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2008年9月11日 (木)

台湾 台東線(現 花東線)を地図で追う

全体図
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台湾島を一周する鉄道、いわゆる環島鉄路のうち、東岸の花蓮市と台東市の間はかつて軌間762mmのナローゲージで、西岸の路線網と接続しない孤立路線だった。台東線と呼ばれたその鉄道は、花蓮港~台東間175.7km、日本時代(台湾で言う日治時期)の1917~39年に順次開通した。

この区間は、島の背骨に相当する中央山脈の東側に、それより低い海岸山脈が並列する。山脈が落ち込む海岸線は平地が乏しい。その代わり、両山脈に挟まれた細長い谷、いわゆる花東縦谷が天然の通路となり、台東線もそこを通過する。急流が中央山脈から削り取った岩屑が堆積し、縦谷は大規模な扇状地と流路の不安定な氾濫原で覆い尽くされている。

旧版地形図に描かれた大蛇のように乱流する自然河川と、その脇をか細げに延びる狭軌鉄道のコントラストが、ダイナミックな風景を想像させ、早くから筆者の心を躍らせてきた。

しかし、1982年に、台湾の標準ゲージでJR在来線と同じ1067mmへの改軌が完成して、地形図上の姿もずいぶんと様変わりした。というのも、改軌に際して、ルート変更を含む大幅な線路改良が実施されたからだ。旧線の最急勾配25‰、最小曲線半径100mがそれぞれ15‰、300mに緩和されたほか、スピードアップのために重軌条化や一部複線・高架化の工事が現在も進められている。

そこで、日治時期の地形図に記録された旧線をたどりながら、新線でどのように変貌したかを見ていこうと思う。なお、以下の画像は、陸地測量部発行の1:50,000地形図に対して、衛星画像や現地の地図帳を参考に、花東線となった現路線を加筆したものだ。

図1:
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ピンクの線が台東線=旧線、ブルーが花東線=新線を示す。旧線上にある1910年開業の花蓮港駅(のち花蓮)は市街の海寄りにあり、さらに海岸へ伸びている。この図は1929(昭和4)年測図(花蓮港図葉)で、1939年延長の東花蓮港支線は描かれていないので、およそのルートを書き加えた。一方、新線は一部、製糖軌道跡を利用して市街北部を通過し、延長上に花蓮新站(「站」は駅の意)が新設されている。この図ではずいぶん郊外のように見えるが、現在は駅の周囲もすっかり市街地化した。旧線は1982年まで運行されており、吉安駅で北迴線に接続していた。図の左下に消える台東線は、やがて花東縦谷に入っていく。

図2:
Blog_taidongline_map2

壽豐溪の渓口は、みごとな扇状地が発達している。旧版地形図では、きれいな扇形に開いた等高線がよくわかる。旧線は溪口~南平間で、扇状地の扇頂付近まで遡り、鉄橋をできるだけ短くしていたが、新線は長さ1598mの河底隧道(トンネル)で短絡する。溪口、林栄両駅のスイッチバック式ホームも解消された。

なお、現在では緑の線で示したような堤防の整備で、流路の固定化が進んでいる。しかし、トンネルはもとの川幅をカバーする長さがあるので、氾濫のリスクが想定されているのかもしれない。橋梁ではなくトンネルを採用した理由は、川が上流から大量の砂礫を供給し続けて発達中の扇状地では、河床が掘削される懸念がないからだ。逆に橋梁なら、砂礫の蓄積で河床が上昇するのを見越して桁高を設定するため、アプローチに勾配が必須となる。

図3:
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萬里橋溪の北の山際を回る鳳林~萬榮間では短絡化工事が行われた。萬里橋溪の鉄橋も架け替えて複線化されるようだ。萬榮~光復間の馬太鞍溪は河底を通る2356mの光復隧道に切り替わったが、不必要なほど長い理由も、旧図に重ねると合点がいく。光復には製糖工場があり、製糖鉄道が台東線に並行していた。このあと富源~瑞北間の富源溪も新しい橋梁で直線化されているが、図は省略する。

図4:
Blog_taidongline_map4

その富源溪は南へ流れ、瑞穂駅の東で北流してきた秀姑巒溪に合流して、海岸山脈を断ち切る形で太平洋に出て行く。川の流れはここから逆を向き、線路も上り勾配に転じる。秀姑巒溪の左岸(西側)は台地のへりの急斜面が迫っているので、旧線は台地のくびれた部分を、難工事の末、線内最長1166mの掃叭(サッパ)隧道で抜けていた。

新線は2840mの自強隧道を設けているが、図で一号・二号隧道としたのは、2本が連結されて見かけは1本になっているからだ。なお、台東線沿線は戦前、入植地が点在し、多くは和風の地名がつけられた。戦後、それらは中国風に改名されていったが、今も名残りがある。この図の瑞穂、舞鶴もその例だ。

図5:
Blog_taidongline_map5

樂樂渓が縦谷に出てくる玉里~東里間でも、2007年に大規模な路線変更が完成した。玉里駅から南へ直進すると、合流前の2つの荒れ川に架橋することになるため、旧線は、駅を出てすぐルートを大きく左に振り、早めに渡っている。改軌後も旧線ルートで運行されていたので、ナロー時代の風情を残す貴重な区間だった。しかし、渡河前後の線形が悪く、今回、直線ルートに改められた。新線の両駅間は6km以上あり、台東線唯一の複線区間となった。

【追記 2009.7.17】
廃線跡のうち玉里~旧安通駅間は、残したレールの外側を舗装し、全長5.7kmのサイクリングロード「玉里自行車道」として整備された。2009年1月23日から供用されている。

図6:
Blog_taidongline_map6

駅弁で有名な池上駅を過ぎると、標高320m前後の台東線最高地点を通過する。池上原野は、新武路溪(卑南溪)が作った大きな扇状地で、現在は整備された農場と上質米が獲れる水田が広がる。地名のもとになった大坡池が扇端にあり、昔より面積は縮小したが、今も伏流水で満たされている。南に流れる卑南溪が古い扇状地を侵食し、両岸で10m以上の高低差が生じており、列車で台東方面に向かうと、橋の手前は切り通しで、対岸に渡ると築堤上に載る。右岸(西側)の取付け部は改軌新線も急曲線だったため、海端駅を南に少し移動させてまでルートの再変更が行われた。

その先、關山~鹿野間の旧線は小さな扇状地をいくつも横切り、線形が悪いため、曲線改良が実施され、鹿寮溪の橋梁も新設されている(地図は省略)。

図7:
Blog_taidongline_map7

鹿野~台東間は旧線ルートから大きく離れて、別線が新設された。下刻が進む卑南溪の右岸には、台東までの間に小黄山山里渓谷という険しい断崖が5kmも続く。旧線はそれを避けて西に回りこみ、鹿野断層が作った谷あいを20~25‰の勾配で上り下りしていた。15km以上にもなる峠越えの途中にあった稲葉(のち嘉豐)と日奈敷(のち檳榔、図8の範囲)の両駅は、地図には表示がないがスイッチバック式だったという。

それに対して新線は、卑南溪沿いに一気に台東をめざしている。断崖に穿たれた山里一号~七号隧道を抜けると、花東線の終点、台東駅はまもなくだ。なお、峠近くの初鹿尾(はしかを)の駅名は、卑南族の地名、パシカウ(漢字で北絲鬮)を採ったもので、のちに初鹿に改名された。同様に日奈敷の原名はピナスキで、漢字で檳榔樹格と当てたところから、のちに檳榔となった。

図8:
Blog_taidongline_map8

新線の台東駅(台東新站)は、南迴線と直通できるように郊外に造られた。旧市街から見ると、空港より遠い場所で、駅前はまだがらんとしている。2001年までは、南迴線と旧線の交差地点に設けられた連絡線を経由して、旧 台東駅(台東舊站)まで列車が運行されていた。線路はその先、台東海岸の貨物駅(地図にはない)まで延びている。馬蘭駅に集結する特種鉄道の記号は製糖鉄道で、駅前に工場が立地している。

こうしてみると、渡河地点や峠道などを中心に、全線にわたって改良の手が入ったことがわかる。旧線時代の終わりごろ、特急列車、光華号特快は狭軌にもかかわらず最高時速75kmを出し、3時間あまりで花東間を駆け抜けたそうだ。現在では155.7kmに短縮された新線を、特急自強号で最速2時間12分、各停でも3~4時間で縦断する。

■参考サイト
台湾鉄路管理局 http://www.railway.gov.tw/
花東縦谷国家風景区 http://www.erv-nsa.gov.tw/
 縦谷の観光局サイト。日本語ページも充実している。

使用図葉:陸地測量部1:50,000地形図
 新城、花蓮港、鳳林、抜子、玉里、加走灣、以上1929(昭4)測図
 里攏、都鑾山、臺東、以上1928(昭3)測図

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コメント

台湾の鉄道のダイヤを研究している者です。
全線単線と聞いていた台東線で、どう考えても複線区間になっているとしか思えなかった
東里~玉里間がルート変更で複線化されているという情報をこのページでいただきました。
大変参考になりました。

コメントありがとうございました。
お役に立てて光栄です。

日本網頁真用心,感謝作者紀錄了這段歷史!

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