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2006年4月27日 (木)

ドナウの曲がり角

Blog_dunakanyar_map 月刊「地図中心」2006年3月号(日本地図センター発行)を読み返していたら、「ドナウの曲がり角とセンテンドレ」という記事があった。場所はハンガリー北部、スロヴァキアとの国境に近い一帯。東へ流れてきたドナウ川がここで向きを南に変える。日本ではドナウベンドと呼ばれ、最近はブダペスト市街探訪とのセットで旅行社のツアーにも組み込まれている。ドナウベンドは、現地語でドゥナカニャル Dunakanyar(上記記事のドゥナ・クニーは誤り)。Dunaはドナウ川、kanyarは曲がり角という意味だ。ちなみにドイツ語ではドナオクニー Donauknie 、英語はダニューブ・ベンド Danube Bend で、日本での呼称はこれをミックスしている。

Blog_visegrad上記記事にある出典が明記されていない地図図版のうち、1:250,000のほうは明らかにハンガリーの地図会社、カルトグラフィア Cartographia 社発行の観光地図だ。同社のさらに詳しい1:40,000観光地図16番「Pilis, Visegrádi-hegység」を使えば、ドナウの曲がり角を存分に紙上旅行できる。

来た道を戻るのは芸がないので、ブダペストBudapestからドナウ河畔の町を巡ってブダペストに戻る左回り一周コースをとろうと思う。沿線には、芸術家の町センテンドレ Szentendre、古城が残るヴィシェグラード Visegrád、そしてハンガリー建国の地エステルゴム Esztergom がある。ちなみに、同じカルトグラフィア社の観光地図31番はずばり「Dunakanyar」と名づけられているが、センテンドレは図郭外になるので注意しなければならない。

旅の足はできるだけ鉄道にしたい。第1区間のブダペスト~センテンドレ間は、通称ヘーヴHÉVと呼ばれる近郊電車が走っている。すべて各駅停車で、終点まで行く便は日中30分ごとだ。壮麗な国会議事堂を川向こうに望むバッチャーニ広場 Batthyány tér から発車し、市街地を抜けていく。地図を見ると、直進する道路から離れてポマーズ Pomáz の町に迂回するが、思い直したように踵を返してセンテンドレに到着する。所要時間は約40分。駅に接して古典車両を展示する交通博物館 Városi Tömegközlekedési Múzeum があるので立ち寄らずにはいられない。そのあと、観光客でにぎわう市街の中心部まで歩いても、ものの10分ほどだ。教会や小さな美術館を巡り、路上画家の作品を冷やかしているとすぐに時間が経ってしまうだろう。

この先は鉄道が対岸にしかないので、主要道を走るバス(ヴォラーンブス Volánbusz が運行、時刻表は下記サイト参照)に乗る。ヴィシェグラードまで所要40分。この区間も30分ごとに出ているので便利だ。このあたりのドナウは、本流と支流センテンドレ・ドナウ Szentendrei-duna に分かれていて、バスの右の窓に時折顔を出すのは、実は支流のほうだ。左手に山が迫ってくると、ヴィシェグラードが近付いている。バスはドナウ対岸の町ナジマロシュ Nagymaros とを結ぶ船着場の前で停まる。小さな村で見るものとてないが、比高270mほどある背後の山の上はドナウベンドの格好の展望台になっている。きょうはこの黒山 Fekete-hegy に建つホテル・シルヴァヌス Hotel Silvanus を予約してある。夕なずむ大河を見下ろす部屋で休むとしよう。

ヴィシェグラード Visegrád の山上ホテルでを迎える。朝食のあとは、500mばかり先にある要塞跡まで朝の散歩に出かけよう。大河ドナウがゆったりと流れる広々とした峡谷のパノラマを見下ろしながら、暫し、いにしえに思いを馳せるのもいい。山を下りたら、昨日のバス停で1時間おきに来るエステルゴム Esztergom 行きのバスを拾う。陸路よりも船でドナウの川風に吹かれたいところだが、意外にもヴィシェグラードから遡る船は1日1便きりなので、よほど時間に余裕がない限り使えそうにない。

バスに乗ったら進行右側の席をとること。ドナウは終始右手を流れるからだ。古都エステルゴムまでは約40分。まもなく川は対岸の山塊を回り込むように大きく右にカーブしていく。山の名は聖ミカエル山 Szt. Mihály-hegy、標高484m。さほどの高さではないが、進路をふさぐように張り出しているので存在感がある。その麓をスロヴァキアへ向かう鉄道が走る。バスの窓からも、川べりの並木越しに列車の姿を捉えることができるかもしれない。聖ミカエルの山というと、フランスのモン・サン・ミシェル Mont-St-Michel、イギリス、コーンウォールのセント・マイケルズ・マウント St. Michael's Mount のような寺院を想像してしまうが、残念ながらここは休憩所があるだけらしい。

川はしばらく車窓から遠ざかり、再び現れるともう対岸はスロヴァキア領に変わっている。そのうち、家並みが増えてきて、エステルゴムの旧市街に到着だ。ここは、千年王国ハンガリーの最初の王宮が置かれた町。建国の歴史を伝える丘の上の大聖堂を訪ねたあとは、ドナウにかかる橋に出てその姿を遠望してみるのもよさそうだ。

ドナウに沿ってここまで大回りしてきたが、ブダペストに戻るには、ドログ Dorog 経由で東南方向に小さな峠を突っ切るのが早い。新市街のターミナルからバスが20分ごとに出ている。ブダペストまで1時間20分。しかし、ずっとバスの旅だったから、不便は承知の上で、鉄道ファンらしくハンガリー国鉄MÁVに乗ろうと思う。市内バス6系統が連れていってくれたのは、町はずれの少し心細い駅。でもブダペスト行きは1時間に1本以上ある。各駅停車で1時間30分は退屈かもしれないが、オメガループの峠越えがあるので見逃さないように。

■参考サイト
ヘーヴ  http://www.bkv.hu/
  時刻表 menetrend は、メニューのHÉV menetrend > Szentendrei HÉV
ヴォラーンブス http://www.volanbusz.hu/
   時刻表は、メニューのBelföldi menetrend > Helyközi menetrend > ABC順地名リストで検索
  センテンドレ~ヴィシェグラードは、Budapest 2920系統
  ヴィシェグラード~エステルゴムは、Esztergom 2855系統
ホテル・シルヴァヌス http://www.hotelsilvanus.hu/
MÁV列車検索 http://www.elvira.hu/ 英語版あり

「官製地図を求めて-ハンガリー」 http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_hungary.html

★本ブログ内の関連記事
 ハンガリーの旅行地図-カルトグラフィア社
 ブダペストの登山鉄道と子供鉄道

2006年4月 6日 (木)

フランスの1:50,000地形図

Blog_france_50k
1:50,000地形図表紙
(左)シノン 1974年
(中)ル・ピュイ・アン・ヴレー 1990年
(右)サン・ジェルヴェ・ドーヴェルニュ 2008年

フランス国土地理院 Institut Géographique National(IGN)が刊行する民間会社も顔負けの多彩な地図群の中で、1:50,000地形図は唯一、今も1970年代までの官製らしい雰囲気を残している。筆者にとっても思い出深いシリーズだ。

ヨーロッパ各国の地形図を個人輸入で買い始めたころは、もっぱら1:50,000の縮尺に集中していた。理由は、筆者の学生時代に日本の地形図といえば、この縮尺がメインだったからだ。当時、1:25,000はまだ全国をカバーしていなかったし、1:50,000のほうが広い面積が見られて、情報量もさほど遜色がない。貧乏学生としては4倍の投資効率を評価したのだ。

親しんだ手帳を換えると違和感がつきまとうように、地図もスケールが違うと、距離や面積に対する直感が通じない。スイス、ドイツ、イギリスとこの縮尺で見てきたので、フランスも当然のようにそうした。

スイスの官製1:50,000図は表紙が緑、ドイツは青、それに対してフランス国土地理院 Institut Géographique National(IGN)はセリ・オランジュ Série orange の名が示すように、オレンジ色だ。等高線もその色を使っているので、地図のふんいきに温かみが感じられる。印刷用紙は先の3国に比べると薄手で安っぽいが、印刷は鮮明で、濃いめのぼかし(陰影)が地形の立体感を際立たせていて見栄えがする。当時(1990年)の価格が1:25,000の半値ほどだったのも、うれしい要素だった。

しかし、まもなく1:50,000の境遇に転機が訪れる。経緯度で律儀に図郭を区切っていた1:25,000が、広い範囲の集成版TOP25に置き換えられて、一躍カタログの主役に躍り出たからだ。もっと広範囲をご覧になるときは1:100,000をどうぞとばかり、こちらも旅行情報を満載した体裁に衣替えした。

その狭間に埋もれて、一時は刊行そのものが廃止されたかのように見えた1:50,000だが、幸い今でも入手可能で、データの更新も行われている。ただ、カタログの第一線から外され、価格も1:25,000の区分図と同額となり、IGNとしてはあまり積極的に販売する気がないように思われる。地図の表面に目障りな黒のグリッド線が加刷されるようになったこともあって、その後は筆者も収集意欲を失ってしまった。

Blog_france_50k_special ただし、1:50,000の活躍の場がまったく閉ざされたわけではない。IGNが刊行する旅行地図のシリーズ、セリ・プレネル Série plein air では、依然としてベースマップとして使用されている。また、右の写真は都市周辺図として刊行された「大ルーアン Le Grand Rouen」と「リール Lillle」(1994年発行。現在は絶版)だが、中身は既存の1:50,000図を大判用紙に集成したものだ。一見中途半端な存在の1:50,000だが、実は都市郊外の広がりを地図1枚で示すのに適した縮尺なのだ。

【追記 2009.1.18】
2009年現在、IGN公式サイトの地図・案内書のページでは、1:25,000などと並んでセリ・オランジュ1:50,000の紹介が復活している。リード文には「1:25,000より表示は小さくなるが、ハイカーやサイクリストにはお薦め」とある。フランスの1:50,000図の場合、1面で実距離にして東西約30km、南北20kmを表すことができる。1:25,000のようにかさばらず、1日分のハイキングあるいは近距離の自転車旅行程度なら1~2面を携えればいいので、手堅い需要が見込まれているのだろう。表紙もオレンジのイメージを保ちながら、よりシックなデザインに変更された。

なお、セリ・オランジュという名称は、1978年にそれまでの平図(一時的に、折ったうえ透明ケースに入れた時期もある)から、表紙つきの折図に体裁を変更したとき、命名されたものだ。他の縮尺も同じように色名でシリーズ化されたが、1990年代に廃止され、今では1:50,000だけが名乗り続けている。

■参考サイト
フランス国土地理院 http://www.ign.fr/

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 ドイツの1:50,000地形図
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