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2009年3月26日 (木)

ヨーロッパの鉄道地図 IV-キュマリー+フライ社

2008年、本格的なヨーロッパ鉄道地図がまた一つ生まれた。スイスのバイルシュタイン社 Beilstein が編集して、キュマリー・ウント・フライ(キュメルリ・フライ)Kümmerly+Frey(K+F)のブランドを冠した「レールマップ・ユーロップ Railmap Europe(ヨーロッパ鉄道地図)」だ。有力な地図出版社であるK+Fが持つ販売網に乗って、瞬く間に世界の地図商のカタログに掲載されるようになった。

Blog_europeanrailmap6
レールマップ・ユーロップ (左)表紙 (右)裏表紙

138.6×99.6cmの用紙サイズは、これまで紹介したものの中で最も大きい。しかし、縮尺は1:5,000,000(500万分の1)と最小なので、相当広い範囲をカバーしていることがわかる。これが第一の特徴だ。表紙に掲げられた欧州旗に象徴されるように、この鉄道地図は、ヨーロッパ全域を初めて挿図を使わずに一図郭に収めようと試みている。左端はアイスランド島を取り込むため、海が多く占めるのも厭わず、西経20度まで図郭を伸ばす。右端はヨーロッパロシアの東限ウラル山脈を越えたエカテリンブルクに届く。北はスカンジナビア半島北端ノールカップ、南はアフリカ北岸からイランのテヘラン、イスファハンを結ぶラインまで確保した。

矩形の用紙にうまく入れるために、投影法は経度0度を中心軸とするロビンソン図法を用いている。擬円筒図法の一種であるこの図法では、メルカトル図法のように極に向かって面積が著しくひずまないよう、補正が施される。すなわち経線(縦軸)は平行線でなく、中心軸方向に緩やかに曲げられ、緯線間隔(南北の図上距離)は高緯度でも小幅な変化にとどめられる。これによって用紙の天地寸法も節約できるのだ。

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サンプル図(イタリア北西部)
画像は http://beilstein.biz/ から取得

第二の特徴は、鉄道の分類が詳細なことだ。大きく分けると高速線か、在来線かの区別がある。高速線は一貫して青の二重線をベースにした記号が使われ、新線と既存線改良、標準軌と広軌、非電化の区別がある。建設中または計画中の高速線も、開通予定年つきで表示されている。

在来線の記号はさらに多様だが、デザインに一定の法則がある。まず、軌間の別は線の形式で表す。具体的には標準軌が実線、広軌は旗竿形、狭軌は旗竿の白抜き部分を黄色に塗っている。次に、電化の別は塗りの有無(電化は塗り、非電化区間は白抜き)で、旅客線・貨物線の別は色(旅客線が朱色、貨物線はグレー)で区別するという具合だ。これで、たとえば標準軌で非電化の貨物線なら、実線の中を白抜きにした灰色の記号と特定できる。

第三の特徴として、地勢表現の繊細さがある。ぼかし(陰影)と、高度に応じて連続的に変化する彩色の組合せは、ヨーロッパの地勢図として使用に堪える出来栄えだ。凡例は英、独、仏、伊、西、露の6ヶ国語で説明されているし、主要都市名に現地語表記を併用しているのも興味深い。見慣れたラテン文字のほかにアラビア文字、ギリシャ文字、キリル文字、グルジア文字、アルメニア文字を探すことができる。

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サンプル図(リヨンとその周辺)
画像は http://beilstein.biz/ から取得

筆者の目にはなかなか魅力的な鉄道地図と映ったが、果たしてトーマス・クックのライバルになるだろうか。クックは、景勝路線をマークする一方で、鉄道記号の分類は幹線・支線の別や建設中、休止中など、旅行計画に関連する情報に絞っているので、シンプルで見やすい。対するK+Fは、記号を複雑にしたため、鉄道愛好家や職業人でなければ、やや難解な印象を抱くかもしれない。K+Fの縮尺が小さいことも不利な条件だ。クックは地図の裏面に中央部を拡大するサービスまでしているが、スイスの鉄道地図を別に作っているK+Fとしては、自社商品との競合は避けたいところだろう。

一方、クックはベースが白地図なので、旅心を誘う小道具として見たときには物足りない。その点、K+Fの地勢表現には、周回衛星の小窓から地球の表面を見ているような実感がある。欄外に整列している各国の国旗と国勢データを参照しながら、地図を眺めるのも楽しい。この地図の主題ではないアフリカや中央アジアの鉄道も省略せずに描いてあるので、得した気分になるという点も付け加えておこう。

両者を一言で評すれば、クックは旅行資料であり、K+Fは鉄道調査資料あるいは鑑賞用ということになる。あえてライバルに仕立てるまでもないのかもしれない。

■参考サイト
バイルシュタイン社のサイト http://www.beilstein.biz/
 英語版あり。バルセロナ、ミラノ、パリ付近のサンプル図が公開されている。
 なお、この地図は、上記サイトからリンクしているK+Fのショッピングサイトや、各国主要地図商で購入できる。紀伊國屋BookWebでも扱っている。

★本ブログ内の関連記事
 ヨーロッパの鉄道地図 I-ボール鉄道地図帳
 ヨーロッパの鉄道地図 II-トーマス・クック社
 ヨーロッパの鉄道地図 III-折図いろいろ
 ヨーロッパの鉄道地図 V-ウェブ版
 ヨーロッパの鉄道地図 VI-シュヴェーアス+ヴァル社

 K+F社、バイルシュタイン社の鉄道地図は、下記でも紹介している。
 スイスの鉄道地図 I-キュマリー+フライ社
 ドイツの鉄道地図 V-キュマリー+フライ社
 イタリアの鉄道地図 I-バイルシュタイン社

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