インド マテラン山鉄道
軌間2フィート(610mm)は、狭軌のなかでも最もミニサイズの部類に入る。インドでは、世界遺産に登録されたダージリン・ヒマラヤ鉄道Darjeeling Himalayan Railwayが最も有名だ。インド鉄道ファンクラブIRFCAのリストによると路線はあと2つあり、1つは、北部のマディヤ・プラデーシュ州Madhya Pradeshとラージャスターン州Rajasthanの境界近くを走るグワーリヤル~シェオプル・カラン線Gwalior - Sheopur Kalan Lineで、巨大な城砦で知られるグワーリヤルから西へ198kmも延びる長大路線だ。
もう1つが今回のテーマ、ムンバイ(ボンベイ)Mumbai近郊の避暑地へ上っていくネラル・マテラン線Neral - Matheran Lineで、通称マテラン山鉄道Matheran Hill Railwayとして知られる。
図1![]() |
ムンバイから東へ90km、背後に連なる西ガーツ山脈Western Ghatsから切り離された形のマテラン山Matheran Hillは、標高2647フィート(807m)。侵食に抗して残った平らな山頂が、早くからムンバイの暑さをしのぐための保養地Hillとして開発され、現在も週末のリゾートとして賑わいを見せる。マテランとは「頂の森」あるいは「母なる森」の意味だそうだ。麓にある幹線鉄道の駅ネラルNeralから緑濃い頂きの町への足となっているのが、この軽便鉄道だ。麓駅の標高は121フィート(37m)、山上駅は2484フィート(757m)ある。720mの高低差を克服するために、急勾配(50‰)と急カーブの厳しい線形が連続し、起終点間の直線約7kmに対して路線延長は12.61マイル(20.3km)に達する。列車はこの難路を2時間かけて上る。
マテランの町には自動車の乗り入れができない。途中のDasturi Nakaから先は、馬の背に揺られるか、リクシャ(人力車)に乗るか、でなければ赤土で靴が染まる(?)のを我慢して自分の足で登るしかない。唯一エンジン動力で上ることを許されているのが、このトイトレインToy Trainなのだ。
図2![]() |
インドは詳しい地形図を国外に公開していないが、米軍が作成した1:250 000地形図(図1)でシチュエーションの概略をつかむことができる。(map image courtesy of University of Texas Libraries)。しかしこの縮尺では線形まではよくわからないので、別途イギリスのダージリン・ヒマラヤ鉄道協会から、鉄道のルートマップ(出典は1924年測量の陸地測量部インド1インチ地図)を入手した。これを米軍地図に重ねて描き起こしたのが図2だ。
米軍図でCENTRAL RAILWAY、詳細図でMunbai Pune Main Lineと注釈のある幹線のネラルNeral駅から、支線が分岐している。これがマテラン山鉄道で、809フィートの尾根にとりついたあと、山襞を忠実になぞって交換駅のJumma Pattiへ、それから、壁のようにそびえる山裾を、何度も折り返しながら這うようにして高度をかせいでいく。山の北端、現在は日の出の名所、パノラマポイントPanorama Pointとなっている地点の直下を回りこむと、地形はなだらかな山上の気配となる。米軍図では2枚の図幅がちょうどマテラン山の中央で接合するため、鉄道記号が不自然にとぎれてしまっている。終点の様子は図2と、下記の参考サイトMaps of Indiaにある市街図で確認願いたい。
1907年に一般供用されて以来、せっせと行楽客を楽園に運び上げてきた鉄道だが、2005年7月26日のモンスーンによる土砂災害で寸断され、不通になってしまった。地元の新聞は、鉄道当局が同じように被害を受けた幹線の復旧を優先し、赤字に悩むマテラン線の再開は後回しにしていると伝えていた。グーグルの空中写真でこのあたりを見ると、大規模な崩壊の跡が至るところで確認できる。IRFCAに投稿された現地写真も、土砂に埋もれたり、折れ曲がり浮き上がったまま放置されたか細いレールの無残なありさまを捉えている。
■参考サイト
Neral Matheran line Monsoon Damage(IRFCAサイトのギャラリーから)
http://www.irfca.org/gallery/Trips/Neral_Matheran/
全線の5割とも7割とも言われた損壊で、復活せずにこのまま廃止かと気遣われたが、2007年3月5日付で「ネラル~マテラン列車が線路上に帰ってきた」という記事がMumbai Mirror Onlineに掲載された。鉄道は、2006年4月に開通100年を迎え、世界遺産「インドの山岳鉄道群」の暫定リストにもノミネートされている。ダージリンやニルギリのような登録済みのオールドボーイたちと同様、これからも末永く走り続けてくれることを祈りたい。
■参考サイト
IRFCAサイトのギャラリーから、マテラン山鉄道
(災害前) http://www.irfca.org/gallery/Trips/VivekMatheran/
(復旧後) http://www.irfca.org/gallery/Trips/Matheran07/
Maps of Indiaにあるマテラン(山上)の地図
http://www.mapsofindia.com/maps/maharashtra/matheran-map.html


現地から地図帳を取寄せるほどのこともないが、ウェブサイトで気軽にインドの鉄道地図を見たいという向きに、2点紹介しておきたい。1つは、インド鉄道の公式サイトにあるものだ。
全体図をクリックすると地域ごとの拡大図を表示するので、試しにどれかご覧になるといい。全国の鉄道路線を網羅しているのはもちろんのこと、執念のようなデータ収集の成果である各種情報(軌間、単線・複線、電化・非電化の別など)の表示にも手を抜いていない。大地図帳と違うのは、縮尺による制約もあって主要駅のみの表示になっていることだが、それとて急行停車駅は省略されていないから、通常の旅行には支障ないだろう。逆にフルカラーの利点を生かして、路線が鉄道管理局別に色分けされているので、視覚的にわかりやすい。
また、大都市周辺の詳細図は別に作られている。IRFCAが都市交通図を含めたインドの鉄道地図のリストを作っているので、そちらを参照されたい。


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