新線試乗記-京阪中之島線
11月のある日、筆者は京都、出町柳(でまちやなぎ)駅の地下ホームに立っていた。2番線に入ってくる中之島線直通の快速急行を待っていたのだ。京阪電鉄中之島線2.9kmは、大阪市の心臓部ともいうべき中之島を東西に貫く新たな鉄道として、今年(2008年)10月18日に開業した。これにあわせて、京阪は京都からの直通列車に新車3000系を投入し、同時に、長年親しまれた車両の塗色を変えることを発表している。特急が黄・赤系、急行・普通は緑系という従来の組み合わせは踏襲したが、3000系は紺(エレガントブルー)と白(アーバンホワイト)の塗り分けに銀色の細い帯を巻いた、これまでにない配色になった。沿線で見かけるたびに、新しいルートが通じたことを深く印象づける(写真は中之島駅で撮影)。
閑散としたホームから乗り込み、ドア間の1-2列のクロスシートが並ぶ一角に腰を下ろす。新線開業に伴うダイヤ改正と同時に、京都地下鉄と同じだった駅名が改称になった。神宮丸太町(じんぐうまるたまち、神宮は平安神宮の意)、祇園四条(ぎおんしじょう)、清水五条(きよみずごじょう)と、著名観光地の最寄りをアピールする。呼び慣れた京阪四条でよさそうなものを、と最初はけげんに思ったが、祇園の文字が入った駅名標を見ると、なるほど舞妓さんを見かけそうな華やかさが漂ってくる。地元にいてもそう思うのだから、市外からの集客にはきっと効果があるのだろう。確かに祇園は駅から至近だが、清水五条駅から清水の舞台まで歩くと優に20分はかかるので、ご注意を。
閑話休題、快速急行は伏見の狭い町並みをすり抜け、宇治・木津川の堂々たる鉄橋を渡り、男山の裾野を急カーブの連続でかすめて、枚方市に到着する。特急に連絡するとアナウンスがあり、向かいのホームに緑色6000系が待っていた。いつ抜かれたのだろうと首を傾げたが、そもそも最優等列車が格下を待ち合わせるはずがない。これも今回設定された、快速急行を受けて走る枚方市~淀屋橋間のショートラン特急だった。
寝屋川市から複々線の内側に入ったあとは、小気味よい走りっぷりを見せる。京橋でJR大阪環状線を乗り越してまもなく、本線を分かつポイントをわたる。川幅いっぱいに水をたたえた大川(旧淀川)を右に見ながら、3階建ての高架から一気に地下まで降下すると、いよいよ分岐駅の天満橋だ。中之島方面の列車は、もと淀屋橋へ通じていた北側の2番線に入る。
中之島は古い淀川の中州だ。江戸時代には諸大名の蔵屋敷が軒を並べ、米や特産品を満載した舟がしげく往来していた。明治期に入ると廃れて、跡地は公共施設に転用されたり、民間へ払い下げられた。東側一帯には市役所をはじめ、日銀、図書館、音楽ホールや新聞社などが建ち、公園も整備されて、大阪の中心と呼ぶにふさわしい。対する西側一帯には老舗ホテルもあるが、地下鉄のルートからはずれているせいで、東に比べると賑わいには遠かった。しかし近年、文化施設や商業施設が姿を表し、今も再開発の槌音が響いている。地域の交通の軸として期待されているのが、この中之島線なのだ。
天満橋から終点までの間に、付近の橋の名をつけた駅が3つ設けられている。駅間距離は0.5~1.0kmとごく短く、トラム並みにゆっくり進んでは、すぐ次のホームに到着する。トンネルは天井から柔らかい照明が差しているし、ホームの壁面は駅ごとにレンガ調、石、金属、木と材質を変える懲りようだ。東京の副都心線もデザインコンテストのようだったのを思いだした。中心部を貫く路線は、造る側の気合の入れ方が違うようだ。
天満橋から7分、あっけなく終点中之島に到着した。このあたりは中之島地区の中心というより西端に近いので、駅名だけを頼りに来た人は混乱するかもしれない。地上に出たあと、北岸に沿って東の方へ戻ることにした。堂島川の堤防の上には、木とガラスを組んだ中之島線の出入口がぽつりぽつりとが立ち現れる。わりあい近接しているせいで、まだ中之島駅が続いているのかと錯覚するが、もう隣の渡辺橋だった。地下への長い階段を下りてみると、改札の1階上は飲食店が軒を並べている。周辺がビジネス街だからだろう。ドトール、マクドナルド、サブウェイ、その次に551の蓬莱があったのはさすが地元だ。関西の人にはおなじみの、おいしい豚まんを売る店だ。
大江橋では、大阪のメインストリート御堂筋と交差する。市役所と日銀大阪支店が通りをはさんで対峙する、オフィシャルな雰囲気の場所だ。御堂筋が渡る橋でも、南の土佐堀川にかかる淀屋橋は京阪や地下鉄のおかげで認知度が高いのに、北の大江橋は無名だった。駅名に取り上げられたことで、少しでも知名度があがるといいが。
そして早くも中之島散歩のラストコースになる。この先は文化ゾーンで、中之島図書館、中央公会堂(中之島公会堂)と重要文化財に指定されたレトロな名建築が並ぶ。ギリシャ神殿風の図書館といい、赤れんが洋館の公会堂といい、大阪が東京と互角に張り合っていた時代の勢いを髣髴とさせる。その向かいには、なにわ橋の出入口がある。これまで見てきた建屋とは全く違う扇形の現代的なデザインは、安藤忠雄氏の設計だ。コンコースも他にはない天井まで木張りの2層吹抜けで、周辺の雰囲気に負けない存在感を出そうと努めたようだ。
しかしここは土佐堀川をはさんで北浜の向いで、難波(なにわ)橋を渡ればすぐ京阪本線北浜駅がある。そのために運賃も、割増を取らずに本線と同額に抑えているが、立派な駅施設に見合う利用者が見込めるのかどうか。中之島線は全線の半分まで本線と100~200mの距離を並走している。実は筆者も、京都への帰りは淀屋橋まで少し歩いて、乗り慣れた本線の特急にした。競合路線のない西部地区は利用者を独占できるとしても、一帯はまだ開発途上で、すぐに大きな需要は見込めない。将来に向けての投資と割り切って当面は辛抱だろうかと、特急の窓から、対向する3000系の艶やかな車体を見送りながら考えた。
■参考サイト
京阪中之島線
http://nakanoshima-line.jp/
http://www.keihan.co.jp/shinsen/
中之島(大江橋)付近の1:25 000地形図
http://watchizu.gsi.go.jp/watchizu.aspx?b=344140&l=1353000
中之島(大江橋)付近のGoogle地図
http://maps.google.com/maps?hl=ja&ie=UTF8&ll=34.6936,135.5012&z=17




www.fahrplanfelder.chは、スイス公式時刻表をPDFファイルで提供するサイトだ。鉄道、バス、湖岸の連絡船などテーブル形式の公共交通機関時刻表Fahrplanfeldが、すべて閲覧できるようになっている。スイスの公用語である独、仏、伊、ロマンシュの4ヶ国語に加えて、英語による案内があるので、外国人にとっても使いやすい。ファイルはドイツのように電話帳1冊まるごとではなく、時刻表番号ごとに分けられていて、地名をキーにしてその町を通る交通機関を検索することも可能だ。
以前の記事で、出発地と目的地と乗車日を入力すると最適の列車を表示するオンライン時刻表が、旅を想像する愉しみを奪ってしまったと嘆いたことがある。それを聞き取ってくれたとは思えないが、ドイツ鉄道Deutsche Bahnのサイトにある「電子時刻表Elektronisches Kursbuch」では、冊子にすれば電話帳を超える厚さになるテーブル形式の時刻表を、まるごとPDFで提供し始めた。冊子のほうは今年限りで廃刊にするらしい。時刻表は、地域別におのおの数百ページ、30~40MBもあるような重いファイルだが、それと同時に、ドイツ鉄道の旅客全線を表した鉄道地図も見ることができる。
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