« 2008年1月 | トップページ | 2008年3月 »

2008年2月28日 (木)

ハンガリーの1:50,000地形図

もう削除してしまったが、このブログの最初の記事(2006年2月12日)は、ハンガリーの官製地形図を買ったときのエピソードだった。

Blog_hungary_50k
旧1:50,000
ブダペスト北部

「いま、中東欧のデータ収集に励んでいる。中東欧というと、10数年前までは旧共産圏に組み込まれていて、官製地図は当然軍事機密で、入手は不可能だった。民主化されてからは官製地図の公開が順次進められてきて、いまでは外国からの発注を受け入れる国が増えた。ハンガリーはその進んだ例の一つ。地図を扱っているのは国防省の関連会社。国防省というとちょっと身構えてしまうが、メールでやりとりした係官はたいへん親切だった。」

「むこうから送られてきた見積書の合計金額がまちがっていたため、必要額以上に送金した私に、返金を希望するか、それとも追加注文するかと問合せがきた。『年末で忙しかったので big mistake をしてしまった、たいへん申し訳ない』と書かれたメールには誠実さがこもっていた。残金を少し上回る程度の地図を追加注文して、不足額は請求してほしいと書いたところ、『送金には及ばない、it is a gift from us because of our mistake』という返事。それで、私の中でハンガリーの株はぐーんとはね上がったのだった。注文した地図が届いた後、『たいへんみごとな地図で満足しました』とお礼を書いたのはいうまでもない。」

Blog_hungary_50k_sampleハンガリー共和国の測量機関は略称FÖMI、英語の正式名で測地・地図作成・遠隔測定研究所 Institute of Geodesy, Cartography and Remote Sensing だが、地図作成は、国防省地図会社 Ministry of Defense Mapping Company の手に委ねられている。筆者のメールに丁寧に応対してくれたのは、この会社の担当者だった。ここも2001年の改組以前は、軍直属の地図機関だったというから、その変貌ぶりは隔世の感がある。

このときブダペストから届いた地形図には、1992年の流通自由化以前に作られたものがかなり混在していた。かつて一般人が目にすることのできなかった証しに、図郭の右肩には Titkos(秘図)と注記があり、それを黒の油性ペンでぐいっと消し、傍らに Nyílt, HM rendelet alapján(国防省が請求に応じて公開)の印が押してあった(右写真)。

Blog_hungary_50knew
新1:50,000
バラトンフレド
表紙

ソ連や東欧では地形図図式が共通化されていたので、国が違っても内容は非常によく似ている。旧東ドイツの同じ縮尺の地形図と比べてみても、相違点といえるのは、ハンガリーの方が緯度が低いので図郭がいくらか横長になる(用紙もその分大きい)のと、使用言語がそれぞれの公用語になっている程度だ。よく話題に上る、軍隊が通過可能かどうかを示す詳細な数値、すなわち河川の水深や底質、橋梁の材質や耐重、森林の樹高や疎密度なども、一様に記入されている。そして、軍事機密の文字を抹消しているのも然りだ。

前回、筆者は官製地形図より民間の旅行地図のほうを評価したが、旅行地図のカバー率はおおよそ全土の3割程度なので、官製地形図の出番はまだ多分にある。ハンガリーの1:50,000地形図は、ユニバーサル横メルカトル(UTM)図法へ切り替えるのを機会に、折図での頒布を前提にした新仕様(右上写真)に衣替えした。

Blog_hungary_50k_index
地図索引図

表紙には図郭の範囲が示され、裏側には全国の索引図(右写真)が掲載されている。ソ連・東欧図式の図番体系は、1913年に決定した1:1,000,000国際図(IMW)の体系を基準にしているが、この方法では、緯度と経度で区切られたゾーンに一定の順序で番号を付与していく。ゾーンが変わると、隣接する図葉でも番号が大きく飛ぶので、索引図は必須だ。加えて、地図記号の凡例と略語解が添えられ、しかも英語併記になったことで、現地語を知らない筆者のような者にも格段に使いやすくなった。

市街地の描写を黒抹家屋からベタ塗りの総描だけにしたり、土地利用景の簡略化、軍事用データの削除など、細部では図式の改訂を伴っているが、何よりユーザフレンドリーな体裁が整えられたのは大きな改善だ。軍事目的から一般市民の共有財産へと大きく舵を切っているハンガリーの地図事情が、ここに見て取れる。

■参考サイト
国防省地図会社 http://www.topomap.hu/
ハンガリー語の社名は Honvédelmi Minisztérium Térképészeti Közhasznú Társaság 、直訳すると、国防省地図作成非営利会社。

「官製地図を求めて」ハンガリー
http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_hungary.html

★本ブログ内の関連記事
 ハンガリーの旅行地図-カルトグラフィア社
 ハンガリーの道路地図帳-カルトグラフィア他1社
 ハンガリーの道路地図帳-国防省地図会社

2008年2月21日 (木)

ハンガリーの旅行地図-カルトグラフィア社

1990年前後の社会主義体制崩壊を境に、中欧諸国でも官製地形図が一般に開放されるようになったが、私たちが目にするのは、むしろ官製図を利用した民間の地図出版物のほうだ。地図を扱う通販店のカタログで「地形図」を検索すると、しばしば官製オリジナルではなくこのような加工品があがってくる。ハンガリーの場合、官製図も比較的入手しやすいのだが、ブダペストに拠点をおくカルトグラフィア社 Cartographia の旅行地図 turistatérképek-sorozat (=tourist map series) が、完成度とコストパフォーマンスでそれを凌駕している。

Blog_cartographia_bukk
シリーズの1点
「ビュック」表紙

同社のサイトには索引図が見当たらないので、地図の裏面に掲載されている索引図(下写真)をあげておこう。対象となっているのは主に北部や西部の、ある程度の広がりをもつ観光地域だ。ドナウ川の地峡ドナウベンド Dunakanyar、中欧最大の湖で保養地のバラトン湖 Balaton はもとより、マートラ山地 Mátra、ビュック山地 Bükk のような人気のあるハイキング適地をおよそ網羅している。

縮尺は1:40,000が中心だが、対象地域に応じて1:25,000~1:90,000とさまざまだ。イギリスのハーヴィー社の項でも書いたが、1:40,000という縮尺は、図上で人差し指と中指を広げると、約1時間で歩ける距離になるのだ(図上10cm=実距離4km、ただし水平距離)。

ハンガリー北東部のビュック国立公園 Bükki Nemzeti Park 全域をカバーする、シリーズ29番「ビュック Bükk」を例にして、内容を紹介しよう。ビュック Bükk という地名はハンガリー語でブナの木を意味し、その名にたがわず同国最大の森林地帯を形成している。豊かな緑の山中をハイキング道が縦横に通じているが、人々を深い森へいざなう観光用の森林鉄道が、東のミシュコルツ Miskolc、北西のシルヴァーシュヴァーラド Szilvásvárad の町と、南西のエゲル Eger 郊外の3方向から出ているのも魅力だ。

Blog_cartographia_indexmap
地図索引図

旅行地図のベースとなっているのは明らかに1:50,000官製地形図なのだが、崩壊地の記号など細かい異同が見られるので、測量原図から別途書き起こしたのかもしれない。地勢表現は10m間隔の等高線に、ぼかし(陰影)を加えて立体感を出している。段彩はなく、塗りは土地利用を表す。市街地はアプリコット、森林はアップルグリーン、果樹園はレモンイエローと、柔らかな配色が特徴的だ。

地名注記の詳しさは官製地形図以上で、山襞としか見えない谷や、小さな瘤のようなピークにもきちんと地名が振られているのには感心する。旅行情報では、バス路線が黄色(バス停位置も表示)、ハイキングルートが赤、自転車道が青と、色で判別できるほか、宿泊施設(ホテル、宿泊所、キャンプ地、テントサイト)、駐車場、休憩所、展望地、目的地(博物館、教会、城址、遺跡等)など多岐にわたる記号表示がある。

裏面には、地域の概観図とともに、写真と文章で観光地の紹介がされ、一部の町は市街図がついている。この図葉に限らず森林鉄道が残る地域は、必ずといっていいほど時刻表が添えられているのもうれしい。表記はすべてハンガリー語(凡例のみドイツ語併記)なので、残念ながら筆者には地名と数字以外、読み取ることができないのだが。

カルトグラフィア社は、1954年創立の国営会社 Kartográfiai Vállalat(地図作成会社)を引き継いで1993年に設立された、同国の代表的な地図出版社だ。国内地図だけでなく世界各地の地図を幅広く刊行し、自由化以前から海外にもその名を知られていた。紹介した旅行地図も以前からある同社の代表的な地図シリーズだが、美しくかつ見ごたえがあり、観光用途ばかりか地形図としてみても申し分ない内容をもっている。

最後に価格についてだが、官製同様、同社の刊行物も国内と国外の二重価格制を敷いている。2008年2月現在、官製図は新しい1:50,000の場合で、国内750フォリント(1フォリント0.6円として450円)、国外7.00ユーロ(1ユーロ150円として1050円)と極端な差がある。カルトグラフィアの旅行地図も自社サイトのショップで見ると、国内990フォリント(594円)に対して、国外向けは5.90ユーロ(885円)になる。しかし、価格差は官製より小さく、図郭の大きさも3倍強はあるから、外国の利用者にとって利用価値はたいへん高い。

同社の地図は、自社サイトのオンラインショップで入手できる(支払いは銀行振込か住所宛送金)。少々価格は上がるが、Stanfords その他、ヨーロッパの地図専門サイトでも扱っている。

■参考サイト
カルトグラフィア社 http://www.cartographia.hu/ (英語版あり)
  旅行地図はトップページ > 英語版 > Publications of Hungary
ハンガリー観光案内(英語) http://hungarystartshere.com/

★本ブログ内の関連記事
 ハンガリーの1:50,000地形図
 ハンガリーの道路地図帳-カルトグラフィア他1社
 ハンガリーの道路地図帳-国防省地図会社
 ブダペストの登山鉄道と子供鉄道
 ドナウの曲がり角

2008年2月16日 (土)

イギリスの道路地図帳

イギリスの地図帳は、これまで1992年発行のハムリン社 Hamlyn 版を愛用し続けていた。地図帳の正式名称は"Ordnance Survey Motoring Atlas of Great Britain"、陸地測量部Ordnance Survey の名を冠したお墨付きの道路地図だった。その証拠に測量部のカタログにも堂々と掲載されていたのだ。あれから18年が経ち、改めて調べたら、会社はすでに地図出版から手を引いてしまっていた。それに代わる地図帳をと思い、2点購入した。一つは A-Z Map の"Road Atlas of Great Britain"、もう一つはフィリップス Philip's の"Motoring Atlas Britain"だ。

■A-Z Map版

Blog_azatlas

A-Z版はA4変形、本編は全国道路地図が南から北へ170ページ、それにロンドン、バーミンガム、マンチェスターの拡大図と地方都市の市街図が続く。海港、空港、英仏海峡トンネルと、国外との接点を抽出した図も用意されている。これに地名索引がついて、全276ページ。持つとずっしり重い。

本編は、本来の用途からして道路網中心の描写になるのは当然だが、等高線のかわりに段彩をくくりなしで用いて、地勢表現にも配慮している。一方、鉄道路線はグレーの細線でほとんど目立たない。しかし、記号化された観光情報の一つにSLマークの蒸気鉄道、狭軌鉄道(Railway, Steam or Narrow Gauge)があって、名称つきで表示されているのが嬉しい。

A-Zといえば、すべての街路名を記した市街図の出版元として知られている。この地図帳の大都市圏拡大図もその応用だが、あまりに詳細すぎて虫眼鏡が必要なほどだ。しかし、都市中心部や地方都市の拡大図は、主要建物や緑地などを書き込んでなお明瞭さを保っていて、本編以上に洗練されているように思う。

■フィリップス版

Blog_philipsatlas

ハムリン社の後を引き継いでいるのは、このフィリップス版だ。同じ体裁(A3変形 28.6cm×39.4cm)で、表紙に陸地測量部のOSロゴが掲げられている。まず見どころ Places to visit の紹介から始まるページ構成がおもしろい。短い説明文のあとに地図の索引コードが添えられ、本編へ読者を導く。全国道路地図は96ページ、そのあと市街地の拡大図が44ページ続いている。全国図、市街図とも線が太めで、饒舌な印象があるが、大判の長所を生かして縮尺を大きくとっているので、細かい道も省略を免れている。

しかし、かつてのハムリン版と比較してみると、道路網や市街地など基本的にはそのままなのに、何か印象が違う。そうだ、等高線が消えている! しかも旧版では600フィート(183m)以上に段彩が施されていたが、新版では1000フィート(305m)以上となっている。そのせいでイングランド東部や南部はほとんど地勢表現が見られない。高地の段彩は新版のほうが細分化されているので、スコットランドの1000m級の山地は旧版より立体感が出ているが...。

鉄道ファンとしては、記号がより細い線になって見分けにくいのも残念だ。しかし、保存鉄道だけは赤の実線で特別扱い。 観光スポットは記号だけでなく名称も律儀に記入されているし、ナショナル・トラストや国定遺産は解説つきの索引が添付されている。総合的に見て知的レジャー用途を指向した地図帳といえそうだ。

では、A-Z社との比較はどうか。A-Zのはサイズが半分のA4変形で、縮尺は3.5マイル1インチ、つまり実距離3.5マイルが図上1インチで表されている。分数表示では1:220,594になる。メートル法に慣れた私たちには距離感がつかみにくいが、インチ・マイル系を使う国では普通のことだ。上で紹介した Hamlyn 版も3マイル1インチ(1:190,080)で、Philip's 版では1:200,000と切りのいい縮尺に変わったが、道路の区間距離はマイル表示を守っている。

色彩は黄色のベタが目立ったり、主要道の赤がバーミリオンだったりと、上品な Philip's 版に比べると、いささか野暮ったい印象がある。しかし、観光情報の量は Philip's 以上で、ナショナル・トラストや国立公園などのエリア表示もわかりやすい。添付の都市図にも一長一短があるので、優劣つけがたし、といったところだ。
(以上、2006年2月の記事を改稿)

【追記】
フィリップスのイギリス道路地図帳にはA4サイズのコンパクト版がある。Driver's Atlas Britain だ(写真は2007年発行の2008年版)。メインの区分地図は、判型に合わせて単純に縮小しただけで、区割りも内容も上記の Motoring Atlas と同じだ。A3変形では持ち運びがかさばるという向きには、こちらがいいだろう。なお、巻末の市街図については、Motoring にある大都市の郊外道路図 Approach Map や空港周辺図が、Driver's では省略されている。

Blog_philipsatlas2

■参考サイト
A-Z Map http://www.a-zmaps.co.uk/
Philip's http://www.philips-maps.co.uk/

2008年2月14日 (木)

リヒテンシュタインのハイキング地図

リヒテンシュタイン公国 Fürstentum Liechtenstein は、スイスとオーストリアの間にある面積160平方キロ(小豆島程度)、人口約35,000人(2006年)の小国だ。観光が重要な産業の一つで、君主リヒテンシュタイン公の居城を仰ぐ首都ファドゥーツ Vaduz は、南ドイツとスイスを回るツアーの経由地にもなり、旅行者の姿の絶えることがない。

美しい山里のイメージとは別に、法人税が低率に抑えられたいわゆるタックスヘイブンとしても知られ、登録されている企業数は人口より多いのだという。地形はコントラストが際立つ。西側はライン川右岸に開けた標高450m前後の平地が細長く続き、東側はアルプスの山岳地帯で2000mを超える峰々が連なっている。

リヒテンシュタインの地形測量および地図作成は、スイスの連邦地形測量所 Bundesamt für Landestopografie の全面協力のもとに行われており、斯界に冠たるスイストポ swisstopo ブランドの地形図が国土を完全にカバーしている。さらに、オーストリアの官製地形図の作成範囲にもすっぽり収まっているので、地図事情はすこぶる良好だ。

しかし、スイス製1:50,000地形図では国土が4面に、1:25,000では6面にも分かれてしまい、取扱いはいささか不便だった。昨年(2007年)、縮尺1:25,000の集成図が登場して、ようやく1枚で公国の全貌を眺めることができるようになった。

Blog_liechtenstein 集成図の名称は「リヒテンシュタイン公国ハイキング地図 Wanderkarte Fürstentum Liechtenstein」で、同国の森林・自然・景観局 Amt für Wald, Natur und Landschaft(AWNL)が編集し、スイス連邦地形測量所が図化・印刷・刊行している。横65cm×縦104cmの大判用紙を、スイス地形図と同じ横13cm×縦19cmのサイズに折ってある。

この国でも山野を巡るトレール(登山道、自然歩道)Wanderweg がよく整備されていて、そのネットワークの延長は約400kmにもなるという。メインとなるハイキング地図は、既存のスイス1:25,000地形図の上にこうしたトレールのルートその他を加刷したものだ。トレールの記号は、ハイキングトレール Wanderweg、マウンテンハイキングトレール Bergwanderweg、アルペンルート(アルパインハイキングトレール)Alpine Routeに区分され、欄外に各々の案内標の説明がある。

地図を読むと、ハイキングトレールは平野と丘陵、それに山地の西側斜面に分布していて、ウォーキングシューズ程度でも歩けそうだ。それに対して、登山道は東側の起伏の激しい山地を縦横に走り、登山靴や服装、装備を整えて赴くべき道と見た。アルペンルートの表示が適用された区間はわずかしかないが、説明によれば、雪渓や氷河、ガレ場など部分的に道が定かでなかったり、岩場の短い攀じりもあるという、上級者向けのルートだ。

それ以外に、展望所、山小屋、食堂、リフト、案内所、キャンプ場、ユースホステル、史跡の記号が設けられている。山小屋 Hütte などはもとから地形図に注記されていたが、家形の記号が赤で置かれて、見つけるのが容易になった。

一方、車道には、路線バス(リヒテンシュタインバスLBA)のルートが山吹色で塗られている。同国にはスイスのブックス Buchs とオーストリアのフェルトキルヒ Feldkirch をつなぐオーストリア連邦鉄道 Österreichischen Bundesbahnen の支線が通ってはいるが、一日10往復程度しかないローカル線で、首都も経由しないとあって、公共交通はもっぱらバスが主役だ。北部、シェレンベルク Schellenberg の丘の上から、同国の奥座敷、スキーリゾートのマルブンMalbunまで、充実した路線網を図上で追跡することが、これで可能になった。加えて停留所の位置がポイントされているので、乗降地点を特定できる。歩く計画を立てるのに役立つことは間違いない。

裏面には、歩く際のさまざまな注意事項や情報源などの記述とともに、美しい風景写真がいくつもちりばめてある。この地図を片手に、ふらりとアルプスの谷間へ旅に出られたら、どんなにかいいだろう。

■参考サイト
リヒテンシュタイン観光局 http://www.tourismus.li/
リヒテンシュタインバス http://www.lba.li/
リヒテンシュタインの歩き方 http://www.arukikata.li/
 日本語で書かれた同国の観光ガイド(プライベートサイト)

地図の入手方法は、「官製地図を求めて」リヒテンシュタイン を参照
http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_liechtenstein.html

★本ブログ内の関連記事
 スイスのハイキング地図-スイストポ
 スイスの地形図-概要
 スイスの1:25,000地形図

2008年2月 7日 (木)

日本の山岳地図-立山を例に II

前回は官製の山岳地図を紹介したが、このような主題図は民間の地図出版社のほうが一歩先を走っている。国土地理院の測量成果をベースに利用しながらも、独自の調査データを付加することで個性あふれる地図を生み出しているのだ。2008年1月現在で入手できる1枚ものの地図に絞って比較してみたい。

北海道地図(株) トレッキングマップシリーズ4 「北アルプス 立山・剱岳」

Blog_tateyama_map3

同社は山岳地域の美しい立体表現を追及した作品群で、地図ファンにはつとに知られているが、このシリーズもその期待を裏切らない仕上がりを誇る。メインとなる縮尺1:25,000のフルカラー地形図がカバーする範囲は、南北が剱岳から五色ヶ原、東西が扇沢駅から称名滝まで。国土地理院の集成図と同じく、連続的に変化する高度彩色とぼかし(陰影)を使って、地形を表現している。全体として集成図よりあっさりした印象を受けるのは、おそらく茶色を配する高度帯を2500m前後以上に絞っているからだが、これがかえって立山連峰の主尾根を強調する効果を生んでいる。

等高線は国土地理院の地形図(ラスタデータ)をベースにしているようだが、崖の表現はそれによらずにオリジナルの繊細な手描きを施し、雪渓(万年雪)の等高線も青に変えるなど、ヨーロッパの山岳地形図を意識した絵画的な配慮が好もしい。登山ルートに上り下りの所要時間と距離が示されるのは当然として、登山道を、一般路、木道、難路、経験者向き難路または廃道、ハシゴと記号を変えて区別している。登山道周辺の植生やお花畑も目立つ記号を設けて、一目で判読できるようにするなど、美的にも情報の点でもたいへん丁寧に造られた地図だ。

裏面は4色刷りで、1:100,000の立山・剱岳周辺案内図、1:25,000の美女平・弥陀ヶ原詳細図(フルカラーの方では図郭外になるため)、主要コース断面図、照会先関係先などが盛り込まれる。別冊付録の高山植物カラー図鑑は95種を花の色別に並べてあり、蛇腹折りのパンフレットながら、実地でも参考にできる楽しい企画だ。ちなみにこのシリーズは、1:25,000が9種と1:100,000北アルプス全体図が刊行されている。

北海道地図 http://www.hcc.co.jp/

昭文社 山と高原地図36 「剱・立山 北アルプス」

Blog_tateyama_map4

わが国最大手の地図出版社が刊行する山岳地図シリーズはすでに59種にのぼり、日本百名山をすべて収録しているという。最大の特徴は、情報の鮮度を保つために毎年更新が行われていることで、表紙にも「何年度版」とはっきりうたっている。縮尺は1:50,000で縦長の図郭を取っているため、南北の掲載範囲は欅平から黒部五郎岳までとかなり広がる。

中心テーマである剱・立山については、裏面に1:25,000の詳細図がある。登山ルートには、上り下りの所要時間とともに、落石注意、急坂などのワンポイントアドバイスがふんだんに記入されている。両面ともフルカラー印刷なので、ビジュアル的には申し分ない。地勢表現としては、等高線に高度別の段彩を施し、さらにぼかしを加える。スクリーントーンを貼りつけたような雪渓表示など、北海道地図に比べて洗練度では及ばないが、登山地図は山に携帯するものであって、机上の観賞用ではないという製作方針なら、何を優先するかはおのずと違ってくるのだろう。

裏面には、長野市から富山市までを収めた1:300,000周辺図と、アルペンルートの鳥瞰図を併載している。前者は道路、鉄道、地形を詳細に描いたもので、手広い地図製作の実績がある同社ならではのものだ。別冊付録は山とコースの概要、歴史、入山の注意などを詳述した冊子なのだが、本編の地図にある登山道表示に添えられた「冊子何頁」というインデクスに連動している。本格登山には縁遠い筆者も、地図を参照しながら読むと、まるで行ってきたような気分に浸ることができた。

昭文社 山と高原地図Web http://yamachizu.mapple.net/

デージーエス・コンピュータ
ジョイフルマップシリーズ山歩き編34 「剱岳 立山連峰[北アルプス]」

Blog_tateyama_map5

近年登場したこのシリーズはすでに60点(レジャー編、世界遺産編を含む)が出ていて、非常にユニークな地形描写が売りものだ。先に紹介した2種は段彩という、特定の標高帯を面的に塗り分ける手法をとっているが、こちらは等高線そのものの配色を高度に応じて徐々に変化させているのだ。標高1000m前後までは緑系、高度が増すと茶から褐色になる。山岳地図の多くは、国土地理院が提供するラスタデータ(地図画像)の等高線を使用するので、このような処理は難しいが、同社は50mメッシュの標高データで独自に等高線を描くことで、不可能を可能にした。

折り込まれた地図の片面は広域図で、南北が欅平駅から野口五郎岳、東西が大町市街地から千寿ケ原までをカバーする。分数表示の縮尺が見当たらないが、図上1.5cm程度で実長1kmなので、1:66,667ということになる。この縮尺にもかかわらず等高線間隔は10mのままだから、急傾斜地は超過密になり、逆に尾根筋や弥陀ヶ原のような高原が周囲から白く浮き出るという作用をもたらす。

裏面は同じ着色法をとる剱・立山付近の拡大図で、縮尺は1:28,600程度だ。登山道には所要時間の表示はなく、代わりに実距離(水平距離ではなく)が注記されている。山小屋、お花畑、水場などの記号や注記は明瞭だし、転落、増水、有毒ガスなどの注意を喚起するいわゆる「びっくり」マークは、他の2種に比べて視覚的に優れている。

通常の段彩の場合、高地は濃い色彩になるため、等高線や注記が見にくくなりがちだが、等高線着色ではその心配はない。しかし、面塗りに比べて、地形の実感度という点でインパクトが弱いように感じる。広域図が効果的に見えたのは、等高線が重なって遠目には面塗りに近くなっているからだ。縮尺が大きくなると等高線の間隔が広がるので、メリットが出なくなる。

もう一つの問題は、等高線が甘い(細部の凹凸が描けていない)ことだ。50mメッシュ標高データというのは、1:25,000地形図を経度緯度とも200等分した方眼(図上約2mm、実長約50m四方)の中心の標高を記録したものだ。そこから等高線を描き起こすと、当然原図より精度が落ちる。その結果、ラスタデータから取った標高点や細かい山襞に沿う道路などと重ねたときに、等高線がずれるという現象が生じる。また、狭い谷底での等高線の乱れ(円状に閉じてしまう)も称名川上流などで顕著だ。むろんこれらは重箱の隅を楊枝でほじくるたぐいの指摘なので、山歩きにはほとんど影響はなく、無視してもよいのだが。

以上、3種の山岳地図を紹介した。鑑賞派である筆者は北海道地図の精巧な美しさに軍配を上げたいが、実用性を基準にするなら、情報の鮮度や表示の明瞭さなどの点で、他の2種にもそれぞれ優位な点がある。判断は各自にお任せしよう。

デージーエス・コンピュータ http://www.dgs.co.jp/

★本ブログ内の関連記事
 日本の山岳地図-立山を例に I
 立山黒部アルペンルートを行く I
 立山砂防軌道を行く

« 2008年1月 | トップページ | 2008年3月 »

2017年10月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        

BLOG PARTS


無料ブログはココログ