2017年5月27日 (土)

コンターサークル地図の旅-石井閘門と北上運河

集合時刻の10時16分、石巻駅に到着した列車から降りてくる人波を見回したが、堀さんの姿はなかった。改札で待っていた外山さんに告げる。「乗っておられないですね。この電車は仙石東北ラインなので、塩釜では停まる駅が違うんです」。

Blog_contour1901
石巻駅
(左)仙石東北ラインの特別快速が到着
(右)駅のあちこちに石ノ森章太郎作品のキャラクター像が

コンターサークルS 地図の旅2日目の舞台は石巻市。北上運河の石井閘門(こうもん)を訪ねることになっている。北上運河というのは、石巻を流れる北上川(下注)と、鳴瀬川河口に計画された野蒜(のびる)港を結ぶ目的で、1881(明治14)年に開通した長さ12.8kmの運河だ。今も使える状態で残されていて、その東端に石井閘門がある。

*注 1934年(昭和9年)完成の治水事業により、北上川本流は東の追波(おっぱ)湾へ注ぐようになったため、運河が接続する川は現在、旧北上川と呼ばれる。

Blog_contour1902
石井閘門から北上運河を西望

堀さんは塩釜市内に宿をとっているのだが、仙石東北ラインの列車は仙台から東北本線を走り、宿の最寄りの仙石線本塩釜駅を通らない。「次の10時56分着が仙石線の各駅停車なので、それかもしれません」「少し時間があるから、下見がてら運河へ行ってみますか」ということで、外山さんの車に乗せてもらって、とりあえず石巻駅を後にした。目的地まで車なら10分もかからない。

駅前から街路を北西に進んでいくと、初めて渡る橋が、その運河をまたぐ蛇田新橋だ。右折して運河沿いに走れば、突き当たりに閘門が見えてくる。脇の空地に車を停めた。ドアを開けると、思いのほか風が強い。曇り空で日差しがないため、じっとしていると肌寒いほどだ。

Blog_contour19_map2
石巻駅から石井閘門にかけての1:25,000地形図に加筆

運河の閘門は、水位の異なる水路間に船を通すための施設で、いわば船用のエレベーターだ。それは主として、2基のゲート(門扉)とその間のプール(閘室)から成る。仕掛けの要は、プール内の水位調節だ。水位を船が入る側の水面に合わせ、入口のゲートを開ける。船がプールに入るとゲートを閉め、プールに水を注入(または排水)して、水位を船が出て行く側と同じにする。そして出口のゲートを開けるのだ。

石井閘門は、北上川と北上運河の間を往来する船の出入口であるとともに、運河の水量調節や農業用水の取水も兼ねる施設だった。名称の由来は地名ではなく、当時の土木局長の名だという。日本で最初の煉瓦造による西洋式閘門として、2002年には重要文化財の指定を受けた。

Blog_contour1903
(左)ゲートを支える頑丈な門柱部
(右)鋼製ゲートの背後は北上川だが、目下、新しい堤防と水門の工事中

ちょうど閘門のプールの上を、道路橋がまたいでいる。せっかくの景観を分断するのはどうかと思うが、橋上に立てば、閘門を正面から観察できる。閘門の全長は50.35m、プールは幅7.15m、高さの平均4.65m(現地の説明パネルによる)。ゲートを支える門柱は煉瓦造りで、プールの側壁は石積みになっている。側壁のところどころに十字の鉄製金具が埋め込んであるのが見えるが、「船をつなぐためのものでしょうね」と外山さん。

一方、ゲートには、もともと欅の木が使われていたが、1966(昭和41)年に耐久性のある鋼製に更新された。それもあって閘門には、130年を超える歴史から想像されるような古色感はなく、現役で動いている装置が放つ生気が感じられる。

Blog_contour1904
(左)ロープを巻取る装置のようだが… (右)側壁の十字金具

一通り観察したところで、石巻駅に戻った。次に着いた列車から堀さんが降りてきたので、一行3名で再度、石井閘門へ向かった。同じように橋の上から施設全体を眺めた後、プール際に設置された説明板のほうへ案内する。表面は施設の沿革、裏側には当時の設計図面や運河の見取り図が刻まれている。

写真に収めたいところだが、堀さんが、カメラの調子が悪いと言う。フィルムカメラなのに、「昨日からフィルムの回る音がしないんですよ」。外山さんが手に取って確かめた。「Eの表示が出ていますね。エラーではないでしょうか」。何枚かすでに撮ったのなら、ここでカバーを開けるわけにはいかない。それで撮影は諦めざるを得なかった。「皆さん撮ってられますから、必要な時には提供してもらいますよ」。

Blog_contour1905
説明板には設計図面と運河の見取り図も

隣接して設けられた運河交流館は、震災で損傷を受けて今も閉鎖中だ。目の前をゆったりと流れているはずの旧北上川も、白い工事用バリケードで閉ざされて見えない。今後の高水位に備えて、現在、堤防を嵩上げする工事が行われているのだ。堤高を標高約4.5mに揃える計画だが、閘門は3.5mしかない。それで、外側に別の高堤防を築き、運河に入るための水門を新たに設けるという。川に開かれた閘門の景観は変わってしまうが、文化財保存と水害防止を両立させるには、他に策がないのだろう。

Blog_contour1906
工事用バリケードに掲げられた堤防工事完成予想図

これで訪問の目的は果たしたが、後の予定は何も決まっていない。「どっちみち塩釜方面へ戻るので」と、外山さんの好意で、北上運河の流れを追って西へ走ってもらうことになった。

北上運河は、野蒜築港計画の関連工事として建設されている。明治の初め、東北地方の産業振興を図るために水運の整備が進められたとき、まず決定すべきは、内陸水路である北上川と外洋を接続する拠点港をどこに置くかだった。地元の人々は、河口の石巻が選定されることを望んだ。しかし、調査の依頼を受けたオランダ人技師ファン・ドールンは、川から流入する土砂の堆積を理由にその案を斥け、鳴瀬川河口の野蒜を最適地と結論付けた。そこで、石巻から野蒜港まで、船が、砂の溜まる港や波高い外洋を経由しなくて済むように、運河の開削が必要になったのだ。

Blog_contour19_map1
北上運河周辺の1:200,000地勢図に加筆

閘門付近では、運河の周りは今やすっかり市街地化している。左岸に遊歩道があるものの、なんとなく味気ない印象の風景が続く。仙石線を乗り越すあたりから、ようやく松林が見え始めた。国道45号線と分かれた後の道沿いにも、背の高い木立が残っている。しかし、潤いの感じられる水辺の景色は、定川との合流点までだった(下注)。

*注 北上運河のうち、定川以東を北北上運河、定川以西を南北上運河という。

この後、運河はなおも西へ延びているが、一帯は浸水被害を受けて、目下復旧工事の真っ最中だ。鳴瀬川の河口では、まっさらの堤防が立ち上がり、築港跡の記念碑はその上に移設されていた。煉瓦の橋台は見つけたが、周辺の市街地跡だったところは更地のままだ。釣り人で賑わったという突堤跡が、砂浜から切り離されて波に洗われている。

Blog_contour1907
野蒜築港跡の現状
Blog_contour1908
(左)新堤防に移設された築港跡碑 (右)波に洗われる突堤跡

明治の築港事業では、最重要工事であった港口の突堤が1882(明治15)年に完成した。ところがわずか2年後に、台風の直撃に遭う。襲う大波が東突堤の一部を押し流し、残骸で港も塞がれて使用できなくなった。当時、浚渫の技術は未熟だったし、緊縮財政の中で修復予算がつく目途も立たない。結局、事業は翌1885(明治18)年にあえなく放棄されてしまったのだ。

堀さんが言う。「オランダから来たファン・ドールンは、日本の自然がどういうものかわかっていなかったようです」。昨日訪れた花渕浜の外港はこの30年後に計画されたが、同じように台風で被災し、頓挫した。そして今回の地震と大津波だ。海から絶え間なく吹きつける強風の中で、私たちは、想像を超える自然の威力との果て無き闘いに、思いを馳せた。

Blog_contour19_map3
野蒜築港周辺の1:25,000地形図
(左)震災以前のようす(2007年更新)
(右)同じエリアの最新図(2017年5月画像取得)

本稿は、現地の説明パネルおよび宮城県教育委員会「宮城県の近代化遺産-宮城県近代化遺産総合調査報告書」平成14年3月を参考にして記述した。

掲載の地図は、国土地理院発行の2万5千分の1地形図石巻(平成22年更新)、同 小野(平成19年更新)、20万分の1地勢図石巻(平成元年編集)および地理院地図(2017年5月27日閲覧)を使用したものである。

★本ブログ内の関連記事
 コンターサークル地図の旅-花渕浜の築港軌道跡

 新線試乗記-仙石東北ライン

2017年5月20日 (土)

コンターサークル地図の旅-花渕浜の築港軌道跡

「JR仙石線・多賀城駅10:19集合、バスまたは車~歩き、築港工事跡の探索。」
コンターサークルS 2017年春の旅、初日となる4月30日の案内文は、これがすべてだった。

Blog_contour1801
築港軌道の第四隧道跡

旅程の知らせが届くと、現地へ赴く前にひととおり、舞台となるエリアと観察テーマの下調べをするのだが、今回ばかりはまったく見当がつかない。多賀城(たがじょう)といえば、古代陸奥の国の国府が置かれた場所だが、築港工事なんてあっただろうか。それとも、伊達藩の貞山堀(ていざんぼり)掘削と何か関係のある話だろうか。結局手がかりを見つけられないまま、ミステリーツアーに参加する気分で多賀城駅に降り立った。

史跡のイメージが強い多賀城も、今や仙台のベッドタウンだ。仙石線は駅の前後で高架化され、すっかり都市近郊の雰囲気に変貌している。改札前には、堀さん、谷藤さん、丹羽さんがすでに到着していた。さっそく堀さんに今日の行き先を聞いてみたが、「いや私もよく知らないんです。山から石を切り出して港を築いた跡らしいですが」。私の後から石井さん、外山さんも現れて、参加者は6名になった。唯一事情を知っているという石井さんの先導で、車に分乗して出発する。

Blog_contour1802
仙石線多賀城駅の高架ホーム

多賀城駅前から産業道路(県道23号仙台塩釜線)に出て、一路東へ向かった。地図で軌跡を追うと、砂押川、貞山堀を渡って、車は七ヶ浜半島のほうへ進んでいく。そして菖蒲田浜の近くの、韮山(にらやま)の麓にある広い空地で停まった。

いいお天気で日差しは強いが、海辺は風が通ってちょっと寒いくらいだ。韮山は山より丘というほうが的確で、斜面は殺風景な法枠ブロックで固められ、頂部は平坦にされて住宅が建っている。前面は、海水浴場で知られた菖蒲田浜の海岸線だが、東日本大震災で一帯が津波に襲われた後、高い堤防が新たに築かれた。

Blog_contour1803
(左)改変された韮山の斜面。石切り場の面影はない (右)菖蒲田浜の海岸線

石井さんが資料を配りながら説明する。「これは大正7年(=1918年)の河北新報の記事で、塩釜の築港工事のことが書かれています。近くの花渕浜(はなぶちはま)に外港が造られることになって、韮山から石を切り出して、軽便軌道で運んだんです。軌道の跡が少し残っているので、今日はそれを見ながら築港の場所まで行こうと思います」

1933(昭和8)年の1:25,000地形図を持参したが(下図参照)、そこに描かれる韮山はまだ宅地開発される前で、標高41.7mのいびつな円錐形をした山だ。それでも、すでに崖記号に囲まれ、東から南にかけて空地を従えている。石切り場だったと言われれば、なるほどそうだ。今は法面が大きく改変されて、当時の作業の痕跡などは見当たらなかった。

Blog_contour18_map1
花渕浜周辺の1:25,000地形図に加筆
破線が、米軍撮影空中写真を参考にして描いた軌道のルート
Blog_contour18_map2
花渕浜(花淵濱)周辺の旧版1:25,000地形図(1933(昭和8)年修正測図)に加筆

一行は東へ1km強のところにある高山の麓まで移動した。高山も海に面した小高い丘に過ぎないが、地元の谷藤さんいわく「明治の頃から外国人の避暑地だったので、ステータスは高いんです」。石井さんが、今通ってきた道路(県道58号塩釜七ヶ浜多賀城線)のほうを指差す。「あそこに切通しがありますが、道路が拡幅される前は、山側に独立して軌道の切通しが残っていたそうです」。行ってみると、道路の端より少し奥まったところに土の崖が露出している。これが軌道を通すために切り崩した跡らしい。

Blog_contour1804
(左)高山の西の切通し。軌道は、正面に見える土の崖から撮影者のほうへ直進していた
(右)道路の右側に残る土の崖が、軌道の切通し跡という

一方、私たちの背後には、それよりはるかに明瞭な痕跡が残されていた。高山の西側の低地は資材置き場になっているのだが、そこから山に向かって土の道が一直線に延びている。居座るブルドーザーが視界を遮るものの、地形から見てあの先が隧道になっているのは間違いない。

敷地に入らせてもらって進むと、一面雑草に覆われた掘割が現れ、予想通り、突き当たりに暗い空洞が口を開けていた。入口は半分土に埋もれているが、確かに人が掘ったものだ。「軌道には4本の隧道があって、これが一つ目の隧道の西口です」。中を覗き込むと、素掘りながら馬蹄形の輪郭がしっかり残っている。しかし、水が溜まって入れそうになく、奥のほうはがらくたで埋まっていた。津波が運んできたもののようだ。反対側の東口も落盤のため入れないというので諦め、私たちは、軌道の終点である花渕浜へ向けて、車を走らせた。そこにも別の隧道が眠っているらしい。

Blog_contour1805
正面のブルドーザーが置かれている道が軌道跡。直進して背後の高山を隧道で貫く
Blog_contour1806
(左)第一隧道へ向かう掘割 (右)第一隧道西口、洞内はがらくたに埋もれている

高山を切通しで乗り越えると、道路は花渕浜の突き当たりで左折するまで、丘の間の低地を直進していく。昭和8年図にはこの道はないものの、同じ位置に田んぼの中を一直線に延びる小道(地図記号としては、道幅1m以上の町村道)が描かれている。この軌道を取材した「廃線跡の記録3」(三才ブックス、2012年)によると、軌道のルートをなぞるもののようだ。

大勢の客で賑わう「うみの駅七のや」を横に見て、花渕浜の港の奥へ進むと、狭い道路の両側に車が隙間なく停まっていた。何事かと思ったら、目の前の潮が引いた浜に人が散開して、一心に砂泥を掘っている。潮干狩りに来ているのだ。私たちも、辛うじて残っていたスペースに車を置かせてもらって、歩き出した。干潟には背を向け、崖ばかり眺め回していたので、貝を採りに来た人たちには不思議な集団と思われたに違いない。

Blog_contour1807
花渕浜港で潮干狩りを楽しむ人々

浜の背後は高く切り立った海蝕崖が続いていて、その一角に小さな矩形の暗がりが見える。これも崩れてきた土砂と茂みで、下半分は埋もれた状態だ。「三つ目の隧道ですが、途中で崩落しています。」それで観察はほどほどにして、東の崖に目を向けた。そっちはもっと大きな穴がうがたれている。

Blog_contour1808
(左)軌道の終点、花渕浜に到着 (右)第三隧道東口は矩形に造られていた
Blog_contour1809
東の崖に第四隧道が口を開ける

「あれが軌道末端の第四隧道で、ほぼ完全に残ってます」。堀さんにはぜひ見てもらいたい、と石井さんが力説するので、大小の石が転がる崖の際を、足もとに注意しながら進む。右裾を波にえぐり取られていることもあって、穴は最初、いびつな形状に見えていたのだが、正面に近づくにつれて形が整い、まもなくきれいな馬蹄形をした素掘りのトンネルが姿を現した。穴を通して見る青空とテトラポットが眩しい。

「みごとですねー」と皆、感嘆の声を上げる。隧道が掘られているのは主に半固結の砂岩層で、工事は比較的容易だったのかもしれないが、建設から100年もの間、崩壊も埋没もせずによく残っていたものだ。「滑りますから気をつけて」と声をかけ合いながら隧道を抜けると、そこは堤防の外側で、石だらけの浜の先に明るい外海が広がっていた。

Blog_contour1810
第四隧道 (左)正面に立つと、きれいな馬蹄形の輪郭が現れる (右)隧道の先は外海
Blog_contour1811
軌道終点の浜に転がる石は、韮山から運ばれて来たものか?

花渕浜の築港軌道が絡んだ塩釜の第一期築港事業は、1915(大正4)年に起工されている。塩釜湾を浚渫して内港を整備するとともに、花渕浜から船入島の間、松島湾に防波堤を築いて外港とする計画だった。外港の建設は1917(大正6)年に着工されたものの、わずか4年後に台風の高波で作りかけの堤防が損壊してしまい、未完のまま、1924(大正13)年にあっけなく中止となった。

配られた河北新報の記事は、着工の翌年にあたる1918(大正7)年10月30日付で、主任技師の伊藤氏に工事の状況を取材している。

「花淵防波堤工事は漸く基礎工事に着手したるのみにて、専ら七ヶ浜韮森より石材を採集し、之を軽便軌道に依(よ)り、花淵に運搬しつゝあり。先づ南防波堤より順序として工事に取懸(とりかか)る予定なるも、完成期の如きは殆ど見込立たず」(句読点筆者)。

韮森(=韮山)から軽便軌道で石材輸送が始まったものの、進み具合ははかばかしくないと、監督のぼやく声が聞こえる。続けて、

「塩釜の港修築工事は、大正十年度内には総工事完成する計画を樹(た)て、予算の如きもこの年度割に編成したるものなれども、昨今の如く労力払底にては、果して既定計画通り工事が進捗するや否や甚だ疑問なり云々」

工事の遅れは人手不足が原因だったようだ。解説しながら石井さんがつぶやく。「「疑問なり」の後に、わざわざ「云々」って書いてるので、伊藤さんのぼやきは、このあとも延々と続いたんだと思います」。

Blog_contour18_map3
花渕浜の旧版1:25,000地形図を拡大
青い円内が沖へ突き出た砂浜

もし外港が計画通り完成していれば、軌道は存続して、貨物を運ぶ臨港鉄道に姿を変えていた可能性がある。実際、上記「廃線跡の記録3」には、地元タウン誌の引用として、東北本線岩切から花渕浜港へ鉄道を通す構想があったことが記されている。

「古い地形図(昭和8年図、右図参照)に、寺山から沖へ出っ張っている砂浜が描かれてますよね。」と石井さん。「これは一つ前の測量図にはないんです。壊れた防波堤が放置されて、そのまわりに砂が溜まってたのかもしれません」。稼動期間が短すぎたために、地形図にはついに記録されることのなかった幻の築港軌道。しかし、その存在が思いもよらぬ形で図上に明瞭な痕跡をとどめたのだとしたら、興味深いことだ。

Blog_contour1812

【追記 2017.5.28】
先日発売された、今尾恵介 責任編集「地図と鉄道」(洋泉社、2017年6月)の114ページ以下で、石井さんがこの築港軌道について的確な記事を書いている。軌道跡が明瞭に写る米軍撮影の空中写真や、高山の西の切通し(記事では小豆浜公園近くの切通し)の撤去前の写真なども見られる。ご参考までに。

掲載の地図は、国土地理院発行の2万5千分の1地形図塩竈(平成19年更新)、同 鹽竈(昭和8年修正測図)を使用したものである。
参考にした米軍撮影空中写真は、国土地理院所蔵のUSA-M201-56(1947年4月12日撮影)、USA-M174-228, 232(1952年10月31日撮影)。

★本ブログ内の関連記事
 コンターサークル地図の旅-夕張の鉄道遺跡
 コンターサークル地図の旅-石井閘門と北上運河

2017年5月13日 (土)

オーストラリアの地形図-タスマニア州 II

タスマニア州の第一次産業・公園・水・環境省 Department of Primary Industries, Parks, Water and Environment が2015年4月に作成した「タスマップ地形図作成 将来の方向性 TASMAP Topographic mapping Future directions」というパンフレットがある。その中でタスマップ(下注)の将来の方向性について、次の5項目が提案されている。

*注 現地の発音はタ「ズ」マップだが、タスマニアの慣用表記に合わせて、本稿ではタスマップと記す。

Blog_au_tas_map_catlg
「タスマップ地形図作成 将来の方向性」表紙

1.新たに1:50,000地形図シリーズを導入する
2.新たに1:50,000タスマニア マップブックシリーズを導入する
3.1:25,000、1:50,000、1:100,000、1:250,000基本図シリーズのデジタル版を導入する
4.1:25,000および1:100,000地図シリーズの現行版を保管し、今後改訂を行わない
5.1:250,000シリーズ、国立公園・観光・レクリエーション地図、タスマニア市街地図帳の保守・製作を継続する

この方針が出された背景には、オンラインマッピングやドライビング・ナビゲーションの急速な普及と技術的進化がある。その影響下で人々は、地図上の情報が常に最新であることを期待し、そのことが紙地図需要の低迷に拍車をかける一因になっている。地図製作・供給の現場はいずこも、この状況にどう対処していくべきかという共通の悩みを抱えているのだ。

前回紹介したタスマップの1:25,000地形図は全415面あるが、製作後の経過年数は平均20年で、40%は25年以上放置されている。1:100,000図40面でも、平均経過年数は10年だ。そして地形図は、点数が多い割に大して売れない。例えば、タスマップ1:25,000図で年間販売実績が100部を越えるのは、わずか14面に過ぎない。

それなら紙地図はもう不要かというとそうではなく、タスマニアでは例えば、エマージェンシーサービス組織や、人里離れた奥地を歩くブッシュウォーカーらに、まだ根強い需要があるという。それが紙地図の全面廃止ではなく、縮尺シリーズの整理という穏当な結論につながったようだ。

2015年の方針のなかで最も興味を惹かれるのは、1:50,000地形図シリーズを新たに導入するという点だ。縮尺1:50,000は、従来のタスマップの地図体系にはなかった。更新停止となる1:25,000図と1:100,000図の「最良の機能を結合して、より良質で適切な製品を提供する」というコンセプトで開発された1:50,000地形図とは、どのような中身なのか。さっそく、タスマップの販売サイトを通じて現物を取り寄せた。

Blog_au_tas_map2
1:50,000地形図表紙
(左)TQ08 Wellington 第1版 2015年 (右)TM06 St Clair 第1版 2015年

上記パンフレットによれば、1:50,000地形図は80面で州全域(離島のマッコーリー島 Macquarie Island を除く)をカバーする。2015年に刊行がスタートしたが、優先的に1:25,000図が在庫切れのエリアや、需要が大きいエリアの図が刊行されていて、2017年3月現在の刊行面数は23面となっている。

図郭は1:25,000と同様にUTM座標区切りで、1面で東西40km×南北30kmのエリア(面積1200平方km)を収める。用紙寸法を拡大した効果もあって、これで1:25,000図(200平方km)の6倍の面積が描けることになり、その分、面数が減ってストックの維持コストも軽くなるはずだ。

Blog_au_tas_map_index2
1:50,000索引図の一部(2017年3月現在)、緑の図葉が刊行済

Blog_au_tas_map_legend2
1:50,000の凡例

既存の1:25,000図と、内容を比べてみよう。地図表現では、配色に目立った変化はなさそうだ。等高線間隔は日本の1:50,000と同じ20mになったが、ぼかし(陰影)が付されているので、それがない1:25,000より地勢を感じ取りやすい。ただし、1:100,000図の明瞭なぼかしに比べれば控えめだ。植生は、1:25,000で8種に分類されていたものが4種に簡素化された。森林 Forest と低木林 Scrub の高さで2種に分け、ほかに植林地、果樹園・葡萄園を区別する。

地図記号では、市町村界 Local Government Area boundary がグレーの太線で存在を主張しているのに気づくが、これは1:25,000図式の踏襲だ。1:50,000ではさらにこの線に沿って市町村名が付された。建物関連では警察署、消防署、救急施設、州立エマージェンシーサービス、病院、郵便局といった公共サービス関連の記号がカラフルなデザインで目を引く。上述のように、こうした組織内での利用が意識されているのだろう。

業務用としてはともかく、個人の山歩きなどには使えるだろうか。セント・クレア湖 Lake St Clair 周辺の図を見てみると、主要な登山道は名称ともども網羅されていた。山小屋の場所と名称も記されている。少なくともタスマップが従来出している旅行地図(下注)に描かれる対象物は、きちんと転載されているようだ。なお、旅行地図のような耐水仕様の用紙ではないので、野外での本格的な使用には注意が必要だ。

*注 参考にしたのは、タスマップ刊行の "Lake St Clair Day Walks" 2016年版。

ところで、1:100,000もそうだったが、図名に必ずしも主要地名は使われない。明確な命名基準は知らないが、図郭の中央近くにある自然地名を用いることが多いようだ。州都ホバート Hobart が載る図葉は「ウェリントン Wellington」で、これは町の背後にあるピークまたは山地 range の名だ。その北隣の図葉「グリーン・ポンズ Green Ponds」は、目を凝らして探すとジョーダン川 Jordan River 支流の小河川の名だった。

Blog_au_tas_map_sample2a
1:50,000図 市街地の例 TQ08 Wellington 2015年 表紙を拡大
© Tasmanian Government, 2017
Blog_au_tas_map_sample2b
1:50,000図 山地の例 TM06 St Clair 2015年 表紙を拡大
© Tasmanian Government, 2017

方針の第2項目にあるとおり、1:50,000は1枚物の折図のほかに、地図帳(マップブック Map Book) としての刊行も予定されている。州全域を301図に分け、3分冊で刊行されるという。マップブックはすでにビクトリア州、南オーストラリア州で実例があるが、上記パンフレットでは2007年製作の旧版を置き換えると書いているので、企画自体はタスマニア州が先鞭をつけていたのかもしれない(下注)。

*注 残念ながら筆者は2007年版を実見したことがない。

一方、既存の1:25,000図と1:100,000図は、オフセット印刷としては在庫限りとなるが、直販サイト TASMAP eShop(下記参考サイト)でオンデマンド印刷による販売が継続される。また、これらを含むタスマップの各縮尺図は、同じ直販サイトでデジタルファイルのダウンロード販売も行われている。これにはGPSデバイスやGISソフトで使えるGeo TIFFファイルと、グーグルアース等で開くKMZファイルの2種類がある。オンデマンド印刷の価格が55オーストラリアドルときわめて高価なのに対して、ダウンロードの価格は1件当たりわずか2ドルだ。

*注 ちなみにオフセット印刷図は9.95ドル(2017年5月現在)。

■参考サイト
TASMAP eShop  https://www.tasmap.tas.gov.au/

また、タスマップには地図閲覧サイト LISTmap(タスマニア土地情報システム Land Information System Tasmania、下記参考サイト)も用意されている。ここでは、ベースマップとしてデジタル地図のほかに、1:250,000図と1:25,000図のラスタ画像を表示できる。画像はやや鮮明さに欠けるが、読図には支障がない。

■参考サイト
LISTmap  http://maps.thelist.tas.gov.au/

Blog_au_tas_map_hp1
LISTmap 初期画面
Blog_au_tas_map_hp2
地形図画像は右上の Basemaps ドロップダウンリストの "Scanned Maps" を選択
ちなみに "Topographic" はデジタル版地形図
Blog_au_tas_map_hp3
左端のスケールバーで縮尺を大きくすると、1:250,000画像が表示される
Blog_au_tas_map_hp4
さらに縮尺を大きくすると、1:25,000画像が表示される

★本ブログ内の関連記事
 オーストラリアの地形図-タスマニア州 I

 オーストラリアの地形図-連邦1:100,000
 オーストラリアの地形図-連邦1:250,000
 オーストラリアの地形図-ビクトリア州

2017年5月 7日 (日)

オーストラリアの地形図-タスマニア州 I

Blog_australia_statemap_tas

オーストラリアの地図を眺めると、大陸の南東沖に逆三角形をした島が見つかる。タスマニア島 Tasmania(下注1)だ。大陸との比較で小さな島と思われがちだが、面積は約64,500平方km(下注2)と北海道の8割強の広さがあり、周辺の島嶼とあわせて一つの州を形成している。歴史的にも、大陸の東半を占めていたニューサウスウェールズからの分離が1825年で、他の植民地に一歩先んじており、早くから独自の行政体制を整えていたことが知れる。

*注1 1856年まではヴァン・ディーメンズランド Van Diemen's Land と呼ばれていた。Tasmania の実際の発音は、タズマイニアに近い。
*注2 周辺島嶼を含めたタスマニア州全体の面積は68,401平方km。

タスマニアはまた、地形図の分野でも他州をしのぐ技術と実績を有している。オーストラリアでは1:100,000以下の縮尺図は連邦の測量機関(現在はジオサイエンス・オーストラリア  Geoscience Australia)が担当する原則なのだが、タスマニアだけは例外で、1:100,000も1:250,000も州の測量機関によって独自の体裁で作られてきた。

しかし、地形図体系の見直しという世界レベルの大波は、ここタスマニアにも押し寄せている。その結果、2015年には思い切った方針転換が発表されるに至った。豊富なラインナップを誇ったタスマニアの地形図は、今後どうなっていくのか。2015年以前の体系と以後の体系について、今回と次回で概観してみたい。

タスマニア州の測量機関は、第一次産業・公園・水・環境省 Department of Primary Industries, Parks, Water and Environment のもとで2015年に設立されたランド・タスマニア Land Tasmania だ。それまでは情報・土地サービス局 Information and Land Services Division と称していた。

官製地図のブランドである「タスマップ(タズマップ) TASMAP」は、民間とは一線を画した高品質な地図製品をユーザーに認識してもらうとともに、組織変更による影響を避ける目的で、1973年に初めて導入された。このアイデアは他州政府にもすぐに取入れられて、ビクマップ VICMAP(ビクトリア州)やサンマップ SUNMAP(クイーンズランド州)が誕生している。

州全域(離島のマッコーリー島 Macquarie Island を除く)をカバーする最大縮尺図は1:25,000で、全部で415面ある。タスマップの公式サイトによれば、このシリーズは「行政や産業用および一般用途の重要な資料である。環境管理、緊急事態管理、農場設計、鉱物探査に使われる。また、ブッシュウォークやマウンテンバイク、乗馬などのレクリエーションのユーザーにもおなじみである。」

Blog_au_tas_map1
1:25,000地形図表紙
(左)旧版 4038 Cradle 第1版 1986年 (右)新版 5225 Hobart 第4版 2008年

図郭はUTM(ユニバーサル横メルカトル)座標系で区切るもので、1面に東西20km×南北10kmの範囲を収める。地図用紙としてはかなり横長になる。これに対して1:100,000の図郭は、経緯度で区切る国際図に準拠しているため、両者の間には全く整合性がない。デジタル図で主流になったUTM座標系の図郭を早くから採用した先見性に驚かされる一方、各縮尺間で図郭や図番が体系化されていないため、地図を選ぶときに不便なのも事実だった(下注)。

*注 次回紹介するが、新1:50,000でもUTM座標系の図郭が踏襲されている。

Blog_au_tas_map_index1
1:25,000索引図
図中の青枠が1:100,000図郭で、1:25,000図郭とは合わない
Blog_au_tas_map_sample1
1:25,000図の例 5225 Hobart 2008年
© Tasmanian Government, 2017

1:25,000図は、全国をカバーする大縮尺基本図として、1970年代後半から整備が始められた。上の表紙画像で左側の黄色地のものは2003年以前の旧版で、旧測地系 AGD66に基づいている。右側のタスマニアのレリーフ地図を強調したデザインは、2003年以降の新版だ。測地系が新しい GDA94に切り替えられたため、旧版との間に生じるずれを埋める必要があった。それで図面には、上縁および右縁に隣接図との重複部分が設けられ、いわゆる裁ち落としの体裁が取られた。

等高線は日本の1:25,000と同じ10m間隔で、地形の詳細とともに、所有地や土地区画などの地籍情報も表示されている。地図記号では道路を、常用として維持されるものと、利用制限のあるものに分類するのがユニークだ。前者は実線の記号、後者は破線が用いられる。また、舗装の有無は赤と橙の色で区別する。キャラバンパークやキャンプ場と並んで、公共トイレ、ごみ箱設置場所の記号が定義されているのもおもしろい。

Blog_au_tas_map_legend1
1:25,000図の凡例

残念ながら1:25,000は更新停止の断が下されたため、オフセット印刷図の販売も在庫限りで終了する。品切れになった図葉はオンデマンド印刷で対応するとともに、デジタルファイルでの供給もすでに実施中だ。なお、1:25,000はタスマニア土地情報システム Land Information System Tasmania (LIST) のベースマップとして、ウェブサイトでの閲覧も可能になっている(次回詳述)。

冒頭でも述べたように、1:100,000と1:250,000も州が連邦に代わって製作していた。「タスマップと地図作成の歴史 History of TASMAP and Mapping」(タスマップ公式サイト)はその経緯について、「連邦が1:100,000縮尺を採用したとき、タスマニアには包括的な航空測量計画と地図作成能力があった。そこで、全国シリーズの中でタスマニアの全ての地図を編集し印刷するという協定に至った。1:50,000地形図シリーズに置換えられた2015年まで、タスマニアはこのシリーズの製作を継続した。タスマニアを完全にカバーする小縮尺図は縮尺1:250,000で提供され、現在も維持されている」と述べている。

1:100,000は、州全域を41面でカバーする(マッコーリー島を除く、下注1)。かつては北東沖のフリンダーズ島 Flinders Island と周辺島嶼が4面に分かれていたが、1面にまとめられた。標準図郭は経度30分、緯度30分の縦長判だ。等高線間隔は20mで、繊細なグラデーションのぼかし(陰影)が入れられ、植生を表す緑の塗りとともに、地勢が美しく浮かび上がる。連邦製作の1:100,000に比べても、描画技術は一段上だ(下注2)。

*注1 8512 Maria 図葉が索引図から消えたため、入手できるのは40面。
*注2 連邦1:100,000との比較については「オーストラリアの地形図-連邦1:100,000」も参照。

Blog_au_tas_map3
1:100,000地形図表紙
1:25,000の4桁図番と混同されないように、タスマニア1:100,000の表紙には図番の記載がない(背表紙にのみ記載される)。
(左)Derwent 第5版 1987年 (右)South Esk 第5版 2007年
Blog_au_tas_map_sample3
1:100,000図の例 8315 Pipers 2000年
© Tasmanian Government, 2017

連邦図とタスマニア図の相違点は、他にもある。表紙デザイン、地図の折り方、そして折ったときのサイズもそうだ。連邦図の折り方には変遷があるものの、折った状態では横10cm×縦25cmの縦長サイズだ。一方、タスマニア図は、縦長の用紙を横5ツ折、縦4ツ折にするため、横11.5cm×縦17.5cmとコンパクトサイズになる。

図名の付け方もおもしろい。連邦図は図郭内の主要地名を用いるオーソドックスな命名法だが、タスマニア図は都市や集落名ではなく、河川、湖沼、湾、山、岬、島といった自然地名を採用する。例えば、州都ホバート Hobart が載っているのは川の名から採った「ダーウェント Derwent」図葉で、都市はその河口にある。第二の都市ロンセストン Launceston も同じく川の名の「パイパーズ Pipers」図葉の範囲内だが、こちらはパイパーズ川の流域にはない。表紙の右上にその図葉に含まれる主要地名が列挙されているのは、直観的な図名でないことへの対策でもあるだろう。

連邦が1:100,000印刷図の改訂を停止したことに伴い、タスマニアも1:100,000の更新維持を断念した。

一方、1:250,000は、縮尺を連邦と揃えているものの、内容はタスマニアのオリジナル図と言い切ってよい。図郭からして連邦の標準を無視し、2倍近くある大判用紙を用いて、州全域をわずか4面でカバーする(マッコーリー島、キング島 King Island 等は挿図)。表紙デザインや折寸も独自なら、図式もほぼ独自仕様だ。

Blog_au_tas_map4
1:250,000地形図表紙
(左)South East 第1版 1990年 (右)North East 第4版 2010年
Blog_au_tas_map_index4
1:250,000索引図

等高線が100mと連邦図の50mに比べて粗いものの、ぼかしと段彩の組合せで補われている。かつては高度で色を分ける段彩だったが、現行版は色を緑から茶色へ連続的に変化させて、より滑らかな立体感を実現している(下図参照)。植生の表現は省かれており、地勢表現に徹する形だ。道路には道路番号とともに区間距離が添えられ、道路地図の機能も併せ持つ(下注)。注記は隣接図にまたがって配置され、4面を接合して大きな壁掛け図 Wall map にできるよう設計されている。

*注 1:100,000にも同じように区間距離が描かれている。

Blog_au_tas_map_sample4
1:250,000図の例
(上)North East 1980年(下)North East 2010年
© Tasmanian Government, 2017

ランド・タスマニアの発表によれば、1:250,000は今後も維持され、4年間隔で改訂されることになっている。またLISTでも無償のデジタル版として提供され、この点は連邦と歩調を合わせているようだ。

これが2015年以前の地形図体系だ。結局、既存縮尺では、1:25,000と1:100,000が廃止、1:250,000だけが存続ということになる。次回は、ランド・タスマニアが提案する地形図体系の今後の方向性について、新たに開発された1:50,000シリーズを含めて紹介したい。

■参考サイト
ランド・タスマニア  http://dpipwe.tas.gov.au/land-tasmania
タスマップ TASMAP  http://dpipwe.tas.gov.au/land-tasmania/tasmap

★本ブログ内の関連記事
 オーストラリアの地形図-タスマニア州 II

 オーストラリアの地形図-連邦1:100,000
 オーストラリアの地形図-連邦1:250,000
 オーストラリアの地形図-ビクトリア州

2017年4月29日 (土)

オーストラリアの地形図-ノーザンテリトリー

Blog_australia_statemap_nt

巨大な岩山で知られるウルル Uluru(英語名エアーズロック Ayers Rock)にカタジュタ Kata Tjuta(ジ・オルガズ The Olgas)、原生林と滝と断崖のカカドゥ Kakadu。大自然の中に彫り出された絶景は、オーストラリアの観光スポットとして必ず挙がる名だ。大陸縦断列車「ザ・ガン The Ghan」の運行に伴って、拠点都市ダーウィン Darwin やアリススプリングズ Alice Springs の地名を耳にすることも少なくない。これらはみなノーザンテリトリー Northern Territory(北部準州)の域内にある。

Blog_au_nt_map_detail1
ウルル(エアーズロック) 1:100,000特別図 Uluru-Kata Tjuta National Park 第2版 1996年 (×2.0)
© Commonwealth of Australia (Geoscience Australia) 2017. License: CC-BY 4.0

ノーザンテリトリーは、大陸中央部の北半分を占めている。連邦直轄地として1911年に領域が確定されたのち、短い南北分割期間を経て、1931年に再合併されて今に至る。1978年に自治権を与えられたが、日本の4倍近い面積に対して人口はわずか24万人だ。

地図作成はインフラストラクチャ・プランニング・ロジスティクス省 Department of Infrastructure, Planning and Logistics の所管とされている。2000年当時の古いデータで恐縮だが、域内の地形図の種類とカバーする範囲は以下の通りだ。

1:1,000,000:連邦 AUSLIG(現 ジオサイエンス Geoscience)所管、全域をカバー
1:250,000:連邦 AUSLIG 所管、全域をカバー
1:100,000:連邦 AUSLIG 所管、全域をカバー、ただし内陸部は編集原図のコピーを提供
1:50,000:連邦 AUSLIG 所管(製作は王立オーストラリア測量隊 Royal Australian Survey Corps)、北岸(主に南緯17度以北)およびスチュアート・ハイウェー Stuart Highway(=南北縦貫道)沿線で作成

他に1:25,000はダーウィン地域 Darwin Area、キャサリン Katherine、アリススプリングズおよびマリー川地域 Mary River Region で、1:10,000がダーウィンおよびアリススプリングズで作られているとされる。

このうち連邦所管の地形図の多くはネット公開されているので、いつでも図上遊覧ができる。冒頭に挙げた地域を地形図で追ってみよう。

ウルルを描いた1:100,000図は、上に掲げた。この地域では、1:100,000区分図(5047 Mount Olga および 5147 Ayers Rock)が編集原図のコピーで頒布されているが、それとは別に特別図「ウルル=カタジュタ国立公園Uluru-Kata Tjuta National Park」が作られている。掲げた画像はその一部だ。ウルルの山体には濃いめのぼかし(陰影)がかけられ、ボリュームのある形状が浮かび上がる。西麓から頂上へ直登する登山道や、有名な夕景を眺める場所(図の左上に Sunset Viewing Areaと注記)も描かれている。

一方、カタジュタはウルルの西25kmに位置する。36個の岩山から成るといわれ、図上でもかなりの数の閉じた等高線が確認できる。同じ1:100,000特別図の一部だが、こちらは50%縮小で表示しているので、距離感覚にはご注意を。

Blog_au_nt_map_detail2
カタジュタ(ジ・オルガズ) 1:100,000特別図 Uluru-Kata Tjuta National Park 第2版 1996年
© Commonwealth of Australia (Geoscience Australia) 2017. License: CC-BY 4.0

トップエンド Top End(下注)にあるカカドゥ国立公園からは、ジムジム・フォールズ Jim Jim Falls とツイン・フォールズ Twin Falls の周辺の1:100,000地形図を切り出してみた。図右下はジムジム・フォールズの部分を2倍拡大したものだ。この一帯は比高200m前後の断崖が連なり、滝はそれを切り裂くように懸かっている。また、周辺を覆う薄緑のドットパターンは、密度が中程度の植生を表す。掲載範囲外には、植生の平均高2mという注記が見られる。

注:トップエンドは、ノーザンテリトリー北端の半島部分を指す。

Blog_au_nt_map_detail3
ジムジム・フォールズとツイン・フォールズ 1:100,000 5471 Jim Jim 1990年
© Commonwealth of Australia (Geoscience Australia) 2017. License: CC-BY 4.0

港町ダーウィンはノーザンテリトリーの州都で、最大の都市でもある。1:250,000旧図(1962年編集)では、湾に突き出した旧市街の傍らから、3フィート6インチ(1067mm)軌間のノース・オーストラリア鉄道 North Australia Railway(NAR、1976年休止)が内陸に延びる様子が描かれている。一方、新図(2004年版)の鉄道は、ザ・ガンが走る大陸縦断のアデレード=ダーウィン鉄道 Adelaide - Darwin Railway(図では ALICE SPRINGS DARWIN RLY と注記) だが、ダーウィン駅も通るルートもNARとは全く異なる。この図の範囲では、NARの廃線跡が道路として利用されているようだ。

Blog_au_nt_map_detail4
ダーウィンとその周辺 1:250,000 SD52-04 Darwin 1963年
© Commonwealth of Australia (Geoscience Australia) 2017. License: CC-BY 4.0
Blog_au_nt_map_detail5
ダーウィンとその周辺 1:250,000 SD52-04 Darwin 2004年
© Commonwealth of Australia (Geoscience Australia) 2017. License: CC-BY 4.0

アウトバックのど真ん中に位置するアリススプリングズは、アデレード=ダーウィン鉄道の中継基地であり、ウルル=カタジュタ観光の出発地としても知られる。旧図は1958~62年の編集で、1968年に赤色で訂補が入った版だ。地勢の概観は、等高線を用いずぼかし(陰影)のみで表現されている。鉄道は、かつてアデレードとこの町を結んでいた1067mm軌間のセントラル・オーストラリア鉄道 Central Australia Railway だ。

一方、下の新図(2002年版)の地勢表現は等高線のみなので、旧図とは見かけが大きく異なる。40年の間に市街地は拡大し、アデレード=ダーウィン鉄道(gauge 1435mm と注記)も登場したが、駅の位置は動いていないようだ。

Blog_au_nt_map_detail6
アリススプリングズとその周辺 1:250,000 SF53-14 Alice Springs 1977年(1958, 62年編集、1968年修正)
© Commonwealth of Australia (Geoscience Australia) 2017. License: CC-BY 4.0
Blog_au_nt_map_detail7
アリススプリングズとその周辺 1:250,000 SF53-14 Alice Springs 2002年
© Commonwealth of Australia (Geoscience Australia) 2017. License: CC-BY 4.0

★本ブログ内の関連記事
 オーストラリアの地形図-連邦1:100,000
 オーストラリアの地形図-連邦1:250,000
 オーストラリアの地形図-クイーンズランド州
 オーストラリアの地形図-南オーストラリア州
 オーストラリアの地形図-西オーストラリア州

2017年4月25日 (火)

オーストラリアの地形図-西オーストラリア州

Blog_australia_statemap_wa

南オーストラリアが英語で "South" Australia であるのに対して、西オーストラリアは "Western" Australia になる。名称はスワン川植民地 Swan River Colony を改称した1832年から使われていて、南(1836年)よりわずかながら先輩だ。州は大陸の西側1/3を占めている。面積253万平方kmで日本の約7倍、世界でも2番目に大きな行政区だそうだ。約260万人の人口の約8割が、州都パース Perth と周辺の都市圏に集中する。オーストラリアの輸出量の6割近くを産出するという大規模鉱業もそこに地域本部を置く。

地形図を所管しているのは西オーストラリア州土地情報局 Western Australian Land Information Authority だが、「ランドゲート Landgate」というブランド名で呼ばれることが多い。それ以前は土地情報省 Department of Land Information (DLI) で、さらに遡れば1829年創立の測量総局 Surveyor-General's Office を起源とする歴史ある組織だ。

筆者は2003年にDLIに地図事情を問い合わせたことがある。当時、州製作の地形図は縮尺1:1,000,000(R313シリーズ)9面で全域をカバーしていたものの、1:100,000や1:250,000はなく、連邦 AUSLIG(現 ジオサイエンス Geoscience)の刊行図が案内されていた。より大縮尺の1:25,000や1:50,000は、パースを含む南西岸をかろうじて固める程度の刊行状況だった。

Blog_au_wa_map_index
地形図索引図の一部

それに比べれば、近年のランドゲート製品の充実ぶりは目を見張るものがある。地形図はWA トポ(トポ Topo は地形(図)を意味する Topographic の略)と呼ばれ、広大な州全域を1:25,000、1:50,000、1:100,000のいずれかでカバーしている。ここ10数年で整備されてきたので、座標系はすべてGDA94に統一されている。

縮尺別に見ていこう。まず1:25,000の製作範囲は、人口が集中するパースメトロ(都市圏)Perth Metro やサウスウェスト(南西地区)South West が中心だが、それだけでなく内陸部にも相当数が点在している。おそらく人が活発に動いているエリアはすべてカバーしているのだろう。図郭はUTMグリッドで区切られ、経度緯度とも7分30秒相当の範囲を収める。1:50,000のそれを縦横2等分したエリアだ。等高線間隔は地勢に応じて10mまたは20mになっている。

Blog_au_wa_map_detail1
1:25,000図(暫定版 provisional)の例
2034-II-SW Perth 2011年
© Western Australian Land Information Authority (Landgate), 2017

対して1:50,000の整備範囲は、南西部の1:25,000エリアの外縁に加えて、天然資源開発が盛んな北西部にも拡大されている。AUSLIGの同縮尺図とほぼ重なるので、その成果を引き継いでいるのかもしれない。図郭はUTM区切りで、経度緯度とも15分相当だ。改訂頻度は、パース都市圏は毎年、地方の中心地では2~5年毎とされている。

1:25,000、1:50,000図のないエリアでは、1:100,000が作成されている。

Blog_au_wa_map_detail2
1:50,000図の例
2434-4 Kellerberrin 2014年
© Western Australian Land Information Authority (Landgate), 2017

地図記号はどうか。1:50,000図で見ていくと、道路の記号は他州とさほど変わらない。国道 National Highway、主要道 Main Road とそれ以外(Minor Road など)とが色で分けられ、舗装の有無は実線か破線で区別される。興味深いのはその後で、建物記号では、固有のデザインが充てられるのは教会 Church と電波塔 Communication Tower だけだ。他は、点または矩形の単純形で片付けられてしまう。注記を伴いさえすれば、記号に凝る必要はないということだろうか。水部記号では、乾燥気候でふだん水は涸れている non-perennial ものらしく、すべて破線が使われる。同じ理由で、植生の記号がまったくない。

一方、土地利用は色の塗り分けで示され、市街地はレモンイエロー、工業地域はライラック、公園やゴルフ場はアップルグリーンだ。ゴルフ場はさらにミントグリーンを使ってコースが明示されている(上記1:50,000図ではケラーベリン Kellerberrin 市街地北方の小山の周囲に見える)。

Blog_au_wa_map_legend2
1:50,000の凡例

ランドゲートは、オフセット印刷図を全廃してしまった。現在、供給方法は地理参照型PDFファイル(CD焼き付け)か、オンデマンド印刷になっている。パース近郊フリーマントル Fremantle の地図商はそのショッピングサイトで、印刷図でも自社にある大判プリンタで出力するから速く届けられる、と言っている。販売店にとっては収納スペースも在庫チェックも不要なので助かるはずだ。にもかかわらず、1面あたりの価格が前者で12.39豪ドル、後者では26ドルというのはいささか高く、利用者にはデジタル化の恩恵があまり届いていない。

ランドゲートの地形図は、同局公式サイトからリンクしている "Map Viewer" という地図サイト経由で直接発注できるほか、西オーストラリア州の地図商でも扱っている。「官製地図を求めて-オーストラリア」の発注の項を参照。

■参考サイト
ランドゲート Landgate  https://www.landgate.wa.gov.au/
Map Viewer https://uat.landgate.wa.gov.au/bmvf/app/mapviewer/

★本ブログ内の関連記事
 オーストラリアの地形図-連邦1:100,000
 オーストラリアの地形図-連邦1:250,000
 オーストラリアの地形図-南オーストラリア州
 オーストラリアの地形図-ノーザンテリトリー

2017年4月16日 (日)

オーストラリアの地形図-南オーストラリア州

Blog_australia_statemap_sa

キャンベラのある首都特別地域は別として、本土のすべての州・準州と境を接しているのは、南オーストラリア州 South Australia だけだそうだ。トリビアが示すとおり、同州は大陸の真ん中にあり、南はグレートオーストラリア湾 Great Australian Bight に面している。州人口の3/4以上が州都アデレード Adelaide とその周辺に集中し、ほかに小都市は点在するものの、それを除けばいくつかの低山地と乾燥または半乾燥の放牧地がどこまでも続く土地柄だ。

Blog_au_sa_map_detail1
1:50,000図の例
公園緑地に囲まれたアデレード中心街
6628-3 & PT 6528-S Adelaide 2001年
© Department of Environment, Water and Natural Resources, State of South Australia, 2017, License: CC-BY 4.0

南オーストラリア州の地形図作成は、環境・水・天然資源省 Department of Environment, Water and Natural Resources (DEWNR) が所管している。官製図の愛称は「マップランド Mapland」で、どこかのテーマパークと間違えそうな響きだ。

Blog_au_sa_map1
1:50,000地形図表紙の変遷
(左)6028-I & PT 6128-IV Lincoln 1981年
(右)6628-3 & PT 6528-S Adelaide 2001年

連邦ジオサイエンスが1:250,000や1:100,000縮尺図で州全域をカバーしている(下注)ためか、マップランドは作成範囲を絞っている。市販されている地形図は1:50,000のみで、それも主として沿岸部の比較的人口が多いエリアでの刊行にとどまる。手元にある2002年版と2016年版の索引図を比較してもエリア拡張の気配がないから、これはもう確定事項なのだろう。

*注 ただし内陸部(いわゆるレッドラインの内側)の1:100,000は、編集原図のコピーで頒布されている。

1:50,000の図郭は、1:100,000のそれを縦横2等分した経度15分、緯度15分の範囲だ。初版は1970年代後半に遡り、現在は1980年代後半から2000年代前半製作のものが出回っている(下注)。旧版は主として2ツ折りで青表紙がついていた。1990年前後から印刷方式がプロセスカラー(CMYKの4色)になり、3ツ折りで、表紙もカラーの風景写真を配したものに変わった。座標系は2000年を境に、それ以前の版は旧測地系 AGD66またはAGD84、以降は新測地系 GDA94 が適用されている。

*注 同州アンリー Unley の地図商サイトhttp://cartographics.com.au/ の記述による。

Blog_au_sa_map_index
地形図の図郭
中央に数字4桁がある太枠の図郭が1:100,000、それを縦横2等分した細枠が1:50,000の図郭

等高線間隔は10mで、日本の同縮尺図の20mと比べると精度は高い。それなら、対象となる一帯が緩傾斜地ばかりかというとそうでもなく、アデレード・ヒルズ Adelaide Hills を含むマウント・ロフティー山脈 Mount Lofty Ranges やその北に続くフリンダーズ山脈 Flinders Ranges の山腹は、結構な斜度がある。こうした場所は等高線でぎっしりと埋まることになる(下図参照)。

Blog_au_sa_map_detail2
1:50,000図の例
傾動山地の断層崖が続くアデレード・ヒルズの西斜面。アデレードメトロのブレア線がくねりながら上っていく
6628-3 & PT 6528-S Adelaide 2001年、6627-4 & PT 6527-1 Noarlunga 2001年
© Department of Environment, Water and Natural Resources, State of South Australia, 2017, License: CC-BY 4.0

地図記号にはさほど特徴的なものはないが、あえて挙げるとすれば、一つは道路の舗装区分だ。他州では未舗装道に薄赤やオレンジを充てるところ、マップランドは茶色にしているので、妙に実感がある。また、旧版では道路の分類基準が等級別(主要道、地方道等)ではなく車線数で、細線が1車線、太線が2車線以上を表していた。しかし現行図では、他州と同じように等級別に改められている。

Blog_au_sa_map_legend
1:50,000の凡例(2001年)

Blog_au_sa_map2
「マウント・ロフティー山脈エマージェンシーサービス・マップブック」表紙

上述のように単品の折図は更新中止になっているようだ。しかし別途、主要地域をまとめた地図帳シリーズが、「エマージェンシーサービス・マップブック Emergency Services Map Book」の名称で刊行されており、比較的新しい情報が入手できる。これは以前、CFSマップブック CFS Map Book と呼ばれていたもので、本来、地方消防隊 Country Fire Service (CFS) 、州立災害救助隊 South Australian State Emergency Service (SES) が実施している緊急業務を支援するための内部資料だが、一般にも販売されてきた。

マップランドのサイトによれば、現在8冊刊行されており、沿岸部の地域を1:50,000または1:100,000でカバーしている(ただし、西海岸 West Coast の一部は1:250,000)。例えば、アデレード周辺域は「マウント・ロフティー山脈編 Mount Lofty Ranges Emergency Services Map Book」に収録されており、人気の観光地カンガルー島 Kangaroo Island には「カンガルー島編 Kangaroo Island Emergency Services Map Book」がある。現地価格79豪ドル(1ドル85円として6715円)と少々値は張るが、地形図を1枚ずつ買うよりはずっと経済的だ。

Blog_au_sa_map_detail3
マップブックの図例
from "Mount Lofty Ranges Emergency Services Map Book"
© Department of Environment, Water and Natural Resources, State of South Australia, 2017, License: CC-BY 4.0

マップランドの地形図(オフセット印刷図)は、オーストラリア国内の主要地図商で扱っている。「官製地図を求めて-オーストラリア」の発注の項を参照。

なお、前回のビクマップと同じく、マップランドでも地形図の閲覧サイトは作られていない。Map Finder というサイトがあるが、これは地図や空中写真の発注(有料)のためのものだ。上記のマップブックや最新地形図(プロッター出力)は、このサイトで入手できる。

■参考サイト
環境・水・天然資源省 Department of Environment, Water and Natural Resources (DEWNR)
http://www.environment.sa.gov.au/
Map Finder
https://apps.environment.sa.gov.au/MapFinder/

★本ブログ内の関連記事
 オーストラリアの地形図-連邦1:100,000
 オーストラリアの地形図-連邦1:250,000
 オーストラリアの地形図-クイーンズランド州
 オーストラリアの地形図-ニューサウスウェールズ州
 オーストラリアの地形図-ビクトリア州
 オーストラリアの地形図-西オーストラリア州
 オーストラリアの地形図-ノーザンテリトリー

2017年4月 9日 (日)

オーストラリアの地形図-ビクトリア州

Blog_australia_statemap_vic
Blog_au_vic_map_catlg
VICMAP印刷図索引図
2014年版表紙

古風な雰囲気の残る州都メルボルン Melbourne のゆったりとした美しい街並みが、人々がこの州に抱くイメージを規定する。ビクトリア Victoria(下注)は、オーストラリア大陸の南東部の一角を占める州で、面積こそ本土で最小だが、人口はニューサウスウェールズに次いで多い。

*注 「ヴィクトリア」と書きたいところだが、オーストラリア観光局の表記に従って「ビクトリア」とする。

州の繁栄は、19世紀半ばに北中部のバララット Ballarat やベンディゴ Bendigo 周辺で起きた金の採掘ブーム、いわゆるゴールドラッシュによってもたらされた。渦中の地への玄関口として、ポートフィリップ湾 Port Phillip Bay に面するメルボルンやジーロング Geelong も急速に発展した。大陸第一の都市となったメルボルンが、オーストラリア連邦発足に際してシドニー Sydney と首都の座を争い、結局、双方痛み分けで内陸の小村キャンベラ Canberra に決まった話は有名だ。それでも首都が建設されるまでの約20年間、首都機能を果たしたのはメルボルンだった。

現在、ビクトリア州の地形図作成は、環境・土地・水・計画省 Department of Environment, Land, Water and Planning (DELWP) が所管している。州の略称が VIC なので、地図シリーズの愛称も「ビクマップ Vicmap」だ。もっとも最近は、地形図に限定せず、州の地図情報データベースの総称として使用されている。データベース全般の紹介は筆者の手に余るので、地形図に絞って紹介するが、それでさえ体系はなかなか複雑だ。

vBlog_au_vic_map_detail2
1:50,000図の例
パッフィンビリー鉄道の終点ジェムブルック Gembrook 周辺
8022-S Neerim 2008年
© Department of Environment, Land, Water and Planning, State of Victoria, 2017, License: CC-BY 4.0

ビクマップの製品記述書によれば、ハードコピー・マッピング(印刷地形図)Hardcopy Mapping には、大別して2つのカテゴリーがある。一つ目は標準図郭の区分図シリーズで、1:25,000、1:50,000、1:100,000と3種類の縮尺が用意されている。

1:25,000は、かつて経度7分30秒、緯度7分30秒の縦長判だったが、後に、これを横2面接続した経度15分、緯度7分30秒(+隣接図との若干の重複)の横長判に改められた。便宜上、前者はシングルフォーマット、後者はダブルフォーマットと呼ばれる。1:25,000は北西部の平原や東部の山岳地帯では初めから整備の対象外だが、刊行済みのエリアでも更新間隔が最大6年とされているためか、いまだに両フォーマットが混在している。図番も、前者は6桁目が1~4、後者はN(北)かS(南)と異なる(例:7822-2-1、7822-2-N)。

Blog_au_vic_map1
1:25,000地形図表紙の変遷(左から)
旧版(シングルフォーマット)7922-2-3 Lysterfield 1988年
旧版(ダブルフォーマット)8022-3-S Gembrook South 1993年
新版(ダブルフォーマット)7922-2-S Monbulk South 2013年

Blog_au_vic_map_detail1
1:25,000図の例
ベルグレーヴ Belgrave 周辺 7922-2-S Monbulk South 2013年
© Department of Environment, Land, Water and Planning, State of Victoria, 2017, License: CC-BY 4.0

1:50,000も2種のフォーマットがある事情は同じだが、すでに経度30分、緯度15分のダブルフォーマットで全面刊行が完了している。換言すれば、1:50,000が州全域をカバーする最大縮尺ということだ。図番は1:100,000のそれの後にNかSが付く(例:7822-S)。ただ、王立オーストラリア測量隊 Royal Australian Survey Corps (RASC) がかつて製作した1:50,000図(シングルフォーマット)も索引図に表示されているので、在庫のある限り並行販売されているようだ。

またこれらとは別に、国立・州立公園などで標準図郭に捉われずに自由に図郭を設定した「特別図 Special」もある。縮尺は1;25,000または1:50,000で、裏面には同じエリアのオルソフォト(正射写真)が印刷されている。

Blog_au_vic_map2
1:50,000地形図表紙の変遷(左から)
旧版(ダブルフォーマット)7324-N Horsham-Murtoa 1991年
新版(標準図郭)8022-S Neerim 2008年
新版(特別図)Wilsons Promontry Special 2008年

Blog_au_vic_map3
1:100,000地形図表紙
7723-7823 Castlemaine-Woodend 2011年

これに対して1:100,000は本来、連邦の測量機関ジオサイエンス Geoscience の守備範囲であり、ビクトリア州域ではとうに完成済みだ。ところが、州は一部地域でオリジナル版を刊行し始めた。しかも連邦図(経緯度とも30分)に倣うのではなく、図郭を横2面接続したダブルフォーマット(経度1度、緯度30分)での提供だ。図番は、連邦のそれを単純に連結している(例:7723-7823)。思うに連邦の印刷版更新が停止されたため、州として必要な図葉を自ら維持する方針なのだろう。まだ刊行面数は少ないが、将来的には連邦図を置き換える存在になる。

仕様はいろいろな点で連邦図と異なる。等高線間隔は、地勢に応じて50mまたは100mとされ、連邦図(20m間隔)に比べるとだいぶ粗い。その代わりに濃いめのぼかしがかけられ、地勢を視覚的に強調しようとしている。植生関係では森林にアップルグリーンの塗りを充てているが、ぼかしとの競合を避けるためか、薄くてほとんど目立たない。

下に、マセドン山 Mount Macedon 周辺のビクマップと連邦図を並べてみた。連邦図のこのエリアは大半が軍測量隊による旧図(7823 Woodend図葉の部分)だが、等高線が稠密で注記も多いことがわかる。ビクマップでは敢えて1:100,000に、詳細表現よりも広域を概観する役割を持たせているようだ。

Blog_au_vic_map_detail3
1:100,000図の例
マセドン山 Mount Macedon 周辺  7723-7823 Castlemaine-Woodend 2011年
© Department of Environment, Land, Water and Planning, State of Victoria, 2017, License: CC-BY 4.0
Blog_au_100k_detail5
同じエリアの連邦1:100,000 7723 Castlemaine 1985年、7823 Woodend 1980年
© Commonwealth of Australia (Geoscience Australia) 2017. License: CC-BY 4.0

ここまでが標準図郭シリーズの話だが、もう一つのカテゴリーというのは、オンデマンド出力の地形図だ。これは図面が汎用のA判プリンタに対応するサイズに調整されており、発注は専用サイトを通じてオンラインで行う。ユーザーはプロッター(実際はカラープリンター)出力された印刷図を受取ることもできるし、地理参照型PDFファイルでダウンロードすることもできる。縮尺はA0判が1:25,000、A3判とA4判が1:30,000になる。印刷する範囲も、標準図郭と任意の図郭を選択できるのが特徴だ。

実は標準図郭でも、近年は業務合理化のために、需要の少ない図葉がオフセット印刷ではなく、プロッター出力に移されてきている。そのため、2つのカテゴリーといっても、相違点
は結果的に、用紙サイズ(と縮尺)のバリエーションに収斂されてしまうのだが…。

オーストラリアでは2000年に、地図投影の基礎となる座標系が変更された。刊行図のうち2003年以前のものは旧測地系 AGD66 が、その後は新測地系 GDA94 が適用されている(下注)。縮尺、フォーマット、印刷方法に加えて、この測地系の区別があるため、それらを一枚に表現するビクマップの地図索引図(下図はその一部)は、かなり難解なものと覚悟しておく必要がある。

*注 ADG66はAustralian Geodetic Datum 1966、GDA94はGeocentric Datum of Australia 1994の略。

Blog_au_vic_map_index
地形図の図郭
黄枠は1:100,000ダブルフォーマット、青枠は1:50,000ダブルフォーマット、
赤枠は1:50,000特別図、緑枠は1:25,000ダブルフォーマット、
灰色の細線枠は1:25,000シングルフォーマットで現在はオンデマンド出力地形図の定形図郭

地図の図式は各カテゴリー・縮尺ともほぼ共通だ。ただ、地籍界が描かれるのは1:25,000だけで、道路網や街路名も縮尺が小さくなるにつれて適宜省略される。

地図記号には他の州にないものも見られる。たとえば、主要道では、道路地図のようなデザインの道路番号が付されている。鉄道関係では、トラムが発達するメルボルン市内を想定した併用軌道の記号がある。主要なトレール(自然歩道)には、図上で跡がたどれるように色三角の目印が置かれている。さらに地勢表現としてぼかし(陰影)が加えられ、見栄えの点でも他州とは一線を画している。

Blog_au_vic_map_legend
1:25,000凡例の一部

このように意欲的な整備が進行中のビクマップだが、今のところウェブサイトでの提供は行われていない。VicmapTopoOnline と銘打ったサイトが存在するが、地形図閲覧サイトではなく、上述したオンデマンド出力の地形図を発注(有料)するためのものだ。画面に表示される地図は旧式の線画レベルで、あまりに物足りない。せめて地形図ファイルのダウンロードを無料化してくれると嬉しいのだが。

ビクマップ(印刷図)は、オーストラリア国内の主要地図商で扱っている。「官製地図を求めて-オーストラリア」の発注の項を参照。

■参考サイト
環境・土地・水・計画省 Department of Environment, Land, Water and Planning (DELWP)
http://www.depi.vic.gov.au/

★本ブログ内の関連記事
 オーストラリアの地形図-連邦1:100,000
 オーストラリアの地形図-連邦1:250,000
 オーストラリアの地形図-ニューサウスウェールズ州
 オーストラリアの地形図-南オーストラリア州
 オーストラリアの地形図-タスマニア州 I
 オーストラリアの地形図-タスマニア州 II

2017年4月 3日 (月)

オーストラリアの地形図-ニューサウスウェールズ州

Blog_australia_statemap_nsw
Blog_au_nsw_map_catlg
NSW州地形図カタログ
2011年版表紙

ジェームズ・クック James Cook が英国軍艦エンデヴァー号で南太平洋のタヒチへ向かったのは1768年のことだ。表向きの目的は金星の太陽面通過の観測だったが、それとは別に未知の南方大陸を探索せよという密命も受けていた。彼はタヒチからニュージーランドに到達し、次いで西へ進んで、1770年4月に現在のオーストラリア大陸を「発見」した。

ニューサウスウェールズ New South Wales というのは、彼がこの探検航海の間に、大陸の東岸全体につけた地名だ。しかし、クックは命名の理由を書き残していないし、彼自身はヨークシャー生まれで、ウェールズ南部には縁がない。それどころか、サウスウェールズがウェールズの南部を意味するのか、それとも南半球のウェールズと言いたかったのかさえわからないのだ。

現在のニューサウスウェールズ州 State of New South Wales(以下 NSW)は、クックが最初に上陸した場所を含むオーストラリアの南東部を占めている。地形図を所管しているのは、州財務・サービス・イノベーション省 Department of Finance, Services and Innovation のもとにある国土・資産情報局 Land and Property Information (LPI) だ(下注)。広大な州域を独自の地形図群で完全にカバーしている。紙地図(オフセット印刷図)も、クイーンズランドのように刊行停止されてはおらず、州内のみならず他州の地図商経由でも問題なく入手が可能なのは嬉しい。

*注 州の地形図製作を所管していた旧 国土・資産管理局 Land and Property Management Authority (LPMA) が2011年に廃止され、LPIが業務を引き継いだ。

Blog_au_nsw_map1
1:25,000地形図表紙の変遷(左から)
旧版 8929-2S Mittagong 1981年、旧版 9130-3S Botany Bay 1987年
新版 8525-2S Perisher Valley 2001年、新版 9029-1S Appin 2012年

LPIが製作している中縮尺地形図には、1:25,000、1:50,000、1:100,000の3種のシリーズがある。それぞれ緑、青、赤の表紙で区別されるが、下図のとおり刊行エリアは明確に分けられ、重複はない。そのうち1:25,000の縮尺は、先述の地勢区分でいうと、およそ海岸平野から西部斜面までの、比較的人口が集中し、土地利用が密な地域に適用されている。それだけ地形図の需要が多く、精度も必要とされるためだろう。

Blog_au_nsw_map_index1
縮尺ごとの適用エリア

Blog_au_nsw_map_detail1
1:25,000図の例
入江に沿ってシドニーの観光名所ハーバーブリッジやオペラハウスが見える
9130-3N Parramatta River 2002年
© Land and Property Information, NSW, 2017, License: CC-BY 3.0
Blog_au_nsw_map_detail2
1:25,000図の例
カトゥーンバ市街地のへりに断崖の記号が続き、ブルーマウンテンズの展望台が多数並ぶ 
8930-1S Katoomba 2000年
© Land and Property Information, NSW, 2017, License: CC-BY 3.0

対する1:50,000の製作範囲はそれより内陸の西部平原一帯で、一部の例外を除き、連邦のレッドライン Red Line までだ。レッドラインというのは、連邦の1:100,000地形図整備計画で、地形図を刊行せずに編集原図のコピー頒布にとどめたエリアの境界を指す。ラインを越えると主として内陸の砂漠地帯なのだが、LPIはそこでも1:100,000を刊行しているので、結果的に、連邦が諦めた地形図刊行を州が代行した形になっている。かつて連邦ジオサイエンスの製品カタログにも、NSW州域の1:100,000は連邦では刊行しておらず、NSWで入手できると記載されていた。

Blog_au_nsw_map2
1:50,000地形図表紙(左から)
旧版 8225-I & IV Albury 1980年、旧版 8428-N Sebastopol 1985年
新版 8428-S Junee 2012年
Blog_au_nsw_map3
1:100,000地形図表紙 (左から)
旧版オルソフォト地図 7931 Willandra 1975年、 新版 7333 Menindee 2000年

次に図郭の切り方だが、前回紹介したクイーンズランドの同縮尺図と比べると、横が2倍の長方形になる。1:25,000の場合、1:100,000の図郭を横2等分、縦4等分するので、経度15分、緯度7分30秒の範囲をカバーする。1:50,000の図郭はその4面分、すなわち1:100,000の図郭を縦2等分したサイズになる。

Blog_au_nsw_map_index2
地形図の図郭と付番方式
図郭は1:100,000(赤枠)を縦2等分すると1:50,000(青枠)、それを縦横各2等分すると1:25,000(緑枠)
図番は1:100,000に対して、1:50,000はN(北半分)とS(南半分)、1:25,000は1~4とN・Sを加える

図式は、各縮尺でほぼ共通の設計だ。等高線間隔は1:25,000の場合、平地・中間地は10m、山地は20mとされている。そのため、日本の同縮尺図(等高線間隔10m)を見慣れた目には、山地の表現がかなり粗く感じられる。1:50,000の等高線は20m間隔だ。

等高線の色は、スポットカラー(特色)印刷だった時代は道路と同じ赤を使っていたが、今はプロセスカラー(CMYKの4色刷)化され、少し灰味を帯びたテラコッタ色が充てられている。森を表すアップルグリーンと掛け合わせると薄い茶色のようにも見え、違和感はない。

市街地は黄色のベタ塗りの上に、各戸の敷地を示す地籍界がこまめに描かれ、道路(街路)名も詳しく注記されている。さらに、教会(礼拝所)、学校、救急施設、警察などかなりの種類の公共施設がアルファベットの略号で表され、広場 playground や公衆トイレ toilets まで記載されている。地形図でありながら、市街図としても使えるものを目指しているのだろう。

一方、農場や牧場が展開する平原に目を向けると、農道にストックグリッド stock grid(家畜の逃走を防ぐために道路に設ける格子状の仕掛け)や渡渉地 floodway、目標となる構造物 landmark feature の例としてサイロ silo やヤード yards(家畜用の囲い場)など、特徴的な記号が現地の風景を想像させる。鉱山 mine の記号がつるはしの交差ではなく、片方がスコップ(ショベル)形になっているのもおもしろい。

Blog_au_nsw_map_legend
1:25,000凡例の一部

1990年代までNSW州独自のシリーズは、地形図か、そうでなければオルソフォト地図(1:50,000や1:100,000図の一部)のどちらかで供給されていた。これに対して2000年から、新たなシリーズへの置換えが始まった。新版は両面刷で、おもて面に地形図、裏面には同じエリアのカラー空中写真(オルソフォト)を配している。

クイーンズランド州の取組みに倣ったように見えるが、空中写真は地図仕様ではなく、画像の上に1kmグリッドと最小限の地名を加えただけの簡素な作りだ。実際のところ、このほうが純粋に地表の様子を読み取ることができてよい。とはいえ、その後グーグルマップなどの普及で空中写真が身近になり、新版登場のときに感じたありがたみはすっかり薄れてしまったのだが…。

なお、これらの地形図(印刷図)はオーストラリア国内の主要地図商で扱っている。「官製地図を求めて-オーストラリア」の発注の項を参照。

最後に、州全域にわたってLPI刊行の地形図データを閲覧することができる NSW Topo Map (MapServer) というサイトを紹介しておこう。

■参考サイト
NSW Topo Map (MapServer)
http://www.arcgis.com/home/webmap/viewer.html?url=http://maps.six.nsw.gov.au/arcgis/rest/services/public/NSW_Topo_Map/MapServer&source=sd

Blog_au_nsw_map_hp1
NSW Topo Map (MapServer) 画面

これは、地理情報統合プラットフォーム ArcGIS を利用しており、シームレスな地形図ラスタデータがレイヤーとして表示される。内容は刊行図と同じもので、解像度が高く、2倍程度の拡大表示にも耐えられる。

初期画面は縮尺が小さいため、何が描かれているのか判然としないが、地図画面左上にある+ボタンで拡大していくと、次第に地形図画像が見えてくる。ArcGIS のベースマップには衛星画像も用意されているので、表示を地形図から衛星画像に切り替えれば、印刷図で試みられた仕掛けがいとも簡単に実現できる。

■参考サイト
国土・資産情報局 Land and Property Information (LPI)  http://www.lpi.nsw.gov.au/

★本ブログ内の関連記事
 オーストラリアの地形図-連邦1:100,000
 オーストラリアの地形図-連邦1:250,000
 オーストラリアの地形図-クイーンズランド州
 オーストラリアの地形図-ビクトリア州
 オーストラリアの地形図-南オーストラリア州

2017年3月27日 (月)

オーストラリアの地形図-クイーンズランド州

連邦制をとるオーストラリアでは、地形図の製作業務も連邦と各州が分担している。連邦が受け持つ1:100 000以下の小縮尺図は以前紹介している(下注)ので、今回から州が独自に製作する地形図を見ていきたい。初回はクイーンズランド州だ。

*注 「オーストラリアの地形図-連邦1:100,000」「オーストラリアの地形図-連邦1:250,000ほか」参照

Blog_australia_statemap_qld
Blog_au_qld_map_catlg
クイーンズランド州
地形図カタログ第3版
(2002年)表紙

オーストラリア大陸の東北部を占めるクイーンズランド Queensland は、同国第2の面積をもつ大きな州だ。日本からの直行便が飛ぶ州都ブリスベン Brisbane(現地の発音はブリズベン)やケアンズ Cairns のような拠点都市、ゴールドコースト Gold Coast やグレートバリアリーフ Great Barrier Reef といった海洋リゾートはよく知られている。

2017年現在、同州の測量業務を担当しているのは、天然資源・鉱山省 Department of Natural Resources and Mines だ。官製図にはお堅いイメージがつきまといがちなので、オーストラリアのいくつかの州では愛称を付して親近感の演出に努めている。クイーンズランドの場合は、亜熱帯の陽光が降り注ぐイメージから「サンマップ Sunmap」だ。

残念なことに、紙地図(オフセット印刷図)の新規発行はすでに全面停止され、ウェブサイトでの画像提供に移されている。だが、そこでは現行図だけでなく、旧版図も扱われているので、まずは基礎知識として、かつての紙地図の体系に触れておきたい。

手元に2002年5月発行の地形図カタログ第3版がある。それによると、州全域をカバーする最大縮尺は1:100,000だ。しかし、大鑽井盆地 Great Artesian Basin が広がる内陸部については、正式図ではなく測量原図の青焼き dyeline copy でのみ供給可能としている。1:100,000でそれだから、1:50,000より大縮尺図の整備範囲は推して知るべしで、人口が張り付く南太平洋岸の限られたエリアで作成されているに過ぎない。

縮尺体系はさまざまで、1:10,000や古い1:31,680(半マイル図、図上1インチが実長1/2マイルを表す)も若干数見られるが、一定量の面数があるのは、1:25,000と1:50,000だ。

Blog_au_qld_map1
1:25,000地形図表紙の変遷(左から)
等高線地図 8064-32 Redlynch 1986年
写真図 9242-11 Toowoomba 1996年
等高線/写真図両面刷 8557-41 Bowen 2001年
デジタル等高線図 9242-11 Toowoomba 2010年

1:25,000 は州の整備計画のもとで製作されてきた。図郭は1:50,000のそれを縦横2等分しており、経度7分30秒、緯度7分30秒になる。ユニークなのは図葉によって地図の種類が異なることだ。製作年代に応じて、次に述べる3種のいずれかが入手できた。

1977年に標準地図の製作計画がスタートした当初は、等高線地図 Line Map、つまり一般的な地形図が作られていた。等高線間隔は5mまたは10mと、日本の1:25,000(10m間隔)と比べても遜色ない精度だが、その代わり、急傾斜地では主曲線を省略して計曲線のみにした。そのため、山がちの地域では地勢表現が大雑把になりがちだった。また、等高線に紅色を配したため、赤(朱色)や橙の道路記号とやや紛らわしい。その他の地図記号はおおむね連邦の1:100,000に準じていた。

Blog_au_qld_map_detail1
1:25,000地形図の例
大分水嶺の急斜面に臨むトゥーンバ市街
いずれも 9242-11 Toowoomba 図葉 (左)等高線地図 2010年 (右)写真地図 1996年
© The State of Queensland, 2017, License: CC-BY 3.0

次に登場したのが、写真地図またはオルソフォト地図 Image or Orthophoto Map だ。同州のそれは、カラー空中写真の上にUTMグリッド、等高線、交通網、行政界などの記号と地名を加えてあった。写真地図は、地表の様子がありのまま読み取れるという空中写真の利点を生かしつつ、写真には表現されない高度、境界、道路区分、地名といったデータを補うものだ。理想的な地図のように見えるが、実際に作業に用いるには、決して使いやすいものではない。情報量が多すぎて地表の様子を大掴みすることが難しく、また書込みが効かない(書込んだものが目立たない)からだ。

*注 オルソフォトは、地表の高度差、あるいは写真の中心からの距離によって生じる歪みを修整した正射投影画像のこと。

その反省もあったのだろう。1990年代に、等高線地図と写真地図を両面刷りする形式に切り替えられた。1枚で2種の地図を見比べられるから徳用版だ。なお、等高線地図の等高線の色が変えられ、主曲線が灰色、計曲線が茶色になった。識別しやすいかどうかは別にして、線幅(線の太さ)でなく色で区別するという仕様は、世界的にも珍しいものだ。

Blog_au_qld_map_detail2
1:25,000地形図の例 キュランダとバロン・フォールズ 8064-31 Kuranda 2004年
© The State of Queensland, 2017, License: CC-BY 3.0

Blog_au_qld_map_legend
等高線地図 凡例の一部。州作成図のなかでは最もカラフル

これに対して1:50,000 は、1:25,000整備計画以前に、軍の測量機関であった王立オーストラリア測量隊 Royal Australian Survey Corps が製作していたものだ。陸上交通路の重点防衛地域で実施された地図整備事業の成果物だが、一般にも供されていた。図郭は1:100,000のそれを縦横2等分した経度15分、緯度15分になる。1:25,000の製作範囲とおよそ重複しているので、縮尺は異なるものの、およそ1世代前の地表の状況を記録した地図と考えればいいだろう。

Blog_au_qld_map_detail3
1:50,000地形図の例
(左)港湾開発前の、マングローブが広がっていたブリスベン川河口
9543-3 Brisbane 1971年
(右)州境の峠を越える北海岸本線のループ線(スパイラル)
9441-2 Grevillia 1990年
© The State of Queensland, 2017, License: CC-BY 3.0

Blog_au_qld_map_index
地形図の図郭と付番方式
図郭は1:100,000(外側の黒の太枠)を縦横2等分すると1:50,000(赤枠)、同4等分すると1:25,000(黒の細枠)
図番は1:100,000に対して、1:50,000は枝番1桁(1~4)、1:25,000はそれに2桁目(1~4)を加える

クイーンズランドの旧版地形図は、広範なスキャニング作業により、現在はウェブサイトで自由に閲覧できるようになっている。

■参考サイト
クイーンズランド州旧版地形図 Historical topographic map series—Queensland
https://data.qld.gov.au/dataset/historical-topographic-map-series-queensland

使い方は次のとおりだ。

1.上記参考サイトの Data and resources(データおよびリソース)の見出しの下に列挙されているシリーズ名から見たいものを選択する。さまざまなシリーズが挙げられているが、代表的なものは以下の2種だ。

・25000 series 1965-2012—Queensland(=1:25,000多色刷等高線地図)
・25000 image series 1993–2003—Queensland(=1:25,000オルソフォト地図)

Blog_au_qld_map_hp1
旧版地形図シリーズをリストから選択

2.タイトルのリンクを選択すると上の画面になる。Download ボタンで、地形図の目録データ(csv形式)が取得できる。あるいは、Visualisation Preview ボタンで、同じ目録データがブラウザ上に表示される。

Blog_au_qld_map_hp2
目録データの取得

3.目録データの "jpg_linkage" の列で見たい図葉を選択し、(Windowsなら右クリックで)開き方を選択すると、高精度の地図画像が取得できる。

残念ながら、図葉選択に欠かせない索引図は周辺のページに見当たらなかった。次の QTopo(現行デジタル地図閲覧サイト)で、1:25,000の図郭を表示して確認するしかなさそうだ。

Blog_au_qld_map_hp3
目録データから画像にリンク

現行デジタル地図は QTopo と呼ばれるサイトで見ることができる。

■参考サイト
QTopo(現行デジタル地形図)
http://qtopo.dnrm.qld.gov.au/desktop/

Blog_au_qld_map_hp4
QTopo 初期画面

地図の閲覧では、地図画面左上のスケールバーを操作すれば拡大縮小ができる。また、画面上部の Print タブ、または左上の Click here to... を選択すると、印刷やPDF取得のオプションが見つかる。

1.Generated a Printable Map: 画面に表示した任意の範囲の地形図を印刷する。
2.Download a Standard MapSheet: 標準図郭の地形図PDFが取得できる。

また、各縮尺の地形図の図郭は次の方法で表示できる。

画面左下の Map Layers ロゴを選択する。左メニューに表示される Operational Layers を展開して、縮尺を選択する。1:100,000、1:50,000、1:25,000の選択肢があるが、画面にはいずれか1種しか表示できない。そのため、例えば1:25,000図郭なら、ベースマップをかなり拡大表示(表示縮尺 1:144,448 以上)しておく必要がある。

■参考サイト
天然資源・鉱山局 Department of Natural Resources and Mines
https://www.dnrm.qld.gov.au/

★本ブログ内の関連記事
 オーストラリアの地形図-連邦1:100,000
 オーストラリアの地形図-連邦1:250,000ほか
 オーストラリアの地形図-ニューサウスウェールズ州
 オーストラリアの地形図-南オーストラリア州
 オーストラリアの地形図-ノーザンテリトリー

«ウェールズの鉄道を訪ねて-ウェルシュ・ハイランド鉄道 IV

2017年5月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

BLOG PARTS


無料ブログはココログ