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2009年3月30日 (月)

ヨーロッパの鉄道地図 V-ウェブ版

ヨーロッパ全域を表した鉄道地図で、ウェブサイトで公開され、内容の充実度も高いものというと、これを措いて他に知らない。
■参考サイト
Railways through Europe - maps of railway-networks
http://www.bueker.net/trainspotting/maps.php

Blog_europeanrailmap_hp1 「国の鉄道網には非常に興味深いものがある。国の歴史が路線配置の背後に見えることがあり、人やモノが集まって多忙なのか、静かなところなのかもわかる。鉄道網を知れば、たくさんの発見がある。鉄道網を理解するには地図が必要だが、鉄道ファンにとっても複線、電化線を示した鉄道地図を探し出すのはなかなか難しい。これが、自分で何枚か地図を描こうと決めた理由だ。」

「以来少しずつ、何か国かは他の鉄道ファンの力も得ながら、ついにヨーロッパ全域をカバーするに至った。確かに毎年、休止や新設や電化の動きが何件もあることを考えると、これほど巨大なテーマを一個人が完全に掌握することなど不可能だ。幸い、私たちは孤立しておらず、多数の鉄道ファンが、地図を改訂するために私を直接間接に助けてくれる。彼らに深く感謝を捧げたい。Boris Chomenko」

巻頭言で表明されているボランティア精神を讃えないわけにはいかないだろう。そのおかげで、私たちは居ながらにしてヨーロッパの鉄道事情を概観することができる。いまや対象となるエリアは、東方のバルト三国、ベラルーシ、ウクライナ、トルコにまで広がっている。個々の地図は基本的に国ごとに作成されているが、主要都市とその周辺は別に拡大図があるし、各地図に、一部を除いて英語版と現地語版が用意されているのも驚きだ。

地図の内容はどうだろうか。記号体系は、電化(方式別)・非電化、旅客線・貨物線、そして軌間(線路幅)を線の色で、単線・複線の違いを線の太さで区別している。建設中の路線は鎖線、計画線は灰色の線で表される。観光鉄道(保存鉄道)はSLのマークを添えてあるので目立つし、探せばラック式鉄道や鋼索鉄道(ケーブルカー)も発見することができる。

各地図の表紙ページにある記録から、地図が頻繁に更新されていることがわかるが、このデータはまた、路線の休止や開通など、当該国の鉄道の最新動向を知る上でもたいへん役に立つ。ファイルサイズを軽くするためか、画像にアンチエイリアス処理を施しておらず、駅名や細線のルートが見やすいとは言えないが、資料としての価値を減じるほどではない。常に最新版に差し替えられるウェブの利点を生かした鉄道地図は、筆者のブラウザでお気に入りリストの上位をキープしている。

1972年、国際鉄道連合 Union internationale des chemins de fer (UIC) の創立50周年を記念して、若者に鉄道旅行を安く提供しようと、ヨーロッパ21か国(自国を除く)を2等車で1ヶ月間無制限に使える鉄道パスが作られた。「インターレイル InterRail」の始まりだ。当初、年齢の上限は21歳だったが、現在は価格差があるものの年齢制限は撤廃されている。おなじみのユーレイルパスがヨーロッパ以外の居住者向けであるのに対して、こちらはロシアを含むヨーロッパ圏に6ヶ月以上居住(滞在)している人が対象だ。通用する国の数もインターレイルパスのほうが多い。

Blog_europeanrailmap_hp2 公式販売サイトに、パスの有効な国と路線を描いたオリジナルのPDF版鉄道地図がある。ヨーロッパ全図が一面に配置され(北欧は挿図)、国別に色分けした上に、概略の鉄道ルートが描かれている。高速線は緑、幹線、中でも高速列車の経由線は紫、その他は赤と区別してある。上述の労作に比べて種別が単純なのは、一般旅行者の参照用としてデザインされているからだ。

裏面(本来は表紙)はスイスの拡大図と、主要都市の駅配置、それにパス所有者の座席予約料金の一覧表になっている。印刷すれば折図になる仕様だが、パス購入時に渡されるものなので、単独では頒布していないようだ。

ユーレイルパスの販売サイトにも類似の地図が掲載されているが、イギリスなどのようにパスが使えない国は灰色に変えてある。また、InterRail.net という販売サイトにも、明らかに出所が同じと思われる鉄道地図があるが、こちらは段彩で地勢を加えた別バージョンだ。ただし、開通した高速新線が反映されておらず、新たに参加した国が通用範囲外であるなど、データは古いままだ。これ以外にもインターレイルパスを販売するサイトは多数あって、それぞれに個性的なつくりの鉄道地図を発見できるが、内容はどれも公式サイトには及ばない。

■参考サイト
インターレイル鉄道地図
http://www.interrail.eu/plan-your-trip/railway-map
ユーレイル鉄道地図(日本語サイト)
http://jp.eurail.com/plan-your-trip/railway-map
レールヨーロッパのサイトにある鉄道地図
http://www.raileurope.com/europe-travel-guide/

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 各国の鉄道地図については、カテゴリー「鉄道地図」(本欄右下にリンクあり)にまとめた。

2009年3月26日 (木)

ヨーロッパの鉄道地図 IV-キュマリー+フライ社

2008年、本格的なヨーロッパ鉄道地図がまた一つ生まれた。スイスのバイルシュタイン社 Beilstein が編集して、キュマリー・ウント・フライ(キュメルリ・フライ)Kümmerly+Frey(K+F)のブランドを冠した「レールマップ・ユーロップ Railmap Europe(ヨーロッパ鉄道地図)」だ。有力な地図出版社であるK+Fが持つ販売網に乗って、瞬く間に世界の地図商のカタログに掲載されるようになった。

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レールマップ・ユーロップ (左)表紙 (右)裏表紙

138.6×99.6cmの用紙サイズは、これまで紹介したものの中で最も大きい。しかし、縮尺は1:5,000,000(500万分の1)と最小なので、相当広い範囲をカバーしていることがわかる。これが第一の特徴だ。表紙に掲げられた欧州旗に象徴されるように、この鉄道地図は、ヨーロッパ全域を初めて挿図を使わずに一図郭に収めようと試みている。左端はアイスランド島を取り込むため、海が多く占めるのも厭わず、西経20度まで図郭を伸ばす。右端はヨーロッパロシアの東限ウラル山脈を越えたエカテリンブルクに届く。北はスカンジナビア半島北端ノールカップ、南はアフリカ北岸からイランのテヘラン、イスファハンを結ぶラインまで確保した。

矩形の用紙にうまく入れるために、投影法は経度0度を中心軸とするロビンソン図法を用いている。擬円筒図法の一種であるこの図法では、メルカトル図法のように極に向かって面積が著しくひずまないよう、補正が施される。すなわち経線(縦軸)は平行線でなく、中心軸方向に緩やかに曲げられ、緯線間隔(南北の図上距離)は高緯度でも小幅な変化にとどめられる。これによって用紙の天地寸法も節約できるのだ。

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サンプル図(イタリア北西部)
画像は http://beilstein.biz/ から取得

第二の特徴は、鉄道の分類が詳細なことだ。大きく分けると高速線か、在来線かの区別がある。高速線は一貫して青の二重線をベースにした記号が使われ、新線と既存線改良、標準軌と広軌、非電化の区別がある。建設中または計画中の高速線も、開通予定年つきで表示されている。

在来線の記号はさらに多様だが、デザインに一定の法則がある。まず、軌間の別は線の形式で表す。具体的には標準軌が実線、広軌は旗竿形、狭軌は旗竿の白抜き部分を黄色に塗っている。次に、電化の別は塗りの有無(電化は塗り、非電化区間は白抜き)で、旅客線・貨物線の別は色(旅客線が朱色、貨物線はグレー)で区別するという具合だ。これで、たとえば標準軌で非電化の貨物線なら、実線の中を白抜きにした灰色の記号と特定できる。

第三の特徴として、地勢表現の繊細さがある。ぼかし(陰影)と、高度に応じて連続的に変化する彩色の組合せは、ヨーロッパの地勢図として使用に堪える出来栄えだ。凡例は英、独、仏、伊、西、露の6ヶ国語で説明されているし、主要都市名に現地語表記を併用しているのも興味深い。見慣れたラテン文字のほかにアラビア文字、ギリシャ文字、キリル文字、グルジア文字、アルメニア文字を探すことができる。

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サンプル図(リヨンとその周辺)
画像は http://beilstein.biz/ から取得

筆者の目にはなかなか魅力的な鉄道地図と映ったが、果たしてトーマス・クックのライバルになるだろうか。クックは、景勝路線をマークする一方で、鉄道記号の分類は幹線・支線の別や建設中、休止中など、旅行計画に関連する情報に絞っているので、シンプルで見やすい。対するK+Fは、記号を複雑にしたため、鉄道愛好家や職業人でなければ、やや難解な印象を抱くかもしれない。K+Fの縮尺が小さいことも不利な条件だ。クックは地図の裏面に中央部を拡大するサービスまでしているが、スイスの鉄道地図を別に作っているK+Fとしては、自社商品との競合は避けたいところだろう。

一方、クックはベースが白地図なので、旅心を誘う小道具として見たときには物足りない。その点、K+Fの地勢表現には、周回衛星の小窓から地球の表面を見ているような実感がある。欄外に整列している各国の国旗と国勢データを参照しながら、地図を眺めるのも楽しい。この地図の主題ではないアフリカや中央アジアの鉄道も省略せずに描いてあるので、得した気分になるという点も付け加えておこう。

両者を一言で評すれば、クックは旅行資料であり、K+Fは鉄道調査資料あるいは鑑賞用ということになる。あえてライバルに仕立てるまでもないのかもしれない。

■参考サイト
バイルシュタイン社のサイト http://www.beilstein.biz/
 英語版あり。バルセロナ、ミラノ、パリ付近のサンプル図が公開されている。
 なお、この地図は、上記サイトからリンクしているK+Fのショッピングサイトや、各国主要地図商で購入できる。紀伊國屋BookWebでも扱っている。

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 K+F社、バイルシュタイン社の鉄道地図は、下記でも紹介している。
 スイスの鉄道地図 I-キュマリー+フライ社
 ドイツの鉄道地図 V-キュマリー+フライ社
 イタリアの鉄道地図 I-バイルシュタイン社

2009年3月19日 (木)

ヨーロッパの鉄道地図 III-折図いろいろ

トーマス・クック以外にも、個性豊かなヨーロッパ鉄道地図が刊行されている。手元にあるものを紹介しよう。

Blog_europeanrailmap2

カナダ、バンクーバー近郊のITMB出版社 ITMB Publishing は、さまざまな縮尺で世界の国・地域図、市街図を多数発表しているが、その中に「ヨーロッパの鉄道 Europe Railways」(右写真)がある。109×69cmの耐水紙を使用して、オモテにヨーロッパの西半分、裏面に東半分を掲載している。縮尺は1:3,350,000(335万分の1)で、スカンジナビア北中部と、列車は走っていないがアイスランドは1:8,000,000(800万分の1)の挿図に収まる。

「列車でヨーロッパを旅する人はたいへん多いのに、大多数のヨーロッパ地図で鉄道路線の情報が省かれていることはほとんど知られていない。そう、AA、ADAC、ブレー、フライターク、ヘーマ、ミシュランその他、多くの地図に線路は表示されておらず、道路だけだ。その点、この地図ではアイルランドからウラル山脈、ノルウェーから地中海まで、旅客鉄道の大部分をしっかりと表示している」。

自社サイトの地図紹介の一部だ。例に挙げられた各社はもともと道路地図として作っているので、鉄道の記載がないことを責めるわけにはいかない(そして実際はけっこう表示されている)が、それに比べてこれは道路と鉄道を同格に扱っている、と言いたいのだろう。

確かにこの地図では、鉄道を旗竿記号で明確に示しているので、ネットワークが概観できる。しかし、幹線支線のような区別は考慮されておらず、この場所を通っている、この都市間を結んでいるということが、知り得る情報のすべてだ。また、小縮尺の辛いところで、スイスのようにほんとうに鉄道で回れる地域の路線を表しきれていない。一方、道路のほうは、幹線自動車道(E-road)の路線番号が入り、道路種別も記号化されて、こちらが主役と言われても不自然でないほどだ。鉄道地図というより、むしろヨーロッパ広域交通地図という表現が当を得ていよう。

■参考サイト
ITMB出版社 http://www.itmb.com/
 右メニュー "Map Sample"にサンプル画像が、"Shop Onlines"オンラインショップで、自社地図のみならず世界各地の地図が購入できる。
「ヨーロッパの鉄道 Europe Railway」のサンプル画像
http://www.itmb.com/map_samples/ITM/Europe-Railways_SMdet.jpg

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アメリカ、フロリダ州にあるストリートワイズ・マップス社 Streetwise Maps は、ラミネート加工を施した蛇腹折りのミニマップを専門とする出版社だ。このシリーズの一つに「ヨーロッパと主要鉄道路線 Europe & Major Rail Routes」(右写真)がある。48.8cm×21.6cm、縮尺1:11,500,000(1150万分の1)、鉄道は高速線と幹線、それに旅客フェリーを図示するだけの簡単なものだが、地方都市をまめに記載しているのと、主要都市間の所要時間が別表になっていて、実用にも配慮されている。とかく1枚ものの地図は扱いにくいときがあるから、ハンディで丈夫な地図なら根強い需要があるのだろう。

■参考サイト
ストリートワイズ・マップス社 http://www.streetwisemaps.com/

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アメリカ、カリフォルニア州のマップリンク社 Map Link は、世界の地図を取り扱うリテーラーとして有名だが、自社ブランドを冠したユニークな主題図のことは、知る人ぞ知る領域だ。例えば、世界の天文台と天文館地図、旅行者のための世界リスク地図、国際テロリズム参考地図、とタイトルが並ぶと、「ヨーロッパ鉄道地図 Rail Map of Europe」(右写真)がいかにも平凡な作品に見えてくる。しかし、表札だけで内容を判断するのはまだ早い。これは同社ならではの発想が貫かれた地図だからだ。

98×69cmの大判用紙の片面刷りで、縮尺は1:4,125,000(412万5千分の1)、大西洋岸から東はルーマニアまでが掲載範囲だが、スカンジナビアを右上に挿図したため、ポーランドやバルト三国は割愛されてしまった。凡例は5ヶ国語対応で、英・独・仏、それにスウェーデン語と日本語という珍しい組合せだ。鉄道ファンが使用する主要言語として選ばれたのかと勝手に想像した。

鉄道記号は国鉄か私鉄かで分け、さらに運行頻度で5段階に分ける。民営化や上下分離で国鉄という分類が難しくなってはきたが、ここまでなら常識的な設定だ。次の旅行情報という記号が独創的で、A地点におけるおよその出発時間(厳密な時刻ではない)とA地点からB地点までの所要時間を逐一図示している。所要時間は赤数字で、出発時刻は時計をイメージした目盛り入りの円で表していて、これによってパリ~ベルリン間は所要10~11時間、パリ発午前9時ごろ、午後1時と9時ごろの1日3便あることがわかる。航路は所要時間とともに、夏季と冬季に分けて運行頻度を数字で示している。

ところが、この表が地方線を含め、ぎっしりと地図に埋め込まれて、路線のルート表示がかなり隠れてしまうし、時計の目盛りが細かすぎて、列車頻度が高いと判別に苦労する。それに1時間単位の表示では目安程度にしか使えない、もっと頻発になると表現できないなど弱点も多々見つかる。果たして商品として成立しているのか、という疑問はあるものの、アイデア賞だけは授けたい気がする。

■参考サイト
マップリンク社 http://www.maplink.com/
"Maps & Atlases" > "Map Link Code - Locate a specific map" > 入力欄に"ML EUR RAIL"
これで上記地図のサンプル画像が表示される。ちなみに、世界の天文台と天文館地図は"ML WOR ASTRO"、旅行者のための世界リスク地図は"ML WOR RISK"、国際テロリズム参考地図は"ML WOR TER"

イギリスのロジャー・ラッセルズ社 Roger Lascelles は、赤いカバーをまとった国・地方別地図が看板商品だが、中に「ヨーロッパ鉄道電化方式地図 Europe Railway Electrification Map」と「世界鉄道ゲージ地図 World Railway Gauge Map」というユニークな地図(下写真)が含まれている。

前者は、ヨーロッパ地図を国ごとに支配的な電化方式で塗り分けたものだ。交流の国は緑系、直流は赤系と補色で対比しているので、ベルギーとオランダが交流連合に囲まれながら直流の孤島を維持しているといったパッチワークの分布状況が、一目瞭然だ。地図には主な鉄道路線も記入されている。一国で複数の電化方式を採用していることもしばしばあるが、これは別冊に掲載された方式別延長キロの表が参考になる。冊子のメイン記事は、電化方式を主としたヨーロッパの鉄道事情についての詳しい解説(英語)で、興味深く読める。

後者は、全世界の主要鉄道路線を軌間(線路幅)別に色分け表示したもので、こちらはさらにボリュームのある地域別の説明資料が付録になっている。

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(右)ヨーロッパ鉄道電化方式地図 (右)世界鉄道ゲージ地図

■参考サイト
ロジャー・ラッセルズ社 http://www.rogerlascellesmaps.co.uk/

いずれも、自社ショッピングサイトのほか、日本のアマゾンなどでも扱っている。

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2009年3月12日 (木)

ヨーロッパの鉄道地図 II-トーマス・クック社

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ヨーロッパ全域をカバーする鉄道地図といえば、「トーマス・クックのヨーロッパ鉄道地図 The Thomas Cook Rail Map of Europe」がまず思い浮かぶ。同じ出版社が刊行している歴史ある鉄道時刻表 European Timetable とともに、ヨーロッパを鉄道で旅する人たちに愛用されてきた。1978年初版で、現在17版を重ねる(写真は第15版。最新版は表紙デザインが変わっている)。

簡単に内容を紹介しておこう。99×69cmの大判用紙を用いた地図のオモテ面は、縮尺およそ1:4,000,000(400万分の1)のヨーロッパ全図(スカンジナビア半島は挿図で1:6,000,000)だ。大西洋岸からモスクワやトルコのアンカラまでを収めている。クック鉄道時刻表の掲載範囲がモスクワ(シベリア鉄道を除く)、イスタンブールまでなので、合わせてあるのだろう。ただし、この縮尺では、鉄道網が比較的稠密なヨーロッパ中央部(特にスイス)は表しきれないため、裏面にこれを補う1:1,500,000(150万分の1)の拡大図がある。東西はパリ~ワルシャワ、南北はベルリン~ボローニャの範囲については、こちらに詳細が載っている。

凡例は、英独仏西の4ヶ国語が併記されている。鉄道に関する地図記号で最も目立っている赤の実線は、フランスでいう LGV(Ligne à grande vitesse)、つまり高速路線だ。対して黒の実線は普通鉄道の幹線、それより細い線は支線を表す。建設中、休止中、ラック式鉄道の区分もある。観光鉄道のうち重要なものには T(= Tourist Railway)印が添えてある。駅の表示は主要駅のみだが、起終点だけでなく、中間駅も結構目配りされているようだ。中でも国境駅は赤で塗ってある。シェンゲン協定で国境通過時のパスポートチェックはなくなったとはいえ、機関車の付替えなど国際列車特有のイベントが残っているからか。

バス路線はオレンジの細線を充てるが、鉄道網を補完するものや、旅行者がよく利用するものに限られている。一瞥すると、この記号の密度が高いのは、アイルランド、スイス南東部からチロルにかけて、そしてスカンジナビアの北部だ。旅のニーズがあるのに、鉄道網がほとんど消滅した、あるいは発達していない地域ということだろう。

ところで、クック鉄道地図の有名かつ最大の特徴は何だろうか。それは路線の上に緑のアミ(網点)で強調しているので目を引く。そう、景観路線 Scenic route の表示だ。地図カバーの解説を借りると、これは「鉄道で旅する人の参考になるように、山や川、海岸の風景が車窓から見えるという条件で、個人の知見や地図ユーザーの投書の中から編集部員の主観で選んだもの」。示された区間が絶景の連続かというとそうでもないのだが、車窓を楽しむ旅の目安にはなる。他に、主なスパイラル(ループ線)を誇張して描いているのもこの方針の延長線だろう。

しかし、地図を眺めるにつけ、筆者が残念に思うことが二つある。その一つが景観路線の推薦理由が明らかでないことだ。さいわい、アルプス、ピレネーなど山岳地帯はぼかしがかけられているし(かなり大雑把だが!)、主要河川や海岸線に沿う区間も見ればわかる。何が見どころか、ある程度まで推測は可能というものの、簡単な分類が記されていればさらに親切だろう。

二つ目は、時刻表とのリンクが考慮されていない点だ。時刻表のスタッフが編集、更新していると広告にうたうほど、クック鉄道時刻表の威光を背負っているのに、不思議なことだ。鉄道地図は、ディテールはともかく地理的位置に合わせて路線網を描いている。一方、時刻表の索引図は、主要駅間を直線で結んで位置関係だけを明らかにした、いわゆるスキマティックマップ(位相図)だ。

たとえば、鉄道地図で発見したシーニックルートを走る列車の時刻を調べたいと思ったとしよう。図法の異なる2つの地図を比較して路線を同定し、索引図のほうで時刻表番号を求めて、ようやく目的の時刻表に到達する。慣れない人にとっては億劫な作業だ。しかし、鉄道地図に時刻表番号が添えてあったら、ワンストップで解決するだろう。何か技術的な問題があるのかもしれないが、理想の道連れ Ideal companion を標榜するからには、改良を期待したいものだ。

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クック鉄道地図は、アマゾンその他のショッピングサイトで扱っている。なお、ミュンヘンのゲラモント出版社 GeraMond Verlag から刊行されている「ヨーロッパ鉄道地図帳 Eisenbahnatlas Europa」(2006年、右写真)は、各国の鉄道の現状をカラー写真つきで解説した本だが、巻末の鉄道地図はトーマス・クックをそのまま利用している。

■参考サイト 
トーマス・クック出版社
http://www.thomascookpublishing.com/

★本ブログ内の関連記事
 ヨーロッパの鉄道地図 I-ボール鉄道地図帳
 ヨーロッパの鉄道地図 III-折図いろいろ
 ヨーロッパの鉄道地図 IV-キュマリー・ウント・フライ社
 ヨーロッパの鉄道地図 V-ウェブ版
 ヨーロッパの鉄道地図 VI-シュヴェーアス+ヴァル社

 ヨーロッパ版の姉妹品であるイギリス・アイルランド鉄道地図 Rail Map Britain & Ireland を紹介している。
 イギリスの鉄道地図 I-トーマス・クック社

2009年3月 5日 (木)

ギリシャの旅行地図-ロード社

紺碧の海に白い家並みが眩しいエーゲ海クルーズは、ギリシャ観光の文字通りハイライトだ。お手軽な1日コースなら、首都アテネの外港、ピレウス港からサロニカ湾に浮かぶエギナ(アイギナ)Αίγινα / Aegina、ポロス Πόρος / Poros、そしてイドラ Ύδρα / Hydra (Idhra) 島を巡って戻る。3~4日かけるときは、キクラデス諸島のミコノス Μύκονος / Mykonos、サントリーニ(ティーラ)Σαντορίνη (Θήρα) / Santorini (Thira)、トルコ沿岸のドデカネス諸島に属するパトモス Πάτμος / Patmos、ロードス Ρόδος / Rhodes あたりまで足を延ばすらしい。

Blog_road1 前回紹介したアナーヴァシ社は、島ごとの地図シリーズ"Topo Islands"を持っていたが、意外なことに、観光客の人気が高い島の多くはまだ作成されていない。これに関しては、ライバルであるロード社のほうが充実していて、アナーヴァシの19面に対して33面(他に、県別地図に分類されるクレタ島東部、同 西部の2面)もある。上に挙げた宿泊クルーズで寄港する島々は、すべて用意されているのだ。

写真はシリーズの一葉、サントリーニ島だが(左は表面、右は裏面)、縮尺1:35,000の地形図に加えて、主邑フィラ Φηρά / Firaと夕陽の名所イア Οία / Oia (Ia) の市街図、ブドウ畑分布図、宿泊施設の連絡先、それに歴史、見どころ、特産品などの解説がギリシャ語と英語併記で付されて、たいへん充実している。

ロード社 Road は、アナーヴァシ社と同じくアテネを本拠とする地図や旅行書の出版社だ。公式サイトには、創立当時の決意を伝える文章が掲載されているので、引用する。

「ロード社は1994年2月に設立された。全世界から毎年何百万人が訪れる観光国にもかかわらず、ギリシャは、自国や外国からの旅行者が客観的な情報を伝える正確な地図も最新の旅行ガイドも手に入れることができない、基本的に地図のない国だった。そのころ利用可能な唯一の地図は、商業利用に多くの制限があり、道路情報が現実と大きな相違のあることに加えて、旅行者の関心が高い情報(区間距離、ガソリンスタンド、ビーチの名称、英語名など)が全く欠落したものだった。それが軍地理局の地図だ。(中略)ロード社は、高精度の地図と当時存在していた旅行案内書の有用さとの著しいギャップを埋めるために設立された。これは、当時から現在まで他の追随を許さないビジネスになっている。」

Blog_road2 少し前までギリシャの地図といえば、ロード社が代表的存在で、スタンフォーズやオムニマップのような地図店でも露出度が高かった。アナーヴァシの台頭を意識するようになったのは最近だ。ロード社のカタログを見ると、縮尺1:425,000は2面(セット販売)で、1:250,000は5面で本土をカバーしている。これより大縮尺では、県別地図、山岳地図、そして島の地図がある(写真左はギリシャ全図、右は山岳地図のピリオン山 Πήλιο / Mt. Pilion)。品揃えは競争相手とさして変わらないように見えるが、点数で比較する限り、力点の置き方が明らかに違う。

すなわち、アナーヴァシの得意分野は山の地図であり、ロード社は先述のとおり、島の地図なのだ。アナーヴァシは軍地理局のラスタデータ(地図画像)をいち早く取り入れて、1:50,000なら等高線間隔20mに改版を進めた。確かに、山歩きに使う地図はこのくらいの精度が望ましい。一方のロード社は、島の地図でも等高線20mを実現しているのはまだ全点数の2割程度で、多くは100m間隔の等高線にコントラストの強い段彩をかけた大味な表現のままだ。島の地図の用途は山歩きではなく、道路網や観光地の情報を得ることだと考えているのかもしれない。

サイトにある自己紹介で、ロード社は自社地図の特徴を列挙している。いわく、軍地理局の地理情報の使用(すなわち信頼性)、読み易さ使い易さ、豊富な情報量、正確性、ハードカバー、耐水紙、頻繁な更新、良質な印刷...。地図の品質が全般的に向上している現在では、もはやインパクトが弱まってしまった項目もあるが、しかし熱心なアピールの中に、自国の地図文化の改革を率いてきたロード社の自負心が窺える。

同社の地図は、自社ショッピングサイト(英語版あり)で発注すれば、国外へも送ってくれる。また、アテネ市内に直営店舗もある。

■参考サイト
ロード社 http://www.road.gr/
 オンラインショップにはサンプル画像がある。

★本ブログ内の関連記事
 ギリシャの旅行地図-アナーヴァシ社
 ギリシャの地形図

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