イギリスの復刻版地形図 II
イギリスの1:50 000地形図を眺めていると、細い破線がしばしば盛り土や切り通しの記号を伴いながら縦横に走っていることに気づく。そこには例外なくdismantled railway(撤去された鉄道)または省略形のdismtd rlyという注記が添えられている。廃線跡が小道として残っているという意味かと思うと、さにあらず。小道Pathも確かに破線で表されるが、線の長さが違っていて、明らかに別の記号だからだ。
では、廃線跡と同じ記号が使用されるのは他に何があるか。答えはローマンロードRoman Road、つまりローマ時代の街道跡だ。世界遺産に登録されたハドリアヌスの城壁Hadrian's Wallの痕跡のない部分を示すときにも使われている。これらに共通するのは、線状に延びる遺跡であることだ。痕跡が地表上に残っていなくても、かつて存在したルートを地図上に律儀に表示する。この方式は、道として使用されているものに限って表示する日本のような実用主義とは、明らかに一線を画している。
イギリスの地形図ではこうして廃線跡が目に付くので、筆者としては列車が行き交っていた現役時代の様子が知りたくなる。そこで、古い地形図の出番だ。以前にデヴィッド・アンド・チャールズ社とカッシニ出版社のシリーズを紹介したが、もう一社、OSの旧版地形図を復刻刊行している出版社を忘れてはならない。イングランド北部、ニューカッスルNewcastle(ハドリアヌスの城壁の東の起点!)近郊に本社を置くアラン・ゴドフリー地図Alan Godfrey Mapsだ。
写真は同社が刊行したロンドン北部North Londonの1インチ地図(1:63 360)の復刻版で、表紙には1902~13年版とあるが、正確な図歴によると、1902年の改訂図に、1913年7月現在で鉄道を補入し、部分修正を施したものだ。先の2社が出しているのはオールドシリーズOld Seriesと呼ばれる初代のOS地図だが、ゴドフリー版は19世紀末から20世紀初頭にかけて整備された改訂版なので、テリトリーは重複しない。むしろ、両者の比較で都市化の進展状況など土地利用の変化が把握できるから、資料的な価値は倍加する。
オールドシリーズとの最大の相違点は地形の表現だ。ケバ式が後者では等高線になり、絵図的な要素が払拭されて近代的な装いに改まっている。しかし、単色刷りのため、ロンドン近郊のような緩やかな丘陵地帯では等高線の読み取りがなかなか難しい。その点、ゴドフリー版は印刷が非常に鮮明で、細部まで判読が可能だ。さらに裏面には、当該地域の当時の状況など地図を読み解いた文章と、図郭内にある町または村の大縮尺図が掲載されており、丁寧な編集が際立つ。1インチ地図はすでに200タイトル以上が刊行済みだが、毎月1~3点の新刊を出しており、最終的にはイングランドとウェールズの全図幅を刊行するそうだ。
ところで、アラン・ゴドフリー地図の主力事業はまだ別にある。それは大縮尺図の復刻で、実長1マイルを図上25インチで表したいわゆる25インチ地図(1:2 500、正確には1:2 534)を対象にしたものだ。原図を1マイル15インチ(1:4 340)に縮刷して、1インチと同様、裏面に1面ごとの解説と町の当時の住所録(街区ごとに氏名と職業を掲載)を付けている。表紙も当時の写真を配している。写真はヨーク市街City of Yorkの1907年改訂版で、スルー型の新駅はとうに開業済み(1877年)だが、頭端式の旧駅もまだ城壁の内側に残る時代のものだ。この大縮尺シリーズは、創業から25年の間に1600を超えるタイトルが刊行されている。
編集方針とともにゴドフリー社の賞賛すべき点は、1枚2.25ポンド(1ポンド240円として540円)と、少量生産の商品としては安価で、しかも在庫切れになるときちんと再印刷していることだ。筆者はロンドンの地図店の店頭にほしい図幅がなかったので、半分諦めながら帰国後、直接同社に発注したのだが、わずか1週間ですべて揃って届いて、大変驚いた。
なお、スコットランドの復刻版1インチ地図は、カレドニア地図Caledonian Mapsが刊行している。
■参考サイト
Alan Godfrey Maps http://www.alangodfreymaps.co.uk/
Caledonian Maps http://www.caledonianmaps.co.uk/
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