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2009年9月10日 (木)

オランダの地形図

美しい塗り絵、というのがオランダの地形図の第一印象だ。市街地や森林はもとより、耕地も牧場も草木のない砂丘でさえも塗色が配されて、日本のような線描主体の地形図を見慣れた者には、とりわけ新鮮に感じる。この国の画家、ピエト・モンドリアン Piet Mondrian は、縦横に走る枠の中に三原色を塗り込めた抽象絵画を生み出したが、あの明快な造形美の精神が地図製作者にも脈々と受け継がれているようだ(サンプル図は下記参考サイト参照)。

オランダの地形図は、「カダステル Kadaster」という機関が製作している。Kadaster は普通名詞では土地台帳(登記簿)のような意味があり、地籍の測量、提供、記録保存、国土計画への利用といった19世紀以来の測量局の活動を象徴的に示す名称だ。この機関はかつて「地形測量サービス Topografische Dienst」と称し、住宅・空間計画・環境省の一部局だったが、1994年に組織形態が変更されて、独立行政機関 Zelfstandig bestuursorgaan(英訳では非省庁公共団体 Non-departmental public body)となった。地形図体系は縮尺の小さいものから、1:250,000、1:50,000、1:25,000、1:10,000がある。かつては1:100,000も刊行されていたが、1984年で更新が終了し、廃版となってしまった。

Blog_netherlands_250k 1:250,000は2種類が出ている。1つは、横112cm×縦130 cmの大判用紙の片面に印刷された「壁掛け地図 Wandkaart」、もう1つは、図郭を上下2分割して両面刷りにしたうえ、コンパクトに折った「道路地図 Wegenkaart」だ(右写真は1992年版。現在は表紙が異なる)。名称は変えてあるが、平図と折図の違いだけで、等高線などの地勢表現がないことを含めて、地図自体は同じ仕様だ。

道路地図の分野は民間地図会社の激戦区で、1枚ものなら縮尺1:300 000でANWB、マルコ・ポーロ Marco Polo、フライターク・ウント・ベルント Freytag & Berndt などがしのぎを削っている。しかし、カダステルも負けてはおらず、道路情報として、主要道などの種別で色分けし、道路番号と区間距離を付し、ロードサイドのガソリンスタンド、駐車場、レストラン、モーテル、案内所を記号で示している。流通のハードルがあるかもしれないが、内容的には市場で互角の勝負ができそうだ。

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1:50 000地形図表紙
(左)アムステルダム 1994年版
(右)ロッテルダム 2004年版

1:50,000は、全国を101面でカバーする区分図だ(右写真)。東西20km、南北25kmの範囲を表す縦長の図郭で、1kmグリッド(方眼)が加えられている。等高線は5m間隔と縮尺の割に精度が高いが、おおむね平坦な国土ゆえに、等高線が幅を利かせる図葉は少ない。

冒頭で紹介したとおり、オランダの地形図は土地利用景にすべて色が配されて、塗り絵のようなのだが、その特徴が顕著に現れるのがこの1:50,000だ。とりわけ、ピンク(赤の網掛け)の市街地と、周囲に広がるライトグリーンの牧草地の対比は、色相差が大きいために、見る者に強い印象を残す。低地の町は周囲を干拓地に囲まれ、そこはたいがい牧草地に利用されている。それでかなりの確率で赤と緑がセッティングされることになり、地形図のイメージを規定しているのだ。

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1:50,000索引図

一方、フレーフォラント Flevoland のような新しい干拓地には、見渡す限り耕地が広がっている。地形図では耕地は無色のように見えるが、よく観察するとごく薄いレモン色が被せてある。また、北海の岸に連なる砂丘にはそれより濃いクリームイエローが充てられ、彩りを添える薄紫はヒースの野を示している。標高が0mを越える内陸部には森も残され、広葉樹や針葉樹の記号を付した緑色が見られる。配色だけでなく、オランダの地図記号はなかなかの個性派ぞろいだ。自転車道を表す独立した記号があったり、風車、水車、灌漑ポンプと細分化されていたりと、ご当地色がにじみ出ている。

1:50,000地形図のルーツを遡ると、19世紀中期(1850~1864)に軍地図局 Topographisch Bureau が作成した軍用地形図 Topographische en Militaire Kaart にたどり着く。横92cm×縦64cmの横長の大きなサイズで、全部で62面あり、図番は北西端から南東端へ順に振られていた。Blog_netherlands_cyclingmap1現在の地形図はこの伝統的な図郭を縦に2分割してあり、図番の後ろに東 Oost、西 West を付けて区別している。なお、上の索引図でゼーラント州Zeelandとリンブルフ州 Limburg 南部の番号が飛んでいる(64~)のは、後に図郭を変更したためだ。

余談だが、この1:50,000をそっくり使用して、ANWBが独自の区分図シリーズを刊行している。タイトルも「ANWB 地形図 Topografische kaart」で、事情を知らない人には官製と区別がつかないだろう(右写真)。唯一の相違点は自転車道 fietspad を強調してあることで、実はその利用者のための地図なのだ。定価は官製オリジナルが5.25ユーロに対して、ANWBが9.95ユーロと高く思うが、ANWBは1面(用紙の両面)で官製4面分の面積をカバーしているので、明らかにこちらのほうがお徳だ。

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1:25,000地形図表紙
(左)デルフト 1990年版
(右)ユトレヒト 2004年版

1:25,000は、1:50,000を縦2×横2=4等分した図郭で、全国を302面でカバーする(右写真)。図郭のサイズは1:50,000と同じで、東西10km、南北12.5kmの範囲を表すことができる。

筆者は、1:50,000を眺めてから1:25,000に目を移すと、何か物足りない気持ちになる。原因ははっきりしていて、あれほど目覚しい効果をあげていた市街地の赤色が、ここではグレー(黒色の網掛け)に変えられているのだ。縮尺が大きくなり、新市街の集合住宅は黒を使って実影で描かれるので、総描家屋の範囲は旧市街周辺に限られるが、むしろそれゆえに、人の集まる中心部の表現にはインパクトがほしいと思う。

市街地に代わって目を引くのは、赤とオレンジに塗り分けられた道路網だ。その結果、市街地以外の配色は1:50,000とほとんど同じなのに、面より線が強調されて、全く別の図式のように錯覚する。誤解のないように記しておくが、全体の印象はクリアかつスマートで、たとえば郊外歩きに利用するには申し分ない。ついでに、1:50,000では省略されているトラムのルートが明瞭に示されていることも付け加えておこう。

1:10,000は1:25,000を上下に2分割した図郭になる。サンプル図によれば、プリントはモノクロ1色で、デジタルデータベースから直接出力するようだ。なお、各縮尺のラスタデータ(画像)も、オンデマンドで提供されている。

■参考サイト
カダステル http://www.kadaster.nl/
地形図の情報は、トップページ > zakelijk (business) > onze producten (our products) > topografische producten

地図サンプルへの直接リンク(カダステル公式サイトより。リンク切れご容赦)
1:250,000 http://www.kadaster.nl/pics-home-zakelijk/producten/250.000_raster_groot_2.gif
1:50,000 http://www.kadaster.nl/pics-home-zakelijk/producten/50.000_raster_groot_2.gif
1:25,000 http://www.kadaster.nl/pics-home-zakelijk/producten/25.000_raster_groot_2.gif

オランダの地図に関する情報は、「官製地図を求めて-各国地図事情 オランダ」にまとめている。
http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_netherlands.html

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