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2009年5月31日 (日)

フランスの山岳地図-ランド・エディシオン

フランス南部の国境地帯には、3000~4000m級の白銀輝く山脈が長く延びている。東はいうまでもなくアルプス山脈 Alpes、西(南)はピレネー山脈 Pyrénées だ。その山歩きが目的なら、国土地理院 Institut Géographique National (IGN) が情報満載の地形図を揃えていて、申し分なく案内役を果たしてくれる。そのせいか、民間会社は正面から挑むことを避けて、IGNの品揃えの間隙に活路を見出そうとしている。というのもIGNの地形図の中で唯一、縮尺1:50,000のいわゆるセリ・オランジュ Série Orange(オレンジシリーズ)は旅行情報が付加されず、日本の地形図と同じように一般図の純粋さを保っているからだ。ここに、民間会社が旅行地図を投入する余地がある。

今回紹介するのは、出版グループ、シュドゥエスト Sud Ouest(南西の意)の傘下にある旅行書専門のブランド、ランド・エディシオン Rando éditions が出している山岳地図(名称は「長距離歩道地図 Carte de randonnées」)だ。縮尺1:50,000のこのシリーズは、現在22点が刊行されている。

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(左)ICC作成のピレネー図 24:ガヴァルニ、オルデサ
(中)IGN作成のピレネー図 8:セルダーニュ、カプシール
(右)IGN作成のアルプス図 A1:モンブラン地方

アルプス6点(A1~A6)がカバーするのは、フランスアルプスの北半分、すなわち、アルプス最高峰モンブラン Mont Blanc とその周辺から、最も南の4000m峰であるバール・デゼクラン Barre des Écrins を含むペルヴー山塊 Massif du Pelvoux までの地域だ。一方、ピレネー16点では、大西洋岸のバスク地方 Pays Basque から地中海に面したルシヨン Roussillon まで山脈全体に網が掛かる。セリ・オランジュに比べると1図郭の面積が4倍もあるし、GR(長距離歩道)や山小屋、キャンプ場、そしてロッククライミング、ハンググライダー、カヌー、スキーなどのスポーツ適地と、旅行情報もふんだんに盛り込まれているので、お徳かつ実用的であるのは間違いない。

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(左)ピレネーの索引図 (右)アルプスの索引図

筆者がランドに注目するのは、何よりも公的機関である測量局が作成した正式地形図をベースとしている点だ。多くの図ではフランスIGNがベースマップを作成し、ランドが旅行情報を受け持っている。ただし、一部の図葉を除いて、セリ・オランジュそのものは使用されていない。地勢表現として20m間隔の等高線にぼかし(陰影)をかけるのは共通だが、等高線を詳細に読むとセリ・オランジュとは微妙な位置のずれがあるのだ。

それに地図記号もずっとカラフルで、おそらく1:100,000の新版のように、デジタルデータベースを使って新たに描き出したものだろう。高峰に見られる氷河の表現は滑らかで美しく仕上がっているが、岩場や砂礫地は案の定というか、画一的なパターンを貼り付けただけの無粋さが際立ち、自動化の限界を露呈している。

また、すべての地図をIGNが手がけるわけではない。ピレネー山脈の南斜面、スペイン側は、カタルーニャ州の測量局であるカタルーニャ地図学研究所 Institut Cartogràfic de Catalunya (ICC) の担当だ。

こちらは表紙デザインが異なり(IGNの旧1:100,000に似ているが)、図番もIGNの1~11番に対して、20番台(20~25番)を与えられている。地図の内容も各々特徴がある。IGNは伝統的にサンセリフ sans-serif(文字端の止め線がない)の文字フォントを好むが、カタルーニャICCはそうではない。地勢のぼかし(陰影)はICCの場合、スウェーデンの山岳地図を髣髴とさせる繊細で深めのトーンだ。全体としてIGNからはカジュアル、ICCからはフォーマルな印象を受ける。用紙も互いのオリジナル地形図と同じものを使っているので、ICCのほうは光沢があり、刷り色が映える。両者は図郭の一部が重複していることもあって、図らずも1つのシリーズの中で官製図の競演を繰り広げているのだ。

ランド・エディシオンの山岳地図は、各国の主要地図商で扱っている。

■参考サイト
Rando éditions  http://www.editions-sudouest.com/nos-editions/rando-editions.html

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2009年5月24日 (日)

フランスの1:25,000地形図

国土全域をカバーしていて、かつ市中で容易に入手できる最大縮尺の地形図が、1:25,000(2万5千分の1)という国は数多い。中でもフランスはこの縮尺を、汎用という名の漠然とした用途ではなく、旅やレジャーといった具体的な需要に応じられる地図へと特化させた国の一つだ。

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1:25,000地形図表紙
(左)ニース 1982年版セリ・ブルー
(中)パリ 1993年版TOP25シリーズ
(右)モンテ・ドーロ(コルシカ島) 2004年版TOP25シリーズ

発行元である国土地理院 IGN Institut Géographique National(IGN)の意思は、図郭の切り方に強く現れている。通常、1:25,000の図郭というのは、1:50,000を4分割したものになる。測量成果から基本図(たとえば1:25,000)を完成させ、それを縮小編集する形で小縮尺図(1:50,000)を作成するという手順からすれば、こうするのが合理的だ。しかし、フランスでは、両者の対応関係が限定的になっている。都市や活動圏ができるだけ1枚に収まるように、自由な図郭設定が進められてきたからだ。

少々煩雑になるが、まず基準となる1:50,000の体系を説明しておこう。1:50,000の図郭は東西0.40gr、南北0.20grの範囲だ(gr はグラードと読む。下注参照)。図番は東西をローマ数字、南北をアラビア数字の組合せで表わしている。パリ起点の西経9gr(ブルターニュ半島沖を通る子午線)に左辺を接する図郭をIとして、東へ順にII、IIIと振り、北緯57grに上辺を接する図郭を1として、南へ順に2、3と振っていく。これにより、例えばパリParis図葉の図番は東へ23、南へ14のXXIII-14となる。後にセリ・オランジュ Série Orange の名称で折図にする際に、アラビア数字の4桁表記に改めて2314としている。

*注 グラードは、フランスが提唱した10進法による角度の単位で、直角の1/100を1grとする。1度≒1.11grとなる。メートル法は当初、北極から赤道までの子午線長(100gr)の1000万分の1を1mと定義したので、子午線上では1grが10万m=100kmに対応するはずだった。したがって1:50,000図郭の南北0.20grは距離にして20kmぶんだ。東西0.40grの距離も赤道直下では40kmになるはずだが、極に向かうにつれ逓減する。

1:25 000はもともと、この1:50,000の図郭を縦横とも2分割した東西0.20gr、南北0.10grの範囲で、図番は、対応する1:50,000の図番の後に、左上から右下へ1-2、3-4のように振っていた(例 XXIII-14 1-2)。しかし、セリ・ブルー Série Bleue として折図化するに当って、取扱いの効率も考慮し、南北の隣接図葉を接合した大判に変更した。1面は海岸部など一部を除き、東西0.20gr、南北0.20grの範囲となり、図番も 2314ouest(ouestは西の意、近年は2314Oと略す)、2314est(同じく東、2314E)となった。これが現在も踏襲されている基本体系だ。

複雑なのは、その後、この一部が図郭をさらに大型化したTOP25シリーズに置き換えられてきたことだ。これは旅行情報を充実させた特別版で、ヴォージュ山脈からアルプス、プロヴァンスにかけての東縁部、パリ周辺、ローヌ川、中央山地、ピレネー山脈、大西洋沿岸、地中海岸、コルシカ島など、およそフランスの旅行適地を網羅するように設定された。図郭の大きさはセリ・ブルーの2倍弱にも相当し、隣接図葉と一部重複させていることが多い。図番は、末尾がT(例:2314OT)になる。

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ノルマンディー地方の索引図
(左)旧図とセリ・ブルーが混在していた1987年
(右)沿岸部がTOP25で揃った2003年

TOP25は、1:100,000(TOP100)と並んでIGNの地図スタイルを象徴するシリーズといえる。凡例を英語併記にして国際性に配慮し、プロセスカラー(CMYK)による印刷で多色化して、地図記号の識別度を高めた。たとえば道路を種別で塗り分け、地勢表現にぼかし(陰影)を併用し、GR(長距離歩道)をはじめとするハイキングルート、スキールート、山小屋、キャンプサイト、ウォータースポーツエリア、観光名所などを赤や紫の目立つ記号で加えている。情報の提供元は全国や地域の観光関連組織で、表紙には組織のロゴが配されて、信頼性をアピールする。

1987年のカタログで「フランスを2,000面で La France en 2000 cartes」と紹介されていた1:25,000地形図は、TOP25の登場により、総面数が1800以下にまで減少した。今後これらすべてをTOP25に揃えるつもりはないようだが、残ったセリ・ブルーにも改革の波が及んでいる。

筆者が偶然購入したカルカソンヌ図葉(2345E Carcassonne)は、ベースマップがデジタル化され、印刷もプロセスカラー方式に変わっていた。図式の改定で文字フォントや集落描写が一新されたばかりか、驚いたことにTOP25と同様、道路の塗り分け、ぼかし(陰影)の付加、GRルートの表示がなされ、GPS互換のグリッドも入っている。もはや、TOP25との相違点は、図郭の大きさと赤や紫で示される旅行情報の有無ぐらいだ。参謀本部地図 Carte d'État-Major 時代を引きずっていた数十年前から1:25,000の変貌過程を振り返ってみると、めざましい進化に隔世の感を禁じえない。

■参考サイト
IGN  http://www.ign.fr/
IGN地図の閲覧サイト http://www.geoportail.fr/
 画面上で縮尺 Échelle が1:16,000のときに1:25,000の画像が使われている。

なお、TOP25には、両面印刷でサイズを縮小した「ミニ・カルト・ド・ランドネ Mini Cartes de Randonnée(ハイキングミニマップの意)」というシリーズもあり、現在、アルプス、ピレネーおよびフォンテーヌブローの9面が刊行されている。

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2009年5月17日 (日)

フランスの1:100,000地形図、新シリーズ登場

「近年のTOP100の山岳表現は、コピーを繰り返したように線が太く荒くなり、周囲と調和していない。1:25,000に比べても、1:100,000は美的水準の低下が顕著なように思われる。(文章一部略)」と記事を書いたのは、今年(2009年)の1月のことだった。筆者はまだ知らなかったのだが、そのときフランス国土地理院IGNの内部では、1:100,000新作地形図の準備が最終段階を迎えていた。

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まもなく、公式サイトに告知が挙がる。以下、HPから直訳すると、「新TOP100発売 Lancement de la Nouvelle Top 100。2009年3月初めに、IGNは新しい10万分の1地図を刊行する。これは本院がもつ多くのノウハウと、利用者のニーズに応えるべく絶えず革新し続ける意思を形にしたものだ。」

リード文に続いて、開発の経緯が紹介されていた。「90年代、IGNはさまざまな地図群を生成するデジタルデータに関する研究を始めていた。並行して、10万分の1地形図の基図を旅行情報も加えて進化させることで利用価値を高め、1997年に、地形図と旅行地図の機能を併せ持つTOP100シリーズ(旧版)を生み出した。」

「しかし、内容の更新や追加のために保存と画像形式での製作を繰り返した結果、残念ながら徐々に基図の劣化を招き、修正が困難になってきた。そこで1999年、IGNはデジタル地形図データベースによる10万分の1図の再製作に着手した。より正確で判読しやすく、更新も容易で、ユーザーの意見を今まで以上に汲み取れる新しい基図を速やかに得るために、新たな製作プロセスが2005年に実施された。ここに新しいTOP100シリーズは誕生した。」

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索引図

告知にはスイス国境に近いレ・ルス Les Rousses 周辺の新旧画像が掲げられているが、コンピュータ描画らしいクリアな線や文字といい、配された色数の多さといい、一瞥しただけでは同じ場所とは思えないほど印象が違う。そこでさっそくIGNから数点の新図を送ってもらったが、原版の疲労が目立った最近の旧図に比べて、賑やかだがすっきりと細部まで読み易く、新図でもう一度全国を眺めてみたい気にさせる出来栄えだった。

地図はどのように新しくなったのだろうか。凡例を見ると、まず道路は、有料高速道が藍の中央に赤線、無料高速道が青、主要道が赤、地方道が黄、その他が無彩色と、前々回紹介した道路地図帳と同じ区分でたいへんカラフルだ。ドライブだけでなくサイクリングやトレッキングにも、と多目的をうたっているので、自転車道も独自の紫色を与えられている。集落は土地利用の一形態として扱われ、大都市も村落もオレンジの総描で統一された。レモン色で表される工業地域は新設された区分だ。

山のほうに目を移すと、等高線は鮮明になり、起伏を表すぼかし(陰影)とともに地形の読み取りは容易になった。一方、岩場の写生的な描写は消え、等高線の色をグレーにすることで代えられてしまった。とはいえ、IGNがデータを提供する別の旅行地図(後日紹介予定)のように画一的なパターンをかぶせてお茶を濁されるよりは潔い。急傾斜でも等高線は省略されていないので、その間隔を読めば断崖のありかは想像できるだろう。植生は、森林と藪を緑の濃度で分け、果樹園とブドウ園は一つにまとめたので3種類(旧図式は4種類)となった。緑といっても暗めのアップルグリーンで、その上に載る道路や集落を引き立てる配慮が感じられる。

新シリーズは、表紙も黄緑(シャトルーズグリーン)に変えて、刷新をアピールする。注意すべきは、旧シリーズがフランス全土を74面でカバーしたのに対して、こちらは76面に切り直していることだ。新旧の図郭は多くで一致せず、従来の索引図は使えない。混同を避けるため、図番も100番台で区別されている。この3月に新シリーズ47面が一気に刊行されたが、首都圏を含むフランス中央部の残り29面の出来は1年後の2010年3月になる。その日が待ち遠しい。

■参考サイト
IGN  http://www.ign.fr/
 新TOP100に関する記事は、フランス語トップページ > découvrir l'IGN > Actus > 2009 > Lancement de la Nouvelle Top 100

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2009年5月10日 (日)

新線試乗記-門司港レトロ観光線+関門海峡の旅

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重文指定のJR門司港駅舎

JR門司港駅の改札を出て右へ歩いていくと、レトロ観光列車の始発駅はすぐに見つかった。ゴールデンウィークのさなかで、まだ朝一番の列車が出る前というのに、けっこうな人数が集まってきている。小さな駅舎に1本きりの線路と片側ホームがあるだけの簡素な施設だが、その傍らに列車待ちの人たちのためにテントが並んで、開業間もない鉄道に対する人気の高さが想像できた。

私たちはローソンチケットで午後の列車を予約してある。乗車まで4時間以上もあるが、界隈には見るものがいろいろ用意されていて、時間を持て余すことはない。まずは、隣接する九州鉄道記念館だ。規模はそれほど大きくないが、この地と縁が深いC59の1号機やEF10といった機関車、気動車、電車が整列する車両展示場があり、レンガの旧九州鉄道本社を活用した本館には模型レイアウトや展示資料も揃っていて、一見に値する。こどもたちからは、JR九州の多彩な車両を模した3人乗りのミニ鉄道にリクエストが集まった。

駅西側の通りを渡ってウォーターフロントに出てみると、開放的なプロムナードをリゾートよろしく人々がそぞろ歩いている。テラスのテーブルについて名物の焼きカレーを賞味した後、跳ね橋が上がるのを見学し、大道芸を取り囲む輪に加わり、建ち並ぶレトロな洋館を眺めてから、駅に戻ってきた。自由席の順番が回ってきた客がすでに狭いホームを埋めている。私たちも指定券のチェックを受けて、ホーム前方へ移動した。

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(左)門司港駅に到着 (右)九州鉄道記念館の入館ゲート
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(左)大道芸人の妙技に歓声 (右)名物焼きカレー

門司港レトロ観光線(やまぎんレトロライン)は2009年4月26日に開業したばかりの鉄道だ。この周辺は「門司港レトロ地区」と称し、観光拠点として整備が進められてきたが、北の和布刈(めかり)地区の入れ込みはまだ少ない。鉄道は、自然の残るこの地区への回遊性を高める役割を担ってスタートした。路線は、門司港駅から延びていたJR貨物支線と臨港鉄道を転用したもので、施設は北九州市が所有し、運行を第三セクターの平成筑豊鉄道が行う上下分離方式をとっている。

列車が走る区間は、門司港駅横の九州鉄道記念館駅から、古城山の裏側にある関門海峡めかり駅までの2.1kmで、途中2駅に停まっても所要時間はわずか10分だ。朝9時45分のめかり行きを始発に日中30~60分間隔(臨時便を除く)で13往復して、最終は17時10分に記念館へ戻ってくる。特定目的鉄道事業、すなわち観光に特化した鉄道とあって、今年の営業は11月29日までの土日、祝日とGW、夏休み期間に限定されている。

■参考サイト
JR門司港駅付近の1:25,000地形図
http://maps.gsi.go.jp/#15/33.945100/130.961300

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貨物線時代の1:25,000地形図 1990(平成2)年修正測量

出発5分前、小型DLを前後に立て、海辺の風景に溶け込む鮮やかな青色をまとったトロッコ列車が入ってきた。客車は2両で、めかり側が指定席車、記念館側が自由席車だ。車内には小さな簡易テーブルを挟んで向い合せの座席が全部で42席ある。めかりに向って左が海側になり、当然景色もいいのだが、出入口がある分、座席数は少ない。しかもローソンチケットでは座席の希望を聞いてくれず、機械にお任せだ。指定席車は座席定員しか乗せないはずだが、この日は立席承知の客を詰め込んで、自由席の長い待ち行列をさばいていた。

13時45分、定刻の発車だ。門司港駅前に通じる桟橋通の踏切をそろそろと渡り、両側を道路に囲まれた専用線を歩み始める。緩く左にカーブしていくと船溜りが見え、出光美術館前駅に停車する。左手には、門司港で唯一の高層ビルがそびえ立つ。展望塔を兼ねているらしいが、あまりに突出した高さのために手前の洋館が押しつぶされそうだ。

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「潮風号」入線
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(左)混み合う車内 (右)港に沿って走る

ビルや倉庫や駐車場が雑多に並ぶ車窓もつかの間、次の左カーブではいよいよ開いた水辺が現れる。現在の門司港が築かれる前から存在していた、その名も旧門司の港だ。漁船がずらりと岸に舫い、海峡を行く貨物船と大吊橋の関門橋が背景を引き締める。少しの間その眺めを鑑賞しながら行くと、反転するカーブの途中に2つ目の中間駅、ノーフォーク広場がある。

行く手は、海峡に突き出した尾根を抜けるトンネルだ。たかだか200m強の短いものだが、車中の客には思いがけないお楽しみがある。客車の天井が魚の形に光り出すのだ。暗闇を抜け出すと、風景が先ほどとはがらりと変わっているのに気づく。人家が去り、広い海原が現れ、列車が海峡の外側、周防灘沿いへ出たことを教えてくれる。街中、港、トンネルと車窓の変化を追ってきて、今またこの新たな展開を楽しみたいと思うのだが、残念ながらすぐに終点、関門海峡めかり駅に到着だ。線路はまだ車庫まで続いているものの営業列車の延長予定はなく、体験運転や手漕ぎトロッコなどを配したレールパークの構想が持たれているという。

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(左)トンネル内のアトラクション (右)めかり駅付近

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ルート概略図

さて、観光鉄道のレポートはこれで幕となるところだが、復路についても言及しておきたい。というのも、よほど急ぎの旅程ならともかく、この晴れ晴れとした海景を前にして単純往復という選択肢はないからだ。

駅前に、めかり絶景バスが客待ちしている。これに乗れば、背後の古城山中腹にある標高100m程度の展望台まで運んでくれるのだが、関門橋の橋脚(141m)より視点が低いため、インパクトに欠ける。お薦めは、対岸の本州に渡って火の山(標高268m)に上ることだ。間近に仰ぐと圧倒的な関門橋も、山上からでは、海峡を一望する大パノラマのアクセントに収まってしまうだろう。利用者減で一時運休になっていたためか、九州側の観光案内ではたいてい黙殺されているが、めかり駅から火の山ロープウェイの乗り場(壇の浦駅)までせいぜい1.5kmと歩ける距離だ。しかも、海底を自分の足で横断するまたとない体験ができる。

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観潮遊歩道

その行き方だが、めかり駅から波打ち際に遊歩道(観潮遊歩道)が整備されている。海峡を行き交う船を眺めながら潮風に吹かれて10分程度で、海峡最狭部、早鞆の瀬戸に面する和布刈神社にたどり着く。山側の道路の向かいにある人道トンネル入口からエレベーターで地下へ降りる。関門海峡の下を行く長さ780mの歩行者専用路を歩いて約15分、下関側の人道出口からは長府方向へ交差点を渡る。山手への少々きつい小道と階段を5分も登れば、火の山ロープウェイの乗り場に達する。

ロープウェイは季節運行なので、事前に下関市の観光HPで日程を確認しておいたほうがいいだろう。最下段の写真が山頂からのパノラマだ。正面が関門橋、その奥に門司港、左の対岸に並ぶ石油タンクの右、青緑の屋根がレトロ観光線の終点になる。

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関門トンネルで海底横断 (左)門司側人道入口 (右)トンネル内の県境
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火の山ロープウェイ
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火の山山頂からの眺望

帰りは、山上を毎時20分に出るロープウェイに乗ると、山麓駅の前で国民宿舎から来る1時間に1本のサンデン交通バス(9~18時まで毎時26分発。停留所名は「火の山ロープウエイ」)をちょうど捕まえられる。海岸の御裳川(みもすそがわ)まで歩かずに、門司港行き渡船がある唐戸やJR下関駅へ直接出ることができて便利だ。

■参考サイト
門司港レトロ観光列車 潮風号 http://www.retro-line.net/
Wikipedia日本語版「外浜駅」(貨物線時代の終点駅)
http://ja.wikipedia.org/wiki/外浜駅
 
九州鉄道記念館 http://www.k-rhm.jp/

掲載の地図は、国土地理院発行の2万5千分の1地形図下関(平成2年修正測量)を使用したものである。

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2009年5月 7日 (木)

フランスの道路地図帳-ブレー・フォルデクス社とIGN

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フランスの道路地図帳 Atlas routier France がミシュランの独占ではない証拠に、もう2社紹介しておきたい。一つは、ブレー・フォルデクス社 Blay Foldex だ。このブランドでは、道路地図よりもオレンジと黄色の表紙をもつフランス諸都市の市街図(プラノランジュ Plan orange、写真)のほうが馴染みがある。もともと道路地図を作っていたのはレクタ・フォルデクス社 Recta Foldex で、市街図のブレーBlayとは別の会社だったのだが、1993年に両社が合併して、地図出版のレンジが一挙に拡大した。

道路地図帳に関しては前回紹介したミシュランのライバルだが、こちらの品揃えはわかりやすい。最も薄手なのは縮尺1:1,000,000(100万分の1)のフランス全国版で、普通紙版と合成紙版 plastifié の2種がある。より詳しい1:250,000はフランス、ベルギー、ルクセンブルクを収録し、A4判ハードカバー(右下写真)と、各ページを折畳んでコンパクトにしたスパイラル綴じ版 à spirale、それに合成紙版の3種が用意されている。

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1:1,000,000シリーズならコンパクトで、4.50~4.95ユーロという価格もお手頃だ。しかし、フランス全体(コルシカ島を除く)が1m四方の用紙に収まるような縮尺なので、詳しさの点で物足りず、せいぜい主要道路網や都市の位置関係をつかむ程度の利用法だろう。

実際にドライブに携行するのなら、やはり後者のシリーズが必要になる。それでもハードカバーなら288ページが8.50ユーロで、現在のレートで約1100円に過ぎない。フランス語圏がかかる隣接2国も含まれて、情報量から見たコストパフォーマンスは非常にいい。ミシュランの「レサンシエル」(前回記事参照)も、後述するIGNの地図帳も、価格設定でフォルデクスの激安版を意識しているのは間違いない。

地図の仕様をミシュランと比較してみよう。道路網や集落、区間距離、道路番号など主要な図式はほぼ同じだが、インターチェンジだけはミシュランが取付道路を平面図で描いているのに対して、フォルデクスは円を4等分した記号で表している。実物風に描いたところで、縮尺が小さくては読み取りにくいはずだ。

森林は薄い緑の塗りで表してはいるが、地勢表現を省略しているので、山岳地域か平原なのか、わからないのが残念だ。地図デザインで何を優先するかは常に難題で、道路地図に土地の起伏を描き加えるのは、雰囲気づくりの効用はあっても必須事項ではない。むしろ、この措置によって観光情報が判読しやすくなっていることは確かだ。張り巡らされた grande randonnée, GR(長距離歩道)は赤の点線で容易に追えるし、旗竿形の鉄道記号の中で緑色で区別された観光路線がよく目につく。

ちなみに青色の旗竿も随所に見られるが、これは運河の記号だ。内陸の大量輸送手段としてまず運河が造られ、鉄道がその後を追ったという発達過程を念頭に置けば、理屈に合った設定なのだが、鉄道ファンはその意外性につい混乱してしまう。

巻末には郵便番号つき(ミシュランは県コードのみ)の地名索引も完備されて、実用性においてはミシュランと互角の勝負をしている。価格差も考慮するなら、選択は大いに迷うところだ。

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フランスの国土地理院 IGNも1:250,000道路地図帳を刊行している。写真のスパイラル綴じ(15.90ユーロ)とは別に、「格安 Prix Mini」と称して市街図などのページを省いたペーパーバック版(9.95ユーロ)がある。

フランス旧来の地形図体系では1:100,000の次に小さいのがこの縮尺だったが、全16面あった区分図シリーズは、地方別の道路地図20面に姿を変えた。それを集成したのがこの地図帳だ。しかし、長い時をかけて磨かれたミシュランやフォルデクスを前にすると、道路地図としてのデザインにまだ工夫の余地があると思う。例を挙げれば、他社に比べて道路区分に色数を使い過ぎているし、大きめの注記文字が図上に散乱して、スマートさに欠ける。地勢のぼかし(陰影)の質は区分図時代より落ちて、赤みがかった色といい、立体感の乏しい描き方といい、フォルデクスのように潔く省略することを勧めたくなる。

その中で観光情報だけは赤の斜体文字が見やすく、量的にも他社より充実していて、旅行地図の分野で民間会社を凌駕するIGNの本領が発揮されている。営業上は routier(道路の)を名乗るほうが訴求効果が高いかもしれないが、優れた民製図が存在するのにあえて同じ分野に参入しても成功はおぼつかない。表紙の隅に遠慮がちに添えてある touristique(旅行の)を強調した編集に切り替えて、差別化を図るべきだと思う。

上記地図は、アマゾン、紀伊國屋BookWeb、自社サイトなどで購入できる。なお、日本のサイトは送料が安い代わり、品切れも多い。

■参考サイト
ブレー・フォルデクス社 http://www.blayfoldex.com/
 道路地図帳は、Nos produits > Atlas
IGN http://www.ign.fr/
 道路地図帳は、Boutique loisirs > Cartes et Guides > Cartes routières et Atlas

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