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2008年10月23日 (木)

オーストリアの鉄道地図 I

Blog_austria_railmap1 鉄道地図のテーマでは各国とも1枚ものの地図から先に紹介してきたが、オーストリアに関しては現在流通しているものはなさそうだ。しかし、かつては「オーストリア鉄道・航路地図Eisenbahn- und Schiffahrtskarte der Republik Österreich」という連邦鉄道(国鉄)ÖBB発行の大判地図があった(右上写真が全体。右下はその一部を拡大)。

Blog_austria_railmap1_detail 筆者の手元にあるのは1958年版とかなり古いが、縮尺1:600 000で、行政界と水部、山名を表示したベースマップの上に、国鉄の全線全駅を表示したものだ。国鉄線は標準軌・狭軌、単線・複線、電化・非電化を線の形状で区別し、さらにウィーンWien、リンツLinz、インスブルックInnsbruck、フィラッハVillachの管理局別に色分けしている。私鉄やロープウェー、それに路面電車のルート(停留所は省略)ももれなく記載している。ユニークな点は、駅を示す丸印が、線路のどちら側に駅舎があるかを表現していることだ。余白には主要都市の拡大図も入って、特色9色刷りの詳細かつ贅沢な鉄道地図だった。堀淳一氏の著書で、機能に徹し、「ドイツやフランスのそれとも一味違った美しさを持って」(『地図と風土』p.248、下注参照)いると言及されているとおりだ。

Blog_austria_railatlas現在、入手できるものとしては、冊子(地図帳)形式の鉄道地図がある。シュヴェーアス・ウント・ヴァル社Schweers+Wallの「オーストリア鉄道地図帳Eisenbahnatlas Österreich / Railatlas Austria」、24cm×28cmの判形、128ページの上製本だ(写真左は表紙、右は裏表紙)。手元にあるのは2005年版だが、まだ次の改訂版は出ていない。同社は、ドイツとスイスについても同じ仕様で刊行しているので、都合、鉄道地図帳のドイツ語圏三部作というべきものだ。

96ページに及ぶ鉄道地図の縮尺は1:150 000で、同じ縮尺のスイス編とぴったりつながる。ちなみにドイツは1:300 000だ。国土面積の違いもさることながら、狭軌の小鉄道が今なお活躍している両国なので、描写に余裕を持たせた縮尺にしてあるのだろう。主要都市とその近郊は、この後に1:50 000の拡大図がある。ウィーンWien、バーデンBaden、グムンデンGmunden、グラーツGraz、インスブルックInnsbruck、リンツLinz、ザルツブルクSalzburg、フィラッハVillachが用意されている。市内を走るトラムのルートまで書き込まれているが、中間の停留所は別ページの系統別路線図を見ることになる。そのほか、世界遺産のゼメリング鉄道Semmeringbahnも、1:150 000では連続するトンネルや橋梁のデータが入りきらないのだろう。1:75 000の挿図を使っての特別扱いだ。

巻頭言で、この地図帳のテーマは現役の鉄道網を描くことだと言っているが、廃止・休止線や計画線もできるだけ収録している。オーストリア最初の鉄道は、1827年にブドヴァイスBudweis(チェコのチェスケー・ブジェヨヴィツェČeské Budějovice)~リンツLinz~グムンデンGmunden間に開通した軌間1106mmの馬車鉄道だ。ザルツカンマーグートSalzkammergutで産出する岩塩を運ぶために敷かれたそうだが、特にリンツ以北の国境越えについては、一定の間隔で置かれた交換所とそのキロ程、標高に至るまで、現役の鉄道と同等の詳細データを地図から読み取ることができる。

計画線では、ウィーン西駅~リンツ間の西部鉄道新線Neue Westbahnが目を引く。すでに供用中の区間もあるが、ウィーンからザンクト・ペルテンSt. Pöltenまでは、長さ11.6kmのウィーンの森トンネルWienerwaldtunnelをはじめとする大小のトンネルによってドナウの平野に迂回する別線を建設中だ。オメガ線を介在させた現ルートからは最大10km以上も離れている。
もう一つ、大規模なプロジェクトは、同国南部の主要都市であるグラーツとクラーゲンフルトKlagenfurtをつなぐコーアアルム鉄道Koralmbahnだろう。この間には高速道路が整備されているが、鉄道ではかなり遠回りを強いられる。これを長さ32.8kmのコーアアルムトンネルとドラウ川Drau沿いの新線と既存線の改良で直結しようというものだ。2014~18年の完成をめざしている。

はじめにスイスやドイツ編と同一仕様と書いたが、中にはユニークなものもある。複線のときに列車が通る方向が矢印で示されているのだ。その理由は、幹線の場合、ドイツやハンガリーは右側通行、スイスやイタリアは左側通行だが、オーストリア国内では混在しているからだ。ウィーン起点で見れば、ドイツへ直通する西部鉄道Westbahnは右側通行で、ゼメリング峠越えを擁する南部鉄道Südbahnは左側通行だ。ゼメリングの向こう側、ブルック・アン・デア・ムーアBruck an der Murでケルンテン州Kärnten方面への幹線が分岐するが、こちらは西部鉄道に合わせて右側通行に変わる。

もちろん、複線といってもいわゆる双単線方式なので、双方向に運転が可能なのだが、こういう特殊事情も鉄道地図にはちゃんと表現されている。旅行に携帯するには不向きだろうが、オーストリアの鉄道を研究しようとするなら、座右の書であるのは間違いない。

■参考サイト
シュヴェーアス・ウント・ヴァル社 http://www.schweers-wall.de/

ブドヴァイス~リンツ~グムンデン馬車鉄道(ドイツ語版Wikipedia)
http://de.wikipedia.org/wiki/Pferdeeisenbahn_Budweis–Linz–Gmunden
道路や列車の通行方向については次のHPの説明が詳しい。
Which side of the road do they drive on? http://www.brianlucas.ca/roadside/

注:堀淳一氏が言及しているのは、鉄道地図に触れた次の著書。
 『地図と風土』(そしえて, 1978. p246-248)
 『一本道とネットワーク』(作品社, 1997. p306-311および巻頭カラー図版V.6.11)

★本ブログ内の関連記事
 オーストリアの鉄道地図 II-ウェブ版

 シュヴェーアス・ウント・ヴァル社の鉄道地図帳については、以下も参照。
 スイスの鉄道地図 II
 ドイツの鉄道地図 III-シュヴェーアス・ウント・ヴァル社

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