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2009年9月24日 (木)

オランダの地形図地図帳 II

スペインからの独立を戦っていた16世紀後半から17世紀前半にかけてのオランダ(スペイン領ネーデルラント)は、最初の近代的地図帳を出版したオルテリウス Ortelius を筆頭に、ホンディウス Hondius、ブラウ Blaeu ら、次々とアトラス製作者を輩出した。地形図地図帳 Topographic atlas の出版が盛んな現状を見るにつけ、この国に伝統が脈々と受け継がれているのを実感する。

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旧版大地図帳
第1巻 1990年刊

前回は、出版時点で最も新しい地形図を収録した地図帳をいくつか紹介したが、勢いは現行図の紹介にとどまらず、近代測量の初期段階である19世紀の地形図の復刻へと拡大している。おそらくその最初の例は、1990年に刊行された「オランダ旧版大地図帳 Grote Historische Atlas van Nederland 1:50 000」(右写真。以下、旧地図帳と記す)だ。出版元はヴォルテルス・ノールドホフ社 Wolters-Noordhoff、縮尺は1:50,000、オランダ全土を4巻に分冊して、右の写真が第1巻の西部編だ。と書けば、前回を読まれた方はお気づきだろう。これは、現行図を扱った「オランダ地形図大地図帳 Grote Topografische Atlas van Nederland」(前回紹介したもの。以下、新地図帳と記す)と対になる刊行物なのだ。

*注 旧版地形図を扱った地図帳のことを、英語で Historical topographic atlas のように言う。これを歴史的…と翻訳すると、いわゆる歴史地図帳 History atlas (Atlas of history) と紛らわしいので、本稿では、いささかこなれない言い方だが「旧版地形図地図帳」と表現している。

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使われている
地図記号

現在のオランダ(ネーデルラント王国)の成立は、ナポレオン後の政治体制を取り決めた1815年のウィーン議定書に遡る。隣国との国境を画定するために始まった測量事業は、1820年から縮尺1:10,000~1:40,000で国内へも広げられ、東部各州などではかなりの進捗を見せていた。当時の領土は今のベルギーとルクセンブルクを含むものだったが、1830年のベルギー独立に伴う混乱で図稿が失われ、調査局もヘント Gent からの移転を余儀なくされて、中断する。新体制による国土測量事業は1834年に南部のティルブルフ Tilburg 周辺で再開された。当初は1:25,000の縮尺が採用されたが、その後1:50,000で着々と作成が進められ、1845年には全土に及ぶ規模となった。

上記の旧地図帳に収録されているのは、この測量成果から調製された手彩色の測量原図(1839~59年作成)だ。各ページを新地図帳と同じ図郭、同じ図版番号にしてあり、5分単位の経緯線も入れてあるので、両者を並べれば、約150年間の時空を超えて今と昔をたやすく照合することができる。

この測量原図は手描きのため、当時、複製として石版による印刷図が作られた。1850~64年を作成年とする1:50,000ネーデルラント王国軍用地形図(Topographische en Militaire Kaart van het Koningrijk der Nederland、略称 TMK)は、全土をカバーした最初の公式地形図シリーズとして知られている。TMKは確かに原図を忠実に再現したものだが、黒の1色刷であり、現代の鮮やかな地形図と対比させるにはインパクトが弱い。その意味で、カラーの原図を写真版で復刻した旧地図帳は、待望の刊行物といえるものだった。

筆者もこの地図帳で、ほんのひととき19世紀のオランダを旅してみた。第1巻にはアムステルダム Amsterdam、レイデン Leiden、デン・ハーフ Den Haag、ロッテルダム Rotterdam、ユトレヒト Utrecht などオランダの主要都市が含まれるが、どの都市も「旧市街」の状態で、短冊状の水路が無数に走る広大な干拓地の中に、ぽつんぽつんと浮かぶように立地している。当時のオランダの人口は全部で300万人で、現在の南ホラント州1州よりも少なかったのだ。

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新旧地図比較
現スヒポール空港周辺

ナールデン Naarden のような多稜郭の遺構をもつ都市は今では貴重な存在になっているが、この時代、主要都市はもとより各地に点在する町は、どれも多かれ少なかれお堀に囲まれていた。そのような町と町を、心細げな一本道が結んでいる。独立国家となって間がなく、道路網の整備にはほとんど手が付けられていなかったのだ。道の両脇に延々と樹木が植えられている様子もきちんと描写されていて、17世紀の画家ホッベマが描いた並木道の情景がまだ生きていたことを証言している。新地図帳ではすっかり干拓されて跡形もなく消えてしまったが、アムステルダムの南西には大きな内陸湖ハールレム湖 Haarlemmer Meerがあった(右写真)。オランダの空の玄関口スヒポール Schipol 空港はその一角に建設されたものだ。

この時代、自動車も自転車も出現しておらず、鉄道がようやく建設ブームを迎えていた。旧地図帳ではすでにアムステルダムから西方と南方に鉄道が通じているが、市街の外に別々の始発駅を構えていて、双方は連絡していない。新橋と上野で折り返していた初期の東京の鉄道のようなものだ。その後、街の北側の水面を埋め立てて中央駅を作り、2つの路線をつなげてスルー運転を可能にしたのだが、それは1889年で、まだたいぶ先の話になる……。

この旧地図帳を筆頭にして古い地図を扱った地図帳が次々と刊行され、オランダの出版界で一つのジャンルを築いたように見える。これについては「オランダの地形図地図帳 III」で詳述しよう。なお、旧地図帳は2009年現在、絶版になっているようだが、ウェブサイト(下記)では、この測量原図から作成された1色刷の軍用地形図(TMK)を閲覧することができる。

(2006年3月31日付「オランダの古地図帳」を改稿)

■参考サイト
ロンドン・ナショナル・ギャラリーにあるホッベマの「ミッデルハルニスの並木道」
http://www.nationalgallery.org.uk/server.php?show=conObject.1533
オランダの古地図(旧版地形図含む)の閲覧サイト
http://watwaswaar.nl/
 表示はオランダ語のみ。使い方は英語による説明があるが、「官製地図を求めて-オランダ」のURL・地図閲覧の項も参照。
 http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_netherlands.html

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2009年9月17日 (木)

オランダの地形図地図帳 I

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地形図大地図帳
1:50,000
第1巻1987年刊

本来、大判用紙に刷られた1枚ものである地形図を多数集めて1冊の本に仕立てたのが、いわゆる地形図地図帳 Topographic atlas だ。オランダでは、この種の企画が盛んに行われている。その嚆矢となったのが、1987年に初版が刊行された「オランダ地形図大地図帳 Grote Topografische Atlas van Nederland」全4巻だ(右写真)。第1巻を西部、第2巻を北部、第3巻を東部、第4巻を南部編に振り分けて、当時110面あった1:50,000地形図をすべて収めている。

各巻は序論10ページ、地図102~126ページ、地名索引31~48ページから成る。序論は、地図測量の歴史、地形図の製作過程、縮尺・投影法・座標などの説明だ。記述がオランダ語だけなので、筆者には細かく読み取ることができないが、参考図版に、フェルメールゆかりのデルフト Delft の町を描く年代別の地図4点(1750年、1821年、1857年、1981年)が掲げられて、眺めるだけでも楽しい。

レポート(下記サイト)によると、地図帳の刊行計画はすでに1970年代から練られていたそうだ。このときはハンディなサイズを志向して地図を最大で50%まで縮小(1:100,000相当)する案もあったが、結局実現したのは、原寸のままの忠実なコピーだった。しかし、判型をA4サイズにし、分冊することで、扱いやすさには最大限の配慮がされている。出版元はフローニンゲン Groningen にあるヴォルテルス・ノールドホフ社 Wolters-Noordhoff になっているが、それは当時、測量局「地形測量サービス Topografische Dienst」が財政難で、出版のリスクを負う余裕が無かったからだという。

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州別大地図帳
1:25,000
南ホラント州
1990年刊

幸いにも1:50,000地図帳の売れ行きは好調で、その後、内容を更新して重版(1989年~)するに至った。気をよくした測量局と出版社は、すぐに次のアイデアを実行に移した。それが、1:25,000地形図を用いた「州別大地図帳 Grote Provincie Atlas」だ。1:50,000に比べて図の面積は4倍になるので、州ごとに分冊している(右写真)。

新図式による地形図がまだ刊行途中で、州ごとにその完成を待つことにしたので、製作が1988年から始められていたにもかかわらず、完了は1991年までずれ込んだ。上記の1:50,000地図帳初版に収められた地形図は、編集年が1972年から1986年と場所によって14年もの開きがあり、その間に図式が変更されたために注記文字のフォントが明らかに違ったりするのだが、この地図帳にはそういう心配はない。オランダの州は12あるのに地図帳が11巻しかないのは、最も新しい干拓地で1986年に独立した州になったばかりのフレーフォラント Flevoland を、ユトレヒト州の巻に含めたからだ。

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ANWBオランダ地形図地図帳
1:50,000
第2版2005年刊

21世紀に入って、地形図地図帳は第2世代に交代した。出版元も、ANWB(正式名称:王立オランダツーリスト連盟 ANWB、De Koninklijke Nederlandse Toeristenbond ANWB)に移った。同連盟は日本で言うとJAFのような役割を担う組織だそうだが、地図出版の分野でも大手の地位を築いている。その1:50,000の書名は「ANWBオランダ地形図地図帳 ANWB Topografische Atlas Nederland」。判型が25cm×35cmと一回り大きくなり、そのおかげで、オランダ全土を1冊に収めることが可能になった(右写真)。その分、中表紙を含めて336ページと分厚くなり、扱いやすさの点では少し後退している。

新しい地図帳の特徴は、地図のページに先立つ序論の部分だ。まず、地形図の製作過程などの解説が7ページあるが、これは第1世代と変わらない。真髄はその後で、地図記号の紹介が18ページも続いている。もちろん通り一遍の対照表ではなく、記号が使われている地図の断片とそれに対応する現地の写真を体裁よくレイアウトしたものだ。さらに次の16ページは、大河、砂丘、ポルダー(干拓地)、沼地、港、城郭などオランダの典型的景観を地図、空中写真、俯瞰写真の三者で比較する。見開きページ一面に展開するフルカラーの実景写真はたいへん美しく、説明のオランダ語が読めなくても理解できるだろう。

一方、地形図の本編は274ページあり、デジタル図化に対応した新図式で揃えてある。ちなみにこの図式では、市街地の表現が変わった。以前は、道路に囲まれた街区(総描家屋)には、左上からの光源を想定した立体的な影がつけられていたのだが、新図式では街路を黒で描き、家屋の部分は平面的な網掛けになった。道路を際立たせるためか、色もかなり薄めに設定されている。他にも、高速道路 autosnelweg がベルギー、フランスなどと同じ紫色になり、独立建物が柿色になり、砂丘のレリーフ表現が省かれるなど、各所に手が入れられている。

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北ホラント州地形図地図帳
1:25,000、2004年刊

1:25,000州別地図帳も、同じようにANWBに引き継がれた。タイトルは「ANWB Topografische Atlas」の後ろに州名がつく(右写真は「北ホラント州地形図地図帳 ANWB Topografische Atlas Noord-Holland」 2004年刊)。第1世代と同じく、ユトレヒト州とフレーフォラント州は1巻にまとめられているので、全部で11巻になる。解説ページは1:25,000のために再編集されているが、先述した地図記号の紹介は、写真が1:50,000地図帳とほとんど同一で、地図の部分だけを1:25,000に置き換えている。その結果、1:50,000地図帳と並べて比較すると、両者の図式の違いが一目でわかっておもしろい。

それにしても、さほど安くもないこれらの地図帳をどんな層が購入しているのだろうか。レポートによると、最大のグループは、自分自身の身近な環境を認識し見極めようとしている人々、平たく言えば地元の(州の)地図帳なら買っておこうという一般市民らしい。第二のグループはリクリエーションや調査・研究など実用に供し、最小のグループが鑑賞用または職業上の理由で買っている。普及の余地があるのは学校教育用だそうだ。

第二世代の表紙を初めて見たとき、筆者はずいぶん地味な意匠だと感じた。実際、派手なカバーもつけずにこのまま店頭に置かれているのだが、それでも版を重ねる需要が存在するというのは驚きだ。わかりやすい地図表現や扱いやすい形式といったさまざまな工夫が人々の関心を掘り起こすということを、オランダの地形図地図帳は証明しているようだ。

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12州出版社版 地形図地図帳
左:1:50,000全国版
右:1:25,000北ホラント州版

これらの地図帳はオランダ国内の書店で販売されているほか、Stanfords などの海外の地図商でも扱っている。
なお、2009年9月現在、ANWBの1:50,000地図帳は在庫切れで、その代わり、12州出版社 Uitgeverij 12 Provinciën が後継の地図帳刊行に名乗りを上げた。同社は、州別1:25,000地図帳の刊行も引き継ぐようだ(右写真は、12州出版社版「オランダ地形図地図帳 Topografische Atlas Nederland」、画像は同社サイトより)。

次回は19世紀の地形図を収録した地図帳を紹介しよう。

■参考サイト
オランダの地形図地図帳に関するレポート
http://liber-maps.kb.nl/articles/distr-60.htm
ANWB https://webwinkel.anwb.nl/
12州出版社の1:50,000地形図地図帳
https://www.kaartenenatlassen.nl/atlassen/topografische-atlas/topografische-atlas-van-nederland-2009-150000

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2009年9月10日 (木)

オランダの地形図

美しい塗り絵、というのがオランダの地形図の第一印象だ。市街地や森林はもとより、耕地も牧場も草木のない砂丘でさえも塗色が配されて、日本のような線描主体の地形図を見慣れた者には、とりわけ新鮮に感じる。この国の画家、ピエト・モンドリアン Piet Mondrian は、縦横に走る枠の中に三原色を塗り込めた抽象絵画を生み出したが、あの明快な造形美の精神が地図製作者にも脈々と受け継がれているようだ(サンプル図は下記参考サイト参照)。

オランダの地形図は、「カダステル Kadaster」という機関が製作している。Kadaster は普通名詞では土地台帳(登記簿)のような意味があり、地籍の測量、提供、記録保存、国土計画への利用といった19世紀以来の測量局の活動を象徴的に示す名称だ。この機関はかつて「地形測量サービス Topografische Dienst」と称し、住宅・空間計画・環境省の一部局だったが、1994年に組織形態が変更されて、独立行政機関 Zelfstandig bestuursorgaan(英訳では非省庁公共団体 Non-departmental public body)となった。地形図体系は縮尺の小さいものから、1:250,000、1:50,000、1:25,000、1:10,000がある。かつては1:100,000も刊行されていたが、1984年で更新が終了し、廃版となってしまった。

Blog_netherlands_250k 1:250,000は2種類が出ている。1つは、横112cm×縦130 cmの大判用紙の片面に印刷された「壁掛け地図 Wandkaart」、もう1つは、図郭を上下2分割して両面刷りにしたうえ、コンパクトに折った「道路地図 Wegenkaart」だ(右写真は1992年版。現在は表紙が異なる)。名称は変えてあるが、平図と折図の違いだけで、等高線などの地勢表現がないことを含めて、地図自体は同じ仕様だ。

道路地図の分野は民間地図会社の激戦区で、1枚ものなら縮尺1:300 000でANWB、マルコ・ポーロ Marco Polo、フライターク・ウント・ベルント Freytag & Berndt などがしのぎを削っている。しかし、カダステルも負けてはおらず、道路情報として、主要道などの種別で色分けし、道路番号と区間距離を付し、ロードサイドのガソリンスタンド、駐車場、レストラン、モーテル、案内所を記号で示している。流通のハードルがあるかもしれないが、内容的には市場で互角の勝負ができそうだ。

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1:50 000地形図表紙
(左)アムステルダム 1994年版
(右)ロッテルダム 2004年版

1:50,000は、全国を101面でカバーする区分図だ(右写真)。東西20km、南北25kmの範囲を表す縦長の図郭で、1kmグリッド(方眼)が加えられている。等高線は5m間隔と縮尺の割に精度が高いが、おおむね平坦な国土ゆえに、等高線が幅を利かせる図葉は少ない。

冒頭で紹介したとおり、オランダの地形図は土地利用景にすべて色が配されて、塗り絵のようなのだが、その特徴が顕著に現れるのがこの1:50,000だ。とりわけ、ピンク(赤の網掛け)の市街地と、周囲に広がるライトグリーンの牧草地の対比は、色相差が大きいために、見る者に強い印象を残す。低地の町は周囲を干拓地に囲まれ、そこはたいがい牧草地に利用されている。それでかなりの確率で赤と緑がセッティングされることになり、地形図のイメージを規定しているのだ。

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1:50,000索引図

一方、フレーフォラント Flevoland のような新しい干拓地には、見渡す限り耕地が広がっている。地形図では耕地は無色のように見えるが、よく観察するとごく薄いレモン色が被せてある。また、北海の岸に連なる砂丘にはそれより濃いクリームイエローが充てられ、彩りを添える薄紫はヒースの野を示している。標高が0mを越える内陸部には森も残され、広葉樹や針葉樹の記号を付した緑色が見られる。配色だけでなく、オランダの地図記号はなかなかの個性派ぞろいだ。自転車道を表す独立した記号があったり、風車、水車、灌漑ポンプと細分化されていたりと、ご当地色がにじみ出ている。

1:50,000地形図のルーツを遡ると、19世紀中期(1850~1864)に軍地図局 Topographisch Bureau が作成した軍用地形図 Topographische en Militaire Kaart にたどり着く。横92cm×縦64cmの横長の大きなサイズで、全部で62面あり、図番は北西端から南東端へ順に振られていた。Blog_netherlands_cyclingmap1現在の地形図はこの伝統的な図郭を縦に2分割してあり、図番の後ろに東 Oost、西 West を付けて区別している。なお、上の索引図でゼーラント州Zeelandとリンブルフ州 Limburg 南部の番号が飛んでいる(64~)のは、後に図郭を変更したためだ。

余談だが、この1:50,000をそっくり使用して、ANWBが独自の区分図シリーズを刊行している。タイトルも「ANWB 地形図 Topografische kaart」で、事情を知らない人には官製と区別がつかないだろう(右写真)。唯一の相違点は自転車道 fietspad を強調してあることで、実はその利用者のための地図なのだ。定価は官製オリジナルが5.25ユーロに対して、ANWBが9.95ユーロと高く思うが、ANWBは1面(用紙の両面)で官製4面分の面積をカバーしているので、明らかにこちらのほうがお徳だ。

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1:25,000地形図表紙
(左)デルフト 1990年版
(右)ユトレヒト 2004年版

1:25,000は、1:50,000を縦2×横2=4等分した図郭で、全国を302面でカバーする(右写真)。図郭のサイズは1:50,000と同じで、東西10km、南北12.5kmの範囲を表すことができる。

筆者は、1:50,000を眺めてから1:25,000に目を移すと、何か物足りない気持ちになる。原因ははっきりしていて、あれほど目覚しい効果をあげていた市街地の赤色が、ここではグレー(黒色の網掛け)に変えられているのだ。縮尺が大きくなり、新市街の集合住宅は黒を使って実影で描かれるので、総描家屋の範囲は旧市街周辺に限られるが、むしろそれゆえに、人の集まる中心部の表現にはインパクトがほしいと思う。

市街地に代わって目を引くのは、赤とオレンジに塗り分けられた道路網だ。その結果、市街地以外の配色は1:50,000とほとんど同じなのに、面より線が強調されて、全く別の図式のように錯覚する。誤解のないように記しておくが、全体の印象はクリアかつスマートで、たとえば郊外歩きに利用するには申し分ない。ついでに、1:50,000では省略されているトラムのルートが明瞭に示されていることも付け加えておこう。

1:10,000は1:25,000を上下に2分割した図郭になる。サンプル図によれば、プリントはモノクロ1色で、デジタルデータベースから直接出力するようだ。なお、各縮尺のラスタデータ(画像)も、オンデマンドで提供されている。

■参考サイト
カダステル http://www.kadaster.nl/
地形図の情報は、トップページ > zakelijk (business) > onze producten (our products) > topografische producten

地図サンプルへの直接リンク(カダステル公式サイトより。リンク切れご容赦)
1:250,000 http://www.kadaster.nl/pics-home-zakelijk/producten/250.000_raster_groot_2.gif
1:50,000 http://www.kadaster.nl/pics-home-zakelijk/producten/50.000_raster_groot_2.gif
1:25,000 http://www.kadaster.nl/pics-home-zakelijk/producten/25.000_raster_groot_2.gif

オランダの地図に関する情報は、「官製地図を求めて-各国地図事情 オランダ」にまとめている。
http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_netherlands.html

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2009年9月 3日 (木)

ベルギーの旅行地図

Blog_belgium_ostkantone この国に旅行するとしたら、人気の高いのは、おとぎの国のように美しい古都ブルージュ(オランダ語ではブルッヘ Brugge)だろうか。それとも、首都ブリュッセル Bruxelles のグランプラスか、アントヴェルペン Antwerpen の大聖堂か。いずれにしても街巡りが中心だから、市販のガイドブックを参考にするか、観光案内所に立ち寄って市街図をもらうといい。

ベルギー国土地理院IGNが刊行している旅行地図はそれとは違って、主として野山歩きのための地図だ。都市名を図名にしたものも多いけれども、内容は市街案内よりも、郊外の散歩道と見どころの紹介に割かれている。それで対象となるエリアも、丘陵から山地へ地勢が展開するベルギー南半(ワロン地域)が中心だ。2008年のカタログではタイトル数180点以上とかなりの数に上るが、手元にあるものだけの紹介になるのをお許し願いたい。

Blog_belgium_namur ナミュール Namur は、ワロン地域を貫くムーズ川 Meuse に西からサンブル川 Sambre が合流する場所に栄えた「ムーズ川の真珠」と称される街だ。合流地点を見下ろす丘の上で、築城の名人ヴォーバン Vauban が再建した要塞が睨みをきかせている。この旅行地図「ナミュール」(右写真、現行第3版は表紙が異なる)は、大判用紙全面を使ってナミュールとその周辺を縮尺1:25,000で表現している(現行第3版は1:30,000)。

ベースマップは1:50 000地形図を単純拡大したものだが、原図の描写がかなり細かいので、かえって細部まで見やすい。市街と要塞付近はカラフルな1:10,000の拡大図も付されている。この上に、ハイキングルート pédestre、マウンテンバイクルート V.T.T.、サイクリングルート Promenade Vélo がカラーで加刷されていて、丘陵のアップダウンが多い道はマウンテンバイク用、川沿いや平原の道は自転車用に設定されていることがわかる。ハイキングルートについては難易度表示がつき、裏面に拡大図と見どころ紹介がある。

説明文は仏語と蘭語だけだが、英・独語による要点記述がある。紹介されているものの中で、要塞の丘を巡る5kmコースやムーズ川渓谷を眺める6.5kmコースなどは、遠来の旅行者にとっても興味深いものだろう。

■参考サイト
ナミュール観光局 http://www.namurtourisme.be/

Blog_belgium_herbeumont1:25,000の旅行地図「エルブモン、サン・メダール、ストレモン Herbeumont St-Médard Straimont」(右写真)は、ベルギー最南部、ムーズ川の支流スモワ川 Semois の中流域に位置する。観光地というわけでもないが、これらの河川はアルデンヌ高地の谷底で極端な蛇行を繰り返していて、そこに鉄道が谷を横切るために絡んでくる。筆者としては、その面白さを買ったのだ。

これもナミュール図と同様、ベースは1:50,000の拡大版で南北2面に分けて用紙両面に印刷されている。地図表紙の左上に配された写真は、鉄道がスモワ川を渡るコンク鉄橋 viaduc de Conques(エルブモン鉄橋 viaduc d'Herbeumont と紹介されることもある)で、長さ160m(150mとする文献も)、高さ38mの見事なアーチ橋だ。路線番号163 Aのこの鉄道は、ベルトリクス Bertrix からミュノー Muno、フランスのカリニャン Carignan へ延びていたもので、1914年に開通し、1969年に廃止された。この橋は村の名物で、かなり傷んでいるものの歩いて渡ることができ、ハイキングルートの一部を構成している。

■参考サイト
ベルギー鉄道路線番号163 A  http://www.belrail.be/F/infrastructure/lignes/163A.html
「橋ウェブ」コンク鉄橋
http://www.brueckenweb.de/2content/datenbank/bruecken/2brueckenblatt.php?bas=4795

Blog_belgium_stvith 最後は、メルヘンチックな表紙絵をもつ東部地方(東部ドイツ語圏)Ostkantone / Cantons de l'Estのハイキング地図シリーズだ。冒頭の写真がそれで(写真はカタログから転写)、全部で6面あり、1919年にドイツからベルギーに編入された東部地方の全域をカバーしている。右はその中の1点、「ザンクト・フィット地方と上アーメル谷 St.Vither Land & Oberes Ameltal」だ。

ここでもアーチを連ねた鉄道橋がモチーフになっているが、ドイツのアーヘン Aachen とルクセンブルク方面を結んでいたフェン鉄道 Vennbahn の遺構だ。ベースマップは旧版1:25,000地形図で、その上にはろばろとした高原を行くハイキング・トレッキングルート Wanderweg が緑の太線で明示されている。探せば廃線跡をたどるルートも見つかる。また、山小屋、休憩所、宿泊施設、名所旧跡、スポーツ施設などの旅行情報がオリジナルの記号で多数配されているのも特徴だ。優れた統一デザインで、旅心をくすぐる地図群といえるだろう。ちなみに、東部地方観光局 Verkehrsamt der Ostkantone のサイト(下記)には、同地方の地形図や旅行地図を販売するオンラインショップがある。

■参考サイト
東部地方観光局オンラインショップ http://www.eastbelgium.com/2typo3cms/index.php?id=875
 発注のみで決済はできないので、別途送金手続きを要する。

なお、本ブログ「ベルギー アン鍾乳洞トラム II」の末尾で紹介したアン・シュル・レッス Han-sur-Lesse の旅行地図も、IGNの手によるものだ。これらの旅行地図はIGNで直販している(下記「官製地図を求めて」参照)。

■参考サイト
「官製地図を求めて-各国地図事情 ベルギー」
http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_belgium.html

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