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2008年8月14日 (木)

平凡社の中国地図帳

Blog_heibonsha_chinaatlas北京オリンピックで人々の関心が集まるのを見計らっての出版なのだろう。2008年7月に、平凡社から「ベーシックアトラス中国地図帳」が刊行された。A4判、地図59ページ、地名索引等35ページ、計94ページ(見返しを含まず)、価格も1400円(税別)と、お手ごろな冊子だ。中国大陸にテーマを絞った地図帳が日本の出版社から出されるのは、1980年代にあった帝国書院と中国地図出版社のタイアップ企画以来ではないか。

内容構成は以下のとおりだ。まず見返しに、中国の基礎データ、行政区分図、行政区の概要がある。中国の行政区は、23省(ただし台湾省は地図帳の範囲外)、5自治区、4直轄市(北京、上海、天津、重慶)、2特別行政区(香港、マカオ)に区分されている。省都、面積、人口、主要都市を列挙した表には、省を一字で表現するときの略称も載っているが、これは鉄道ファンにとっても有益だ。上海の略称が滬(こ)、内陸の甘寧省が隴(ろう)と知れば、北京~上海間の南北幹線を京滬線、蘭州~連雲港間の東西幹線を隴海線という訳もわかるからだ。

目次のあとは全体図になる。東は日本、韓国、北朝鮮、南は東南アジア諸国やインド、西は中央アジア諸国、北はモンゴル、ロシアと、中国をとりまく国々を一望する1:16,000,000(1600万分の1)の地勢図と行政区分図で、広大な国土の概略がつかめる。

次のページからは、地域別の区分図と、その中に含まれる主要都市の市街図が続く。まず、省レベルの区分図は1:3,000,000(300万分の1)~1:9,000,000(900万分の1)の小縮尺図だ。平凡社の地図といえば、世界大百科事典の地図帳を真っ先に思い浮かべるが、デザインはそれを踏襲している。地勢は低地の緑から高地の茶系へと移り変わる段彩で表現される。地名には日本の常用漢字の字体を採用するが、現地読みのルビがふられ、主要都市については簡体字が併記されている。また、世界遺産の位置がプロットされているのを見るのも楽しい。四川盆地では半径200kmの範囲に、九寨溝、黄龍、青城山と都江堰、ジャイアントパンダ保護区、峨眉山と楽山大仏、大足石刻といった重要な遺産が集中しているのに、筆者は今頃やっと気づいた。

主要都市の市街図は、縮尺が図示されているものの、分数表示はない。後述する特別扱いの都市を除くと、大きいものでカシュガルの1:30,000、小さいもので武漢の1:150,000になる。縮尺をどれぐらいにするのか、編集者は都市域の広がりと紙面のスペースの兼ね合いで、苦心したに違いない。残念だがユーザとしては、大多数の市街図が街路網と主要施設の概略位置を知るためのものと、覚悟しておく必要がある。街歩きにはもう少し大縮尺の地図が必要だ。

その点、北京、上海、香港だけは別格で扱われていて、広域図から都市図、中心街の詳細図へと順にクローズアップしていく。北京を例に挙げると、1:450,000広域図では万里の長城が首都の北郊を護る様子がわかる程度だが、次の1:80,000都市図では、郊外の別荘である頤和園(いわえん)や鳥の巣のあるオリンピック公園が目に入ってくる。最後の1:25,000中心街図になると、故宮の伽藍配置や、王府井(ワンフーチン)の大通りに並ぶ主要施設まで読み取れる。

ちなみに、同社の市街図は、道路をくくり(縁取り)無しで白く抜いて、背景から浮かび上がらせるデザインが伝統だった。しかしこの地図帳では、くくりを用いたオーソドックスな表現に変えている。筆者としてはすっきりしたこれまでのやり方も好みだが、一般には違和感があるのかもしれない。

また、鑑賞する立場で少し難点を挙げるなら、それぞれの地図表現に精度の開きがあるのが気になる。例えば北京広域図は、精巧な陰影で描かれた地勢に対して、デフォルメ気味の交通網の表現が必ずしもマッチしていない。1:320,000上海市域図や1:800,000珠江デルタ図では、その地勢も省略されて、美しい省別図に比べるとかなり粗っぽい印象を受ける。細かいところでは、市街図の地下鉄記号が、同じ水色の実線を使う河川や縦横の方眼線と混在して、区別がつきにくくなっている。

しかし、「こんな地図がほしかった。日本で初めて本格的中国地図帳。旅行にも、ビジネスにも必携」とオビに記されたキャッチコピーは、的外れではないと思う。市街図には蘇州、景徳鎮、楽山、麗江のような小都市が仲間入りし、桂林近くの漓江下りや西域の敦煌周辺の図も入って、旅の予習には十分使える。日本語と中国語両方の読みで引けて、難読字の音読手引きまでついた索引は、ニュースの現場を手早く確認するのに役立つ。知っているようで知らない中国大陸。その上を思うままに飛び回れる切符が、わずか新書2冊分の値段で手に入ると考えれば、読者となるのをためらうことはないだろう。

■参考サイト
平凡社地図出版 http://hcpc.co.jp/ 
ブログ「今日の平凡社」にある本地図帳の記事
http://heibonshatoday.blogspot.com/2008/07/blog-post_16.html

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