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2007年10月 4日 (木)

イギリスの復刻版地形図 I

Blog_uk_stanfords

ロンドンの老舗地図店スタンフォーズStanfords(右写真)は、地図ファンにとって巡礼地の一つだ。地階Basementはイギリス諸島British Isles、1階Ground Floorはフランス、ドイツ、スペインなどの近隣諸国、2階1st Floorはその他各国の、あらゆる地図と旅行書が揃っている。地階に降りると、OSの現行地形図の傍らに復刻版地形図のコーナーがあるが、そこに見慣れないカラフルな表紙をまとった地図が並んでいた。カッシニ出版社Cassini Publishingが刊行するシリーズだ。

通常の用途なら、地図は最新であることが尊ばれるから、古くなった地図は用済みと見なされ、処分される運命にある。しかし、過去の歴史を調べる者にとって、当時の地図は貴重な証言者だ。測量局は、そういうニーズに応えるため、旧版地形図の閲覧や複写のサービスを提供していることが多い。イギリスの場合はそれにとどまらず、旧版地形図の出版を事業として立派に成立させているところが興味深い。

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1805年から1874年にかけて作成されたイングランドとウェールズの初代1インチ地図、いわゆる「オールドシリーズOld Series」については、かなり前からデヴィッド・アンド・チャールズ社David & Charlesが、原版110面を97面に集成して刊行していた(右写真)。しかし、今回スタンフォーズで見かけたものは、編集方針の点でデヴィッド社とは一線を画している。

最大の相違点は地図の縮尺だ。1インチ地図は図上の1インチが実長の1マイルを表し、分数表示では1:63 360になるのだが、1974年以降の刊行図は縮尺が1:50 000に切り替わり、図郭も変更されたため、新旧地形図を直接照合するには何かと障害があった。そこで、カッシニ社版は旧図を1:50 000に拡大して図郭も現在のものに合わせたのだ。

Blog_uk_cassinimapカッシニ社版のもう一つの特徴は、対象となる123面全部について、初代オールドシリーズ、第一次大戦後の1919~1926年に刊行されたいわゆる「普及版Popular Edition」の2種類を用意していることだ。前者は当然、黒一色だが、後者は7色刷りと一気にカラフルになって現代に近づく。主要道路を赤と黄で目立たせ、公園、森林、砂浜といったレジャーの目的地にも個色が配される。自動車の普及に伴い、道路地図あるいは旅行地図として大衆が利用することを意識して改訂したからだ。一方で、鉄道網がほぼ完成し、現在は廃線跡になっている路線もまだ現役だ。都市のスプロール化は十分進行しておらず、駅と町の位置関係がよくわかる。この時期の地形図をカラーで完全復刻したのは画期的なことだ。

(【追記 2009.2.13】その後、1896~1904年刊行の「改訂新版(着色版)Revised New Series (in colour)」が復刻されて、イギリス黄金時代の地表の変化を3代にわたって見ることができるようになった。右上の写真は、左からカッシニ社の初代「オールドシリーズ」、「改訂新版」、「普及版」。)

Blog_uk_cassinimap2 これらは全国版(ただし、イングランドとウェールズ)だが、別にピンポイント版もある。「今昔地図Past & Present Map」と題して、都市周辺など変化が著しい地域の200年間の変化を一目で見せる特別シリーズだ。実長15km四方に相当する地形図を、1枚の用紙に年次別に配置している。写真にあげた「Plymouth & Saltash」を例にとると、軍港として発展したプリマスとその周辺の姿を、1809年の初代、1896年の初代改訂版、1919年の普及版、そして現行版と4代で描く。先述のシリーズのように1面ずつ購入しなくても済むところがミソだろう。カッシニ社の地図は、同社公式サイトやイギリスアマゾンAmazon.co.ukなどで購入できる。

カッシニ社版にはすべて、現行地形図と同じように1kmグリッドが加刷されている。これを使えば各図間でエリアを正確に特定できるので、時代ごとの変貌を容易に追跡できる。この地図シリーズは、測量史の骨董品を誰でも身近に使える参考資料に変換してしまった。あたかも古文書を現代語に訳すように。

■参考サイト
スタンフォーズ http://www.stanfords.co.uk/
カッシニ社  http://www.cassinimaps.com/

イギリスの復刻版地形図 II

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