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2008年1月 3日 (木)

我が官製地図事始め

外国地図のたのしみ

Blog_kotohajime1筆者がまだ田舎の高校生だった1973年、たまたま立ち寄った書店の店先で見つけたのが、堀淳一氏の『地図のたのしみ』(河出書房新社、1972年初版)という単行本だった。ページを繰ると、そこにはスイスをはじめとする各国の地形図がカラー図版で並んでいた。それまで日本の地形図にはある程度親しんでいたが、外国ではそれより数段精緻で美しいものが作られているのだ、とそのとき初めて知った。

大学受験のために東京へ出かけたとき、試験を終えたその足で、当時渋谷パルコにあったマップハウスに駆けつけ、スイスの1:50,000集成図「ベルナー・オーバーラント Berner Oberland」を手に入れた。堀氏の本で憧れていた地形図がいま目の前にある! そのときの感動がその後数十年の官製地図収集につながっている。マップハウスは一時、大阪中の島の朝日ビルに出店を置いていた時期があり、関西の大学に進んだ私はここにも何度か通って、スイスやイギリスの地形図を買い求めた。

1978年と80年に、内外交易(株)が「教材用外国地形図セット」という箱モノの企画を立てたことがある。店頭の地図に飽き足りなくなっていた筆者は当然のように飛びついた。けっこう高い買い物だったはずだが、就職したての独身貴族は給料を趣味に注ぎ込む余裕があったのだ。しばらくして送られてきた分厚い紙箱には、珍しい地形図がいっぱいに詰まっていた。一度に見てしまうのはもったいなくて、毎週末に1枚ずつ惜しむように開いていたことを思い出す。

個人輸入に目覚める

海外旅行ができるようになってからも、現地で地図の販売店を探すことを忘れなかった。むしろそれが半ば旅の目的だったかもしれない。列車に乗るときも山野を歩くときも地図なしでは落ち着かない筆者にとって、それまで空想旅行の友だった海外の地形図が現実の伴侶になったのだ。

しばらくはこうして旅行のときのおみやげだった海外地形図だが、1990年ごろ個人輸入に関する本を読んでいて、地形図もこうして買えるのではないかと気がついた。フランスとドイツの地形図に測量局の住所が載っているのは知っていたので、案内資料を送ってほしいとダメモトでハガキを出してみた。

Blog_kotohajime2するとやがて、索引図の入った詳細なカタログが届いたのだ(右写真)。ドイツ・バイエルン州のそれには丁寧に注文用のハガキまでついていた。さっそくフランス語とドイツ語の素人翻訳にとりかかり、なんとか注文書を書き終えて(これは英語でしか書けなかったが)封書で送った。フランスの方は価格と送料がカタログに載っていたので、郵便振替口座を作って送金の手続きをした。ドイツの測量局には折り返し金額を教えてほしいと書いた。こうして、数週間後には郵便屋さんが、差出人IGN(フランスの地図作成機関)というタグのついた小包を運んできてくれたのだった。

地図の効用 

今では、海外旅行に行くときには、あらかじめ現地の地形図、それも1:50,000や1:25,000といった中縮尺の官製地図をある程度そろえて、計画を練る。街中を歩くには通りの名が記載された民間の市街図のほうが役に立つけれども、街のまわりはどうなっているのか、起伏は?川の流路は?鉄道や道路は? そういった情報を得ることで、その街が立体的に見えてくるように感じる。こうしてイメージを作ってから現地にでかけると、街角ごとに視界に入る風景が、断片ではなく一個の連続した空間に接ぎ合わされていく。地図はその作業のベースになっている。

街を離れて郊外に出ればもう官製地図の独壇場だ。もともとパックツアーは好まないので、往復の飛行機以外はなんら時間拘束がない。これでもミーハーなところもあっていわゆる見どころだけは押さえるのだが、その後は、地形図で見つけた変わった地形や小さな村を見にふらふらと寄り道する。地図を片手に歩いた道は、あとで地図で見返したとき、まるでそれが記録媒体であるかのように風景が頭の中に再現されるから不思議なものだ。

もちろん、地図は実体験としての旅行に供するだけではない。とうてい行けそうもないような高山や離島でも地図上でなら空想旅行が可能だし、それもまた楽しい。いやむしろ、今の状況は想像の旅が主体で、現実の旅行はオプショナルツアーなのかもしれない。

本稿は、関連サイト「官製地図を求めて」に書いた序文(2003年)を転載したものである。

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