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2006年6月21日 (水)

ハルツ狭軌鉄道のクヴェードリンブルク延伸

2006年6月26日、サッカーワールドカップに沸くドイツで、狭軌鉄道の延伸線が開業する。

ドイツ北部のハルツ山地を走るハルツ狭軌鉄道 Harzer Schmalspurbahnen では、メーターゲージ(1000m軌間)の蒸気機関車が今なお活躍しているが、総延長130km余の路線群のうち、観光客に人気があるのは、ヴェルニゲローデ Wernigerode を発してブロッケン現象で知られるハルツ山地の最高峰ブロッケン山 Brocken へ上っていくルートだ。線名でいうと、ハルツ横断線 Harzquerbahn の北端部とブロッケン線 Brockenbahn ということになる。それに比べて、今回の主役ゼルケタール線 Selketalbahn は、アプローチが不便なためにいささか影が薄かった。

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ゼルケタール川沿いのアレクシスバート駅にて

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ゼルケタール線というのは、東部ハルツの山麓、ゲルンローデ Gernrode の町から出発し、山中のハルツゲローデ Harzgerode やハッセルフェルデ Hasselfelde へ通じる路線だ(下注)。1905年に全通したが、第二次大戦後、車両や施設がソ連への賠償に充てられて荒廃し、特に中間部のシュトラースベルク Straßberg ~シュティーゲ Stiege 間は1983年まで休止状態が続いていた。それほど、ハルツ狭軌鉄道を構成する路線の中でも利用度が低かったのだ。

*注 ゼルケタール線については、本ブログ「ハルツ狭軌鉄道 IV-ゼルケタール線」も参照。

しかし、今回の延伸計画は、長年の不遇の路線に脚光が当たる可能性を秘めている。というのは、延伸の目的地クヴェードリンブルク Quedlinburg というのが、1994年にユネスコ世界文化遺産に登録された注目の観光都市だからだ。10世紀にドイツ王国(ザクセン朝フランク王国)の初代国王ハインリヒ1世が即位した由緒から「ドイツのゆりかご Die Wiege Deutschlands」と呼ばれ、20世紀の二度の大戦で災禍を免れたため、木組みの家が肩を寄せ合う中世の街並みを現代に伝える。そのような同国屈指の古都に、狭軌鉄道が新たな観光資源として加わろうとしている。

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延伸前後の路線図
(上)2004年1月以前
(下)2006年6月26日以後

鉄道ファンにとっては、さらに興味をそそる事実がある。それはこの延伸が、1435mm標準軌の旧DB(ドイツ鉄道)線をわざわざ狭い1000mm軌間、いわゆるメーターゲージに改修することによって実現されるという点だ。同路線の友の会のサイト(下記参考サイト)から建設の経過を要約しよう。

「2005年4月18日、ゲルンローデ駅で関係者臨席のもと、ゼルケタール線延伸の起工式が執り行われた。標準軌を狭軌に改軌するのは、1950年代を最後に行われていない珍しい出来事だった。ザクセン・アンハルト州から600万ユーロ(8億4000万円)の助成を受けて進められたプロジェクトの目的は、世界文化遺産都市に同路線を接続して、新たな観光ルートの可能性を開くことだ。

延伸計画は1994年に公けにされたが、当初は3線軌条が検討されていた。しかし、旧DB線の線路にはコンクリート製の枕木が使われており、3本目のレールを敷設するには軌道全体をめくって枕木を交換する必要があった。2004年になってこの標準軌線が全線廃止となり、資金問題も解決して、ようやく改修のための準備作業が始まった。……」

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延伸前後の地形図
ドイツ連邦官製1:200,000 CC4726 Goslar(1987年版、2010年版)、
CC4734 Leipzig(1992年暫定版、2011年版)を使用
(c) Bundesamt für Kartographie und Geodäsie.

延伸に利用された標準軌線というのは、ゲルンローデを経由してフローゼ Frose ~クヴェードリンブルク間を結んでいた30.2kmの路線だ。ハルツ山地の北麓一帯の支線群の一つで、1868年にフローゼからゲルンローデの東隣にあるバレンシュテット Ballenstedt まで開通した(下注)。バレンシュテットには、当時この地方を治めていたアンハルト公が夏の離宮として使う古城があり、路線はそこへの足として公国当局が造らせたものだ。これが1880年代になってクヴェードリンブルク方面へ延長され、途中のゲルンローデから分岐するゼルケタール線の建設をも促進した。

*注 建設したのは、マクデブルク・ハルバーシュタット鉄道会社 Magdeburg-Halberstädter Eisenbahngesellschaft (MHE)で、1868年にフローゼ~バレンシュタット城 Ballenstedt Schloß(後のバレンシュタット西駅 Ballenstedt West)間を開通させ、その後、1885年にクヴェードリンブルクに達した。ゼルケタール線の第1期区間、ゲルンローデ~メクデシュプルング Mägdesprung 間の開通は、その2年後の1887年だ。

路線は、東独時代はもとより、東西統一後も運行されていた。しかし、需要の低迷で2001年、まず貨物列車に廃止の判断が下された。旅客輸送は維持されたが、2003年6月にバレンシュテット東駅の信号所が放火により損傷して、当駅をはさむ一部区間が不通となってしまう。バスによる代行も長くは続かず、2004年1月限りでついに全線の運行を終了した(下注)。ところが先述のとおり、これがゼルケタール線に次なる展開の道を拓いたのだ。延伸事業の経過に戻ろう。

*注 正式の路線廃止は2004年7月31日。

「2005年5月にゲルンローデ駅の改築が完了し、12月のはじめには全区間にわたって狭軌線の敷設を終えた。2月に列車が通れるようになり、同22日に試験運行が行われた。2006年3月4日に開通式が催され、8.5kmの延伸線の上を最初の公式列車が走った。4月から有効となる夏ダイヤにはすでにクヴェードリンブルクへの列車が設定されているが、定期運行は6月26日に始まる予定である。」

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ゲルンローデ駅構内のパノラマ
左の大きな建物はDB旧駅舎、その右の白い建物がHSB新駅舎

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ゲルンローデ駅の線路配置図

狭軌鉄道のゲルンローデ駅は、もともとDBの駅舎の前(南側)に車庫などと並んで設けられていた。今回の改修では、その場所に交換可能な島式ホームとコンパクトな駅舎を新設した。その西端から新しい線路が引き出され、DB駅のすぐ西でDBの線路敷に合流するようになっている。

そこからが改軌区間で、すぐに緩い右カーブで、畑が広がるハルツの裾野をすべるように下りていく。DB時代の中間駅バート・ズーデローデ Bad Suderode とクヴェードリンブルク・クヴァルムベック Quedlinburg-Quarmbeck は、狭軌鉄道も引継いでいるが、後者はリクエストストップの扱いだ。やがてターレThaleから来るDB線に出会い、並走すること2.5kmでクヴェードリンブルク駅の3番線に到着する。

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ハルツ山麓の麦畑を行く
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クヴェードリンブルク駅
(左)3番線に187系気動車が停車中 (右)クラシカルな駅舎正面

2006年の夏ダイヤでは、所要15分の延伸区間に下り9本、上り10本が設定されている。その半数はゲルンローデ以南の山中に入らない区間便で、どうやら観光客の試し乗りが想定されているようだ(下注)。その一方で、クヴェードリンブルクからブロッケン山頂を日帰り往復する長距離旅行も不可能ではない。8時34分に始発駅を出て途中1回乗り換えで13時28分に山頂に着き、帰りは山頂14時35分発、直通で19時24分にクヴェードリンブルクに戻ることができる。ただ、乗車時間計10時間、滞在時間はわずか1時間という強行軍なので、特に持久力に自信のある方にのみお薦めしたい。

*注 延伸開通から6年が経過した2012年夏ダイヤでは、すでにお試し便が姿を消している。ブロッケン日帰りは若干時刻変更があるが、実行は可能だ。

(2012年1月25日改稿、ただし文中のユーロの円換算レートは当時のもの。写真は2014年8月撮影)

■参考サイト
ハルツ狭軌鉄道(公式サイト)Harzer Schmalspurbahnen
http://www.hsb-wr.de/
ゼルケタール線友の会 Freundeskreis Selketalbahn e. V. (association "friends of Selketalbahn")
http://www.selketalbahn.de/
ゼルケタール線延伸 http://www.selketalbahn.de/streckenverlaengerung.htm
クヴェードリンブルク市公式サイト(日本語版)http://www.quedlinburg.de/jp/
ゲルンローデ付近のGoogle地図
http://maps.google.com/maps?f=q&hl=ja&ie=UTF8&ll=51.7295,11.1492&z=17

★本ブログ内の関連記事
 ハルツ狭軌鉄道 I-山麓の町ヴェルニゲローデへ
 ハルツ狭軌鉄道 II-ブロッケン線
 ハルツ狭軌鉄道 III-ハルツ横断線
 ハルツ狭軌鉄道 IV-ゼルケタール線

 ドイツの鉄道地図 IV-ウェブ版

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コメント

初めまして、たかべーと申します。いつも楽しく拝見させていただいてます。
先月ドイツのナロー巡りに行ったのでその模様を弊ブログにアップ中です。ハルツのゼルケタール線も訪れ、もうすぐアップの予定ですが、クヴェトリンブルク延伸の経緯について弊ブログの本文からこのページにリンクさせていただいてもよろしいでしょうか。
どうぞよろしくお願いします。

お言葉に甘えて今日アップした記事の中でリンクさせていただきました。合わせてホームページの方も紹介させていただいてます。
ありがとうございました。

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