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2008年1月17日 (木)

立山黒部アルペンルートを行く I

富山ライトレールに乗った翌朝6時過ぎ、筆者は富山地方鉄道の電鉄富山駅の改札前に立っていた。富山県側から長野県大町へ、北アルプスの峻険な山並みを縦断する立山黒部アルペンルートをめざしていたのだ。山に秋と冬が同居するこの時期、雄大な自然美を愛でる悦びは言うまでもないが、乗り物ファンとしては電車、ケーブルカー、トロリーバス、ロープウェイとさまざまなタイプの交通機関でリレーしていくというのが、愉しみを倍にする。

■富山地方鉄道 電鉄富山→立山

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早朝の電鉄富山駅

10月下旬とはいえ、夜間の放射冷却で霜が降りる寸前まで冷え込んだ。寒さ対策として、セーターを着込んだ上からジャケットを羽織り、リュックにはウィンドブレーカーを詰めている。同じ方向に行くらしい中年夫婦は揃いのダウンジャケット姿だ。地鉄の2両編成電車はまだ薄暗い6時28分定刻に発車した。車内はすいていて、早起きの通学生がぽつりぽつりと乗っては降りる程度だ。各駅停車なのでいささかまどろっこしく、いつものように地形図と首っ引きで窓外を眺めていても、時折眠気が襲う。

岩峅寺で交換した電車に高校生の大群がなだれ込むのが見えたが、こちらは静かなままの発車だ。やがて電車は山峡に分け入り、かなりの高さがある鉄橋をそろそろと渡った。それから大量の土砂で埋まった広い川原を左に見ながら、斜面に張り付いた急勾配急曲線の線路を探るようにたどる。終点立山駅が位置するのは、常願寺川と称名川の合流地点にわずかに開けた平地、千寿ケ原だ。最後に少し長めの鉄橋を通って、電車は行き止まりのホームに滑り込んだ。

■参考サイト
立山駅付近の1:25,000地形図
http://maps.gsi.go.jp/#15/36.583300/137.445400

■立山ケーブルカー 立山→美女平

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乗車整理票

ケーブルカーに乗り換えようと2階へ上がったとたん、改札前のホールを埋める人の多さに圧倒された。団体客はここまで大型バスで乗り付けるからだ。聞こえてくるのは日本語ばかりか、韓国語や中国語も盛んに飛び交う。筆者は京都から「立山黒部アルペンきっぷ」で乗ってきたが、この先は、出札窓口で渡されるバーコードつきの乗車整理票(右写真)が必要だ。ケーブルカーの乗車便が指定されるので、その専用券かと思ったら、各乗り物の改札でもこの整理票を切符の代わりに提示するのだった。

立山カルデラの外輪山の裾野が、弥陀ヶ原から西に大きく張り出した溶岩台地として残っている。先端が美女平で、麓の立山駅からの高度は約500mもある。この斜面を一気に上りきるのが立山ケーブルカーだ。運営者である立山黒部貫光の事業案内によれば、車両は121人乗りで、ルート運転時分7分20秒、延長(斜長)1324m、高低差487m(関電側のHPでは502mで、地形図で読むとこちらが近い)、最急勾配29度14分(560‰)。

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美女平駅に到着

指定された7時40分発はもちろん満員だった。動き出すと、砂防工事用トロッコ軌道のスイッチバックを見ながらぐいぐい上り、すぐに最初のトンネルに突入する。地形図では、トンネルを出た後、進行右側に常願寺川の切り立った渓谷が眺められると読めるが、林に遮られて意外に見晴らしはきかない。上下車両が交換したらまた長いトンネルがあり、結局、車窓の景色は期待したほどではなかった。

■立山高原バス 美女平→弥陀ヶ原→室堂

美女平でバスに乗り換える。環境に配慮して1998年以降、勾配仕様のハイブリッドバスが導入されている。室堂直行便と途中停車便は並ぶ列が違うので、弥陀ヶ原や天狗平に立ち寄る場合は要確認だ。急カーブが連続する難路のため、バスは全員着席方式で、急がなくても立ちんぼうになる心配はないが、可能なら進行左側の窓際に座りたい。弥陀ヶ原を航空写真のように見下ろす1個所(天狗平に差し掛かる標高2160m付近。運転手氏の案内がある)を除いて、おおむね左側に視界が開けるからだ。室堂まで23km、直行便は50分で到着する。

行程の前半は、紅葉まっ盛りのブナやトチノキの林を縫っていく。下ノ小平ではヘアピンカーブのとりかかりで、落差350mと日本一の称名滝が木の間隠れに遠望できる。見える角度がごく限られていて、バスは小刻みに停まりながら乗客全員にサービスしてくれる。しかし、残念ながら朝は日光が上流側から差すため、滝は完全に日陰で、白い筋がなんとか確認できる程度だ。高度が増すにつれて、徐々に高木は少なくなり、灌木と笹原に覆われたなだらかな斜面が現れる。東西4km、南北2kmの広がりをもつ高層湿原、弥陀ヶ原だ。標高はすでに1600~1900mあり、木々は冬の装いに変わっている。

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(左)木の間から見える称名滝 (右)ブナやトチノキの林を縫って

筆者は立山カルデラの展望台に立ちたくて、弥陀ヶ原ホテル前で途中下車した。バスを降りたら、まず停留所にいる係員氏に、次に乗る便を予約しておかなければならない。これも着席制ゆえの手続きだ。展望台へは登山道がしっかり整備されていたが、積もった雪が凍結して、注意していないと滑る。15分ほどで到達した展望台もまた逆光だったが、地図上で想像したとおりの荒々しいカルデラ壁が間近に迫る雄大な眺めだと思った(この景色で驚くのは早かったのだが)。バスを待つ間、ホテル裏の木道をたどりながら、ひんやりした高原の空気を胸いっぱいに吸い込む。西の方角には、うっすらと富山平野も眺められた。

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(左)立山カルデラの眺め (右)弥陀ヶ原ホテル近くの遊歩道にて

筆者は若い頃、美女平から室堂までラックレールの登山鉄道を通すことを空想していた。実際に地形図上にルートを引いてみたこともある。有料道路が全線開通したのは1964年で、時すでに自動車交通優勢になっていたから、現実には鉄道という選択肢はありえなかっただろう。しかし、もし存在したらきっと、日本のゴルナーグラートと呼ばれたに違いないと今でも思う。

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雪の立山連峰が見えてきた

再び車中の人となって、室堂へ向かった。10月下旬にして天狗平から上は完全に銀世界で、まるで別世界に迷い込んだようだ。ここからいよいよ立山連峰が視界の正面に座り、ゆるゆると大きさを増してくる。美女平からの標高差約1460mを上りきり、バスは雪に覆われた室堂ターミナルに9時50分、到着した。

■参考サイト
立山黒部アルペンルート http://www.alpen-route.com/

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