« イギリスの鉄道地図 I-トーマス・クック社 | トップページ | イギリスの鉄道地図 III-ボール鉄道地図帳 »

2007年10月18日 (木)

イギリスの鉄道地図 II-鉄道史を知る区分地図

イアン・アラン出版社 Ian Allan Publishing は趣味系書籍・雑誌の大手で、鉄道分野でも月刊誌「レールウェイズ・イラストレーティッド Railways Illustrated」や「モダン・レールウェイズ Modern Railways」でおなじみだ。近年、ミッドランド Midland Publishing やオックスフォード Oxford Publishing(OPC)など鉄道書の中小出版社を傘下に収めて、規模を拡大している。

イアン・アラン社が刊行している鉄道地図帳が、筆者の知る限り3系統ある。どれも白地図に鉄道網だけを表示した辞書的な地図帳だ。それぞれ、

・セクショナル・アトラス系統
・ボール M.G. Ball 系統
・ベーカー S.K.Baker(OPC) 系統
と勝手に名づけたうえで、順に紹介していこう。

Blog_britain_railatlas1

まず、セクショナル・アトラス(区分地図帳)の系統から。

英国鉄道区分地図2002 Sectional Maps of Britain's Railways 2002」(写真)は64ページ(図版45ページ、索引16ページ)、判型17.5×24.2cm、グレートブリテン島全体をカバーした鉄道地図帳だ(アイルランド島は掲載せず)。中表紙にイアン・アラン社創業60周年のロゴが入っているところを見ると、記念出版なのだろう。

巻頭辞は次のように書かれている。「1980年代後半まで、イアン・アラン出版が定期刊行していた地図帳に、セクショナル・アトラス Sectional Atlas がある(下注)。現存の鉄道路線と休止・廃止線がともに描かれていたので、歴史家や愛好家にとって両者の関係を検証する資料になっていた。区分地図帳は1980年代後半に出版されたのが最後で、それから10年以上が経過した。その間、鉄道業界は、民営化が完了し、鉄道の各部門にフランチャイズ制が導入されるなど、大きく変化してきた。貨物専用線はそれほど急激ではないものの、規模縮小が続き、その一方で、次世代LRTの計画が進捗し、休止線が保存鉄道として復活している。この区分地図帳の最新版は、鉄道網を記録したイアン・アラン出版の新しいデータベースを使用して準備され、最近、同社で出版された鉄道地図帳と同じフォーマットを使っている。」

*注 正式タイトルは2002年版と同じ"Sectional Maps of Britain's Railways"。1982年初版、1985年第2版、1989年第3版の後、更新されていない。

地図の凡例を見ると、現役の旅客線、貨物線のほか、工事線・計画線、その他の営業線(列車線に対する近郊電車線を指す)、保存鉄道線、休止・廃止線の区別がある。配色も、現役線のグレーに対して、休・廃止線はクロームイエローが用いられて、よく目立つ。駅名は旅客駅、貨物駅、休・廃止駅(ただし主要駅のみ表示)で色分けし、巻末の駅名索引も3種に分けて編まれている。

このように、過去に存在した路線を網羅しているところが、セクショナル・アトラスの、類書にはない最大の特色だ。索引図がついておらず、ノンブルが数字(1, 2, 3...)ではなく英語(one, two, three...)表記であるなど、いささか使いにくい点もあるが、興味深い資料であることは確かだ。

Blog_britain_railatlas6

実は、この鉄道地図帳にはルーツが存在する。1958年に初版が出された「英国鉄道集約化以前地図帳・地名録British Railways Pre-Grouping Atlas and Gazetteer」(写真)だ。これは、1921年鉄道法によって4大鉄道会社、いわゆるビッグフォーに集約化される前(プレ・グルーピング)の状況を表したものだ。

ここでは、縮尺が8マイル1インチ(図上1インチが実距離8マイルを表す。1:506,880に相当)と明記されている。しかしこの縮尺でも、全線全駅を掲載しようとすると描ききれない。首都ロンドンはもとより、ウェールズ南部、ヨークシャー南部といった炭鉱地域や、マンチェスター、グラスゴーのような産業革命の中心地は、路線網が稠密すぎるからだ。

45ページの区分図のうち、最後の7ページはそのための拡大図に充てられている。これによって、1923年の集約化や1948年の国有化に伴って姿を消した駅や支線の現役時代を振り返るのも難しいことではなくなった。路線は所有会社別に色分けしたうえ、会社の略称が添えられていて、会社のフルネームを知りたければ、巻末の地名録の中にある一覧表が役に立つ。

上述した区分地図帳は図郭、ページ設定を含めてこの仕様を踏襲したものだ。索引図が省かれたり、ノンブルが英語だったりするのも、旧来の地図帳の利用者を前提にしていると考えれば納得がいく。上で引用した巻頭辞のとおり、地図帳のオリジナルはとうに絶版になっているが、1967年第5版を復刻したものが、現在もイアン・アラン社から入手可能だ。

Blog_britain_railatlas2

一方、この地図帳のデータを改めてコンピュータ上に展開した上で、特定の時代に焦点を当てて当時の鉄道地図を再現したものも数点刊行されている。Britain's Railwaysシリーズとして同社から刊行された「Rail Atlas 1890」(写真)、「British Railway Atlas 1955」、そして「Rail Atlas 1970」だ。

手元には1890年版があるが、2002年版と同じ図版に、1890年1月1日現在の営業路線の全線全駅がプロットされている。所有会社ごとの路線の彩色は、プレ・グルーピング版に準じたものだ。復刻版ではいささか見づらくなっていた駅名の細かい文字も、クリアに読める。1890年といえばヴィクトリア朝の後期で、鉄道網はほぼ完成しており、かつ自動車交通が台頭する以前のいわば鉄道黄金時代にあたる。2002年版では路線の位置と終端駅程度しか描かれていない休止線、廃止線も、ここでは全ての駅の場所と駅名、それに運営する会社名が記されていて壮観だ。縦横に張り巡らされた路線網を追うと、貨客を満載した列車がひっきりなしに行き交うさまが目に浮かぶ。

この1890年版は、プレ・グルーピング版で割愛されたアイルランド全島(1890年当時はイギリスに併合されていた)や、王室属領のチャンネル諸島も掲載範囲に含まれていて、イギリス諸島の鉄道の全貌を知る上でたいへん貴重な資料になっている。

ボール系統、ベーカー系統は次回以降に。

■参考サイト
イアン・アラン出版社  http://www.ianallanpublishing.com/

★本ブログ内の関連記事
 イギリスの鉄道地図 I-トーマス・クック社
 イギリスの鉄道地図 III-ボール鉄道地図帳
 イギリスの鉄道地図 IV-ベーカー鉄道地図帳
 イギリスの鉄道地図 V-ウェブ版
 イギリスの鉄道地図 VI-コッブ大佐の鉄道地図帳

« イギリスの鉄道地図 I-トーマス・クック社 | トップページ | イギリスの鉄道地図 III-ボール鉄道地図帳 »

西ヨーロッパの鉄道」カテゴリの記事

鉄道地図」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« イギリスの鉄道地図 I-トーマス・クック社 | トップページ | イギリスの鉄道地図 III-ボール鉄道地図帳 »

2017年8月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    

BLOG PARTS


無料ブログはココログ