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2009年10月15日 (木)

オランダの地形図地図帳 III

ここでは、オランダの地形図地図帳でまだ触れていないものを概観しておきたい。

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軍用地形図地図帳
1:50,000

1980年代のヴォルテルス・ノールドホフ社 Wolters-Noordhoff に始まる地図帳製作の伝統は、ANWBを経て、現在、12州出版社 Uitgeverij 12 Provinciën に受け継がれている。12州とは言うまでもなくオランダの州 Provincie の数で、同国の地図業界の一翼を担うのにふさわしい社名といえるだろう。「オランダの地形図地図帳 I」でも少し言及したが、同社は、ANWBに代わって現行地形図の地図帳を刊行し始めていて、うれしいことに価格も引き下げられた(1:50,000地図帳の場合、ANWBの49.95ユーロに対して12州は定価44ユーロ、本年11月1日まで特価29.95ユーロ)。

しかし、同社の本領はむしろ、各種揃った旧版地形図の地図帳にある。その一つ、「軍用地形図地図帳 Atlas van Topografische Militaire Kaarten」(右写真)では、19世紀半ばのオランダの土地景観をつぶさに知ることができる。収載されている軍用地形図(頭文字から TMK と呼ぶ)とは、「オランダの地形図地図帳 II」で紹介した彩色測量原図を単色で石版印刷したもので、1864年に製作を完了した全国を同一縮尺(1:50,000)でカバーする最初のシリーズだ。

全部で62面あり、一般にはスタフカールト Stafkaart(参謀本部地図の意)の名で親しまれた。墨1色だが、ルーペを要すると紹介されているとおり、居住地や砂丘の起伏など、感心するほど詳細に描き込まれている。地図帳では原図1面を4分割(縦横2分割)して、見開きに収める。判型23×32 cm、全448ページ、巻末に地名索引がついている。

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地形図地図帳
1955~1965
1:50,000

その100年後(20世紀半ば)の状況がわかる「オランダ地形図地図帳1955~1965 Atlas van Topografische Kaarten Nederland 1955-1965」(右写真)も刊行済みだ。判型は35×25cm、全314ページ(うち地図276ページ)。標記の年代に作成された全国の1:50,000地形図をフルカラーで収めている。写真製版のため、直接製版のようなシャープな画像ではないものの、判読に支障ない程度の解像度にはしてある。

広告のキャッチコピーには、「若かりし頃の地図帳 Atlas van mijn jeugd」とある。50~60年前の地図を読み解くというだけなら純粋に理知的な作業だが、そこに郷愁とか感傷とかの味付けを示唆しているわけだ。もちろん筆者のように記憶を共有しない余所者に対しても、親切な編集がなされている。現代の地形図地図帳と図郭の切り方を揃え、かつ1kmグリッドの座標値を図の周囲に記載してあるので、新旧の対比がすぐにできるのだ。ANWBの現代版地図帳とはフリーラント島 Vlieland 以降2ページ分ずれるが、自社版の最新地図帳ではおそらくページ数も合致させているはずだ。

1960年前後にはまだ多くの地方鉄道路線が残っている。北海運河 Noordzeekanaal は拡幅前だし、フレーフォラント Flevoland の干拓も南半は未達成だ。それに都市の輪郭がどこも小ぢんまりしている。1:50,000は1959年に図式が変更されて、総描化の傾向が強まったのだが、地図帳では2世代の図式の地図が混在しているので、その比較も興味深い。

新旧比較に関しては、それ自体をテーマにした地図帳が作られている。オランダ語でデュッベルアトラス Dubbelatlas(英語の Double Atlas)と名づけられているのがそれだ。見開きページの左右に、同じ図郭の旧と新の地図がレイアウトされて、比較するのに何の手間も要らない。

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地形図対比地図帳
1:200,000

現在入手できるものを挙げると、まず赤と紺に塗り分けた表紙が目を引く「地形図対比地図帳(デュッベルアトラス)Topografische Dubbelatlas」がある。1868年に完成した1:200,000軍用地形図(単色)と官製ではない2001年の1:200,000地図を対比したものだ。この縮尺は広範囲を概観するのに適しているので、内湖・湾の干拓地化や、道路・鉄道・運河など交通網の変遷がよくわかる。装丁も一風変わっていて、旧の綴りと新の綴りを表紙の内側でつなげた形にしてあり、左右とも開くと4ページ分を一気に見ることができる(右写真は測量局のカタログから)。

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地形図対比地図帳
北ホラント州版
1:50,000

「若かりし頃の地図」と現代の地形図をダブルにしたものもある。州別に刊行されていて、現在は北ホラント Noord-Holland、南ホラント Zuid-Holland、ユトレヒト Utrecht、ゼーラント Zeeland の4点が出ている。書名は上記と同じタイトルで、北ホラント州なら「北ホラント州地形図対比地図帳 Topografische Dubbelatlas Noord-Holland 1:50.000」(右写真)となる。旧図のソースは「若かりし頃の地図」と同一で、見開きの両面に旧と新を配置している。全国版はけっこうかさばるから、おらが州に特化した地図帳のほうがニーズが高いのかもしれない。いずれも12州出版社が刊行している。

1:25,000の旧版地形図も、地図帳化が行われている。ヴォルテルス・ノールドホフ社の現代版「州別大地図帳 Grote Provincie Atlas」と同時期の1989~90年に、ロバス社Robasから 刊行された州別の「旧版地図帳 Historische atlas」全11巻がおそらく最初だろう。収載にあたって、原図の保存状態が悪い場合は後世の修正版と差し替えたりしたために、地図の製作時期は1865年から1933年まで大きく分散している。

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12州出版社版
旧版地形図地図帳

続いて、ヴォルテルス・ノールドホフ社からは1992年に「州別旧版大地図帳 Grote Historische Provincie Atlas 1:25.000」が刊行されたが、これは「オランダの地形図地図帳 II」の「オランダ旧版大地図帳 Grote Historische Atlas van Nederland」で使われた1:50,000測量原図を2倍拡大したものだ。

上記2種の地図帳は現在すべて廃版になっているが、ロバス社版で使われた1:25,000地形図、正式名ネーデルラント王国彩色地形図 Chromo-Topografische Kaart van het Koninkrijk der Nederlandは、12州出版社の州別旧版地形図地図帳 Atlas van Historische Topografische Kaarten」(写真)に収載されており、こちらは現在8巻まで刊行済みだ。ちなみにこの地形図のオリジナルは24×40cmのサイズで、オランダ全土を776面でカバーする。地図帳では1面を見開き2ページに収めて、美麗な手彩色図面の詳細を余すところなく伝えてくれる。

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デン・ハーフ
歴史地図帳

ここでは紹介しきれないが、ほかにも都市図の歴史地図帳(SUN社、右写真は「デン・ハーフ歴史地図帳 Historische Atlas van den Haag」)、空中写真の地図帳(12州出版社)などがあって、オランダの地図出版は傍目に羨ましいほどの隆盛ぶりを見せている。

■参考サイト
12州出版社の近刊紹介 http://www.12prov.nl/
 サンプル地図も数多く掲載されている。
12州出版社のショッピングサイトhttps://www.kaartenenatlassen.nl/
 Historische atlassen、Topografische atlassen に、ここで紹介した地図帳がリストアップされている。

19~20世紀オランダ市販地図史(英語版)The Topographic Record of the Netherlands 1800-1992 for Sale
http://liber-maps.kb.nl/articles/distr-00.htm

★本ブログ内の関連記事
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 オランダの地形図地図帳 II
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