ギリシャの旅行地図-アナーヴァシ社
民間会社の地図は、官製地図よりはるかに親近感がある。旅行やドライブに役立つ情報が強調され、更新もまめに行われ、書店で手軽に買えるからだ。その反面、地勢表現は二の次で、精度が低かったり、全く省略されることもあるので、もっぱら鑑賞派の筆者はあまり食指が動かなかった。わざわざ諸外国の官製図の動向を調べ始めたのも、そこに物足りなさを覚えていたからだ。
しかし近年、先進国では、国の測量局が地形情報を画像や数値データで提供するのが当たり前のようになってきた。民間会社は競ってこれを利用し、官製図と同等の、ときにはそれを超える美しい地勢表現の地図を発表している。ギリシャの民間図のレベルもまた、この趨勢に沿って進化の途上にある。双璧というべき地元のアナーヴァシとロードの2社が、品揃え、質、販売、どの面をとっても互角の勝負をしているようだ。
アナーヴァシ社Ανάβαση / Anavasiの地図刊行の歴史は新しく、1997年に始まる。アナーヴァシは、ギリシャ語で上ることを意味するそうだが、その名に違わずわずか10年で、道路地図や山岳地図、ガイドブックなど立派なレパートリーを備えるまでに成長した。1枚もの地形図はトポTopo(地形)シリーズと称している。測量局提供の等高線にぼかし(陰影)と段彩を加え、地形図としても通用するクオリティを誇る。凡例だけでなく、地図上の地名にもギリシャ語と英訳の併記が徹底されて、読み取りに不自由を感じさせない。用紙は厚手の耐水紙を使い、野外持ち出しにも適した仕様だ(写真左はTopo 25「オリンポス山」、右はTopo 100「フォキス、東エトリア」)。
縮尺別に見ていくと、まずTopo 250シリーズは縮尺1:250 000で、島嶼部を除くギリシャ本土を7面でカバーする(現在は改版中らしく、カタログにあがっているのは、ペロポネソス半島Πελοπόννησος / Peloponneseのみ)。これは道路地図といっていいだろう。筆者は実見していないが、冊子形式の1:250 000道路地図帳(全国版、地域版)も刊行されているようだ。
これより大きい縮尺の地図は、登山者の多い山岳地域を対象としたものになる。オレンジ色の表紙のTopo 100(縮尺1:100 000)は等高線が100m間隔で、湾をはさむギリシャ中央部とクレタ島Κρήτη / Creteの図幅がある。緑のTopo 50は等高線20m間隔で、ギリシャの背骨と言われるピンドス山脈Πίνδος / Pindusからパルナッソス山Παρνασσός / Parnassus、オリンポス山Όλυμπος / Olympus、ペロポネソス半島南端のタイゲトス山地Ταΰγετος / Taygetusなど、トレッキング適地を広域的に網羅している。黄緑のTopo 25は等高線10m間隔で、図郭を有名な山とその周辺にターゲットを絞ったものだ。
このほか、エーゲ海Αιγαίο Πέλαγος / Aegean Seaに点在する島嶼群を対象にしたTopo Islandsシリーズ(縮尺は1:20 000~1:60 000)が、現在19面出ている。(右写真はTopo Islands「ナクソス島」、下はTopo Islandsシリーズの索引図、2006年現在。なお、Topoシリーズ全体の索引図は同社のウェブサイトにある。下記参考サイト参照。)
地図記号はどのシリーズも大差ないが、特徴的なのは、文化財の記号が充実していることだ。縮尺にもよるが10以上の種類があり、イオニア式の柱頭をかたどった古代寺院ancient templeや、ドームの空間をイメージしたビザンティン建築Byzantine monumentなどは、ご当地ならではの項目といえる。他にも、アーチ形を写した石橋stone bridge、そして石灰焼き窯limeklin、脱穀場threshing floorとユニークな記号が並んでいる。
旅行地図の刊行とともに、アナーヴァシ社はディジタル分野にも力を注いでいて、GPS装置用などの電子地図作成が社業のもう一つの柱だ。ギリシャの地図を必要とするときは、まず当たるべき地図出版社といえるだろう。同社の地図は、欧米の主要地図商でも扱っているが、自社ショッピングサイト(英語版あり)で発注すれば、国外へも送ってくれる。また、現地に行く予定なら、アテネ市内にある直営店舗を訪ねるとよい。ライバルであるロード社については、次回紹介する。
■参考サイト
アナーヴァシ http://www.mountains.gr/ 英語版あり
索引図ダウンロード http://www.anavasi.gr/en/downloads.php
ハイキングマップ hike_map_frame.jpg、道路地図 road_map_frames.jpg
今回、久しぶりに地理局のHPを訪問したら、垢抜けたデザインに差し替えられ、英語版もギリシャ語と同じボリュームが用意されていた。しかも、地形図のオンライン発注サイトまであるではないか。試験段階と断っているとおり、地図索引図と連動していないし、残念なことに代金決済システムが採用されておらず、支払いは従来の銀行送金か小切手で行うしかない。しかし、リクエストが来れば対応するというような受身の姿勢からは、転換が図られつつあるようだ。




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