道-路線図 Eisenbahnen in Deutschland - Streckenkarte」という地図だ。これも1990年代から存在するが、目録に2013年12月版とあるところを見ると、間隔は不詳ながら今も更新されているようだ。地図は87×119cmの大判用紙を使用し、縮尺1:750,000でドイツ全土を1面に収めている。縮尺がタイプAとCの中間なので、ここではタイプBとしよう。

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「ドイツの鉄道-路線図」1996年9月版
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同 一部を拡大

タイプBは、扱うテーマの点で前2者と一線を画している。前2者が利用者向けに列車や路線のネットワークを示す目的で製作されているのに対して、タイプBはどちらかというと、鉄道インフラの整備状況を表しているからだ。

その証拠に、この地図には、時刻表路線番号や路線名など路線を特定するための手掛かりは一切ない。その代りに鉄道記号では、幹線/支線、電化/非電化、単線/複線、標準軌/狭軌が区分され、路線の輻輳区間や接続駅における路線相互の関係なども図示されている。駅は、貨物駅を含めて全駅表示だ。路線が稠密なルール地方については、左上の余白に縮尺1:375,000の拡大図も用意されている。ベースマップだけは、茶系の色ながら明らかに同じ版を使っていて、その意味ではタイプAと姉妹図だが、中身はかなり違う。

写真でお気づきのように、現行図は鉄道記号を黒色の線だけで表しており、かなり地味な印象だ。作業図に多くの色は不要なのだろうが、初期はそうではなかった。下の写真は、筆者の手元にある1991年1月版だ。再統一された直後で、DBとDRが併存していた時期に該当する。地図の骨格は上の1996年版と変わらないが、特色インキを4色も使って、路線を鉄道管理局 Bahndirektion 別に塗り分けている。色による強調で路線網の広がりがよくわかり、視覚効果も高い。このようなバージョンも残しておいてほしかった。

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「ドイツの鉄道-路線図」1991年1月版

Blog_germany_railmap2半ば知られざるタイプBだが、一般書店で販売されるおそらく最初で最後の機会があった。1993年、マルコポーロ社 Marco Polo から、タイプAとタイプBがそれぞれカバーつきで刊行されたのだ。右画像は、Bahn+Bus CH のサイト(URLは下記)から引用したものだが(そのため拡大画像はない)、表題は前者が「ドイツ鉄道公式旅行地図 Offizielle Reisekarte der Deutschen Bahnen」、後者が「ドイツ鉄道公式路線図 Offizielle Streckenkarte der Deutschen Bahnen」になっている。オリジナルとは名称が異なるものの、両者の性格の違いを巧みに反映させた命名といえるだろう。

■参考サイト
Bahn+Bus CH, Bibliographie: DB - Landkarten
http://www.bahn-bus-ch.de/bahnen/db2/biblio-l.html

最後に地図の入手方法だが、タイプAは、DB駅の旅行センターで有料頒布されているほか、DBのショッピングサイト bahnshop.de でも買えるようになった。このショッピングサイトではタイプA、Bとともに各種復刻図も扱っている。ただ、1部買うだけでも送料が50ユーロ(1ユーロ135円として6750円)と出るので、コストパフォーマンスが低すぎるのが難点だ。なお、旧版でよければ、時刻表と同様に、ドイツを中心とした古書店等のサイトで扱っている場合がある。

【追記 2015.10.24】
GVE出版社 GVE-Verlag から「DBドイツおよびヨーロッパ鉄道路線一覧図 DB Eisenbahn-Übersichtskarten Deutschland und Europa 2015
として、上記の(ドイツ)旅客線一覧図 Personenverkehr Deutschland、ドイツ運輸連合区域図 Verkehrsverbünde in Deutschland、ヨーロッパ旅客線一覧図 Personenverkehr Europa、いずれも2014年12月版を3点セットにしたものが、9.80ユーロで発売されている。
http://www.gve-verlag.de/_gve_eisenbahn.php#Kursbuchkarte

(2014年8月8日改稿)

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 ドイツの鉄道時刻表

2009年11月 5日 (木)

樺太 豊真線を地図で追う

サハリン、日本名 樺太(からふと)は、南北約950kmもある大きな島だ。1905年のポーツマス条約、いわゆる日露講和条約によって南半分に当たる北緯50度線以南が割譲されてから1945年のロシアによる占領まで、日本の鉄道が走った舞台でもある。

Blog_hoshinsen_minimap 徳田耕一氏の「サハリン-鉄路1000キロを歩く」(JTBキャンブックス、1995)によると、最初の路線は1906年に、南岸の大泊(おおどまり、後の楠渓町駅、開通当時は和名改称前でコルサコフと称した)から豊原(同 ウラジミロフカ)間に敷かれた軍用の軽便鉄道だそうだ。1910年に内地と同じ1067mmに改軌、その後着々と延伸が進められて、1943年の国有鉄道化のときには路線延長が694.8kmに達していた。路線網の骨格をなすのが、大泊から鈴谷平野を経て島の東側を北上する東海岸線(国有化後は樺太東線)と、西岸に沿う西海岸線(同 樺太西線)、そして東西連絡の目的で建設された豊真(ほうしん)線だ。豊真という名称は、列車の起終点である豊原と真岡の地名を取ったもので、1925~28年にかけて開通し、延長は83.9kmあった(豊原~手井間)。

豊原は現在、ユジノサハリンスクЮжно-сахалинскとしてサハリン州の州都だが、当時も樺太随一の町で(1937年に市制施行)、豊富な森林資源を背景に製紙工場などが立地していた。一方、西海岸の真岡は、対馬海流と寒風を遮る山脈のおかげで、冬の間流氷に閉ざされる大泊港に代わる不凍港の一つとして利用価値が高かった。両者を結ぶ鉄道の建設は、産業のさらなる発展に貢献するものと大いに期待された。しかし、この間には西樺太山脈とその支脈が横たわっているため、それをどのように克服するかが計画の焦点だった。その結果、豊真線は、長い連続勾配やスパイラル(ループ線)を備えた樺太きっての山岳路線として知られることとなる。そのようすを当時の地形図で追ってみたい。

全体図
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上の全体図は1935(昭和10)年発行の1:200,000帝国図だ(以下の説明は地名を新字体で表記)。図の右端に豊原町がある。豊真線は南北に延びる「本線」、すなわち東海岸線から分岐して、しばらく北進した後、最初の山越えにかかる。滝の沢駅のすぐ西で峠のトンネルを抜けて、留多加(るたか)川の上流域を下っていくが、二股(ふたまた)で進路を転じて二番目の峠道に挑む。宝台(たからだい)信号所の先で峠を越えたあと、スパイラルを経て海岸の手井(てい)に降りていき、西海岸線に合流して真岡に到達する。真岡駅の手前から港への支線が確認できる。

山越えの区間を詳しく見るために、1:50,000地形図を参照しよう。最初の山越えは、豊原から2つ目の鈴谷(すずや)駅と次の奥鈴谷駅のほぼ中間、線路が北西に向きを変えるあたりから始まる【図1、図2】。20~25‰の急勾配が16kmほども続き、貨物列車を牽引する蒸機にとっては胸突き八丁の難所だったに違いない。並行する道路(豊真山道)から大きく北にはずれていることからもわかるように、これでも勾配を抑えるために直登を避けて、いわゆる高巻きのルートを採っている。張り出す尾根を切通しや計8個のトンネルでさばきながら、山襞をくねくねと縫っていくのはそのためだ。そして上り坂の終盤は、大きなS字カーブを描いて高度を稼ぐ。接続道路のない奥鈴谷はもとより、峠の手前の滝の沢も周囲に人家はなく、列車交換や補給のために設けられた駅だった。

なお、終戦直前の1945年7月、小沼~奥鈴谷間が開通したことにより、豊原~奥鈴谷間が廃止されたという(ウィキペディア日本語版「豊真線」による)。地形図には表されていないので、空中写真をもとにして図1にルートを加筆したが、これでわかるように、近くを走っていた既存の川上線とつなぐことで豊真線の短絡化を図ったのだ。未完に終わった西海岸線と同様、戦況が緊迫するなかで、調達困難なレールなどの資材を国境付近の軍事路線に転用するのが目的だったと思われる。その後、ソ連時代になってもとのルートに戻されたため、この区間は廃線となった。

また、引用した地形図には短絡線分岐地点の線路の北側に、築堤と切通が描かれている。一見旧線跡のようだが、この区間の開通が1928年、地形図の測図はわずかその1年後だ。単純に線路改良とみなすには無理があるものの、真相は不明だ。

図1
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図2
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本論に戻ろう。滝の沢駅は標高407mと、この路線のみならず樺太全体で最も高い地点にある駅だった。道路は南にそれて標高523mの春日峠を乗り越えていくが、鉄道は長さ1km弱のトンネルで西に抜け、混合樹林に埋め尽くされた中野川の脇を、小刻みなカーブを繰り返しながらひたすら下っていく【図3】。左から大曲川と道路が合流する頃には、谷も少し開けて中野駅に着く。峠の前後は駅間距離が長く、1930(昭和5)年5月の「汽車時間表」(日本旅行協会)によると、奥鈴谷~滝の沢間は13.4km、滝の沢~中野間は12.9kmもあって、いずれの区間も列車は30~40分を要している。

図3
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まもなく中野川の蛇行が始まって、流域の勾配が緩くなったことを知らせる。清水駅を経て、一帯の行政区である清水村の中心、逢坂(おうさか)に立ち寄るために、榊原峠の南側を短いトンネルで抜ける【図4】。逢坂駅は集落の中心から7~800m離れているが、すでに駅前集落が形成されつつある。

道路はそのまま西へ進んで熊笹峠を越えるのだが、線路は南へ向きを変えて、逢坂川に沿って下る。清水川が合流して留多加川と名を改めた二股駅付近は、谷幅が1km以上にもなって、山中ながら車窓に広々とした眺めが展開したはずだ。標高も128m(駅北の標高点による)まで下がってきた。しかし、のどかな風景もここまでで、西海岸に出るためには、二つ目の山越えを準備しなければならない。

図4
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留多加川を渡るところで、ルートは大きく東側にたわんでいる【図5】。不自然な迂回に見えるが、等高線を読むと、二股の集落が載っている河岸段丘から一段下に降りようとしているようだ。横断する際の土工量を減らすためだろう。話はそれるが、地形図ファンなら、すぐ南の沼倉沢の谷が河川争奪を受けて、留多加川に短絡していることに気づくはずだ。谷頭に池があり、断ち切られた断面がぽっかり空いた、いわゆる風隙(ふうげき)になっていることで判断がつく。線路はかつて沼倉沢の上流だったはずの谷に沿って上っていく。

この沢登りは前者ほど深くはなく、峠の手前にある宝台駅(地形図では信号所、1933年に駅に昇格)まで二股から9.1km、峠の下を抜けるトンネル入口の標高も約240mに過ぎない。しかし、峠の向こう側には、当線の名物となったスパイラル、いわゆる宝台ループ線が控えている【図6】。線路は直線状に尾根を2本串刺しにしてから、反時計回りに降りていく。上下の線路が立体交差する地点では、上部側を上路トラスの鉄橋にして、トンネルから出てきたばかりの下の線路を斜めにまたいでいた。このような凝った線形にしたのは、1.5kmほどの直線距離で100m以上ある高低差を一気にかせぐためだ。ループ線そのものの延長は1643m、高低差約36mという(「サハリン-鉄路1000キロを歩く」による)。

これで急勾配は去り、あとは手井川に沿ってゆっくり下っていく。池ノ端駅は地名の由来である貯水池より1km以上も川上で、集落も見当たらない。これも列車交換用に設けられたのだろう。地図に樺工貯水池とあるのは、真岡にある樺太工業(のち合併して王子製紙)の製紙工場のための用水池だ。線路はその北側を抱き込むように通過し、まもなく海岸線に出て、西海岸線との乗換え駅手井に到着する。真岡へは海岸沿いにもう1駅だ。

図5
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図6
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先述の汽車時間表では、豊原~真岡間86.9kmに4往復の旅客列車が設定されていて、途中、中野と手井にだけ停まる最速列車で所要2時間58分、各駅停車は4時間以上を費やしている。ソ連時代になっても運行は続けられたが、1970年に最狭部のアルセンチェフカАрсентьевка(真縫)~イリインスクИльинск(久春内)間に北部横断線が開通すると、東西交通の主流はそちらに移行した。急勾配の連続もさることながら、トンネルの断面が狭軌限界のため、大陸の広軌用車両を台車だけ狭軌に交換しても通行できないことが、貨物列車の運行には致命的だったからだ。

ペレストロイカが進んだ1989年以降は外国人観光客のツアー列車にも開放されていくが、1994年、トンネル内で落盤が発生して通行不能に陥る。時すでに地域の旅客輸送は機動性のあるバスに置き換えられつつあったため、結局復旧の手が入ることなく中間部は放棄されてしまったという。

■参考サイト
ウィキペディア 豊真線 http://ja.wikipedia.org/wiki/豊真線
ウィキペディア 宝台ループ線 http://ja.wikipedia.org/wiki/宝台ループ線

ソ連時代の地形図に描かれた豊真線は、下記で紹介している。
本ブログ「ロシアの鉄道を地図で追う」 サハリン島のループ線
http://homipage.cocolog-nifty.com/map/2008/05/post_b431.html

使用図葉:
陸地測量部1:200,000帝国図 豊原 1935(昭10)年製版
陸地測量部1:50,000地形図
 豊原、小沼、以上1929(昭4)測図
 逢坂、瑞穂、樺太眞岡、廣地、以上1930(昭5)測図

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