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2007年3月22日 (木)

イギリスの1:50 000地形図

Blog_osmapstamp

イギリスの国家測量機関はオードナンス・サーヴェイ Ordnance Survey(OS)と称している。ordnance というなじみのない単語は軍需品を意味し、地形図が軍用から出発したことを思い起こさせる。それで、日本語に訳すときは旧帝国陸軍の「陸地測量部」を当てはめるのが慣わしだ。しかし、いかめしいのは名前ばかりで、現在のOSが刊行する紙地図は一般向けに徹している。小縮尺図で地勢を概観できるのは1:1,000,000(100万分の1)の壁掛地図 Wall map に限られ、全土1面に収まる1:625,000や、8面で全土が揃う1:250,000は民間の道路地図と覇を競っているのだ。

中縮尺図では1:50,000がOSを代表する地図シリーズとなっていて、年間200万部近くを売るそうだ。愛称のランドレンジャーマップ Landranger map は、国土を自由に歩き回る人のための地図という意味だろう。そのルーツは、実距離1マイルが図上1インチで表されるいわゆる「ワンインチマップ」(縮尺1:63,360)で、OSとともに歩んだ長い歴史がある。

右上の写真はOS設立200年を記念して1991年に発行された切手(4種のうち24ペンス切手)の初日カバーだが、この図柄になっているのが最初の1インチ地図だ。場所は、南東部のケント州 Kent。なぜケント州かというと、フランス革命の余波が海峡を越えてくることを恐れた政府が、海岸の防備を固める目的で地形測量を計画したからだ。州は当時、英仏海峡に臨む軍事の最重要地域だった。1795年から1マイル6インチ(1:10,560)の精度で作業を開始したものの捗らなかったため、1マイル3インチに精度を落として、1801年に1インチマップを完成させた。次いで1805年に北隣のエセックス州 Essex の地図が作られ、20年と経たないうちに、イングランドとウェールズの1/3を覆うようになったという。

Blog_os1inchmap

さて、第1次大戦後、1インチ地図は観光用としての価値を与えられるようになる。地図の表紙カバーを美しい絵で飾った特別版が多数発行された。その伝統を受け継いだのが1インチ旅行地図 Tourist Map(後に Touring Map and Guide)のシリーズで、10年ほど前までカタログに残っていた。隣接図との重複をもたせた図郭の取り方や、カバーつきの大判折図なども、官製としては1インチ地図が先鞭をつけた形式で、その後、各国が模倣した。

しかし、1974年に1:50,000の最初のシリーズが刊行され、次第に1インチ地図を置き換えることになる。この1:50,000は1インチ地図の成果を拡大したもので、文字や線が太くなり、等高線は旧図の50フィート刻みをメートル法に換算しただけという暫定版だった。筆者も最初に目にしたときは大味な印象を受けたのを記憶している。この経緯もあってシリーズの改訂が進んだ今も、表現の繊細さを含めて1:25,000との様式の違いが顕著だ。
(右上の写真は、左から1946年版1インチ地図、1973年版1インチ旅行地図、1993年版1:50,000の表紙)

その1:25,000は経緯線で単純に区切られた区分図として登場したが、エクスプローラーマップExplorer mapとして全面的にリニューアルされ、1:50,000の詳細版の性格をもつシリーズになった。筆者も、どちらかというと情報の詳しさから、最近はこちらに手を伸ばしがちだ。

■参考サイト
イギリスの地図に関する情報は、「官製地図を求めて-イギリス」にまとめている。
http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_uk.html
OS小史 A brief history of Ordnance Survey
http://www.ordnancesurvey.co.uk/oswebsite/aboutus/history/

★本ブログ内の関連記事
 イギリスの復刻版地形図 I
 イギリスの復刻版地形図 II
 マン島の地形図
 英仏海峡 チャンネル諸島の地形図
 イギリスの旅行地図-ハーヴィー社
 イギリスの運河地図

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コメント

はじめてのコメントで失礼します。
イギリスの地形図に関するサイトを検索中にこのすばらしいブログに出会いました。ワンインチマップに関する説明がとても参考になりました。当方,地図切手の収集家で,この記事中にアップされている初日カバーの切手については当方のブログ「切手で読む地図の楽しみ」(http://mapstampfan.at.webry.info/)でも取りあげて紹介しています。リンクフリーということで,早速リンクを貼らせていただきました。今後ともよろしく御願いいたします。

コメントありがとうございました。
mapstampfanさんのブログも楽しく拝見させていただきました。地図切手には汲めども尽きない魅力があって、美しい地図切手に囲まれて過ごせることを羨ましく思います。私もはるか昔、高木実さんの「地図切手の世界」を読んだことを思い出しました。
リンクありがとうございました。

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